第二十七話 “Friction”
現在作っているシューティングレンジにカメラを向けさせた棗はいつものシューターらしい格好よりもさらに本格的な姿になり立っていた。
首にはOps-coreの電子イヤーマフをぶら下げ、胸には愛用しているアジライトのHXハーネス リーパーリグ と言うキャリアそこへ予備のM1Aのマガジン三本とTAC ULTRAのマガジン三本を収納していた。
腰に巻くベルトからはシューティンググローブとして多くのシューターが使用するメカニクスウェアのワークグローブがクリップで止められ揺れている。
「やっぱ こうフル装備だと気分がいいな。アタシらしさを取り戻した感じだ。」
「棗⋯⋯あんた、一体どんな生活してんのよ⋯⋯。」
呆れた顔をした汐路がつぶやく。
「あん? 別にごく普通の生活だぜ?昼間でゴロゴロ寝て起きたらサバゲーフィールドやレンジでエアガンぶっぱなして夜はバーで可愛い子ちゃんの相手をして家に帰ったら華音とマコが気絶するまでレズる毎日だ。」
「ぜんっぜん普通じゃないわよソレ。」
「汐路ちゃん、なっちゃんが昼はライフル担いでターゲットを狙撃して夜はヤクを運ぶとか言わないだけマシだと思うよ?まぁ日本でそんなクライム・ムービーみたいな生活は出来ないと思うけど。」
華音もまた首には電子イヤーマフをぶら下げ、チェストリグと言う軽装の棗とは違いプレートキャリアを装備しやはり予備のマガジンを胸のポーチに入れていた。
「華音アンタも大概だよね。その人を殺してなきゃ普通なんて感想出てこないわよ?」
:まぁ 棗なら日本でもワンチャン、何処からか22口径ライフルとか調達してきてビルの屋上でライフル組み立ててそうではある。
:後半のバーで女の子の相手して、家でレズるは棗らしいよな。
:棗らしいが普通かと言われたらなぁ。
「あん?嫁と暮らしてりゃ毎日ファックするもんだろ?あぁ、てめぇらは右手がワイフだったか?」
:最近はシリコン製のものがあってだな⋯⋯。
:いや、俺は既婚者だぞ。
:先日、嫁が出ていったわ。エアガン・モデルガンに金使いすぎた。
:てか、イヤーマフOps-coreって金持ちすぎんだろ。ガチの特殊部隊じゃあるまいし。
:シューターレベルならハワードレイトやウォーカーズでいいだろ。
「なっ⋯⋯なっちゃん、そ、そういう事 恥ずかしい。」
棗よりさらに身軽なマコは、普段のシューター姿で腰には不釣り合いなマカロニ・ウェスタンにでてきそうなレザーのベルトを巻き6発の.357マグナムが取り付けられていた。
もちろんマコもイヤーマフを身に着けてはいるし汐路もいわずもがなだ。
但し、汐路だけはリスナーの言う、2万円程度で買えるシューターに人気のウォーカーズの電子イヤーマフだ。
「言わねぇでもそんなもんわかるだろガキじゃァねぇんだ。それともアタシがプラトニックラブを貫いているようにでも見えんのか?」
「そっ⋯⋯ソレはないよね。なっちゃん普段から⋯⋯げっ下品だし⋯⋯。」
「そういうこった。まぁアタシらのファック事情なんざどうでもいい。今から新しいオモチャの慣らしを始めるぜ。何千発と撃って癖もなにもかも知り尽くした銃こそが真の相棒だからな。今回は各種FMJを山ほど買ってある。汐路はBB弾だがソースのco2ボンベは50本だ。ああ、言い忘れたが汐路の使う予定の銃も既に買ってあるぞ。」
:はやっ もう買ってあるのか。
:なになに?何を買ったの?
「汐路に持たせるのは|S&W《スミス&ウェッソン》| Performance Center M327 TRR8だ。」
:パフォーマンスセンター?スミス&ウェッソンとは違うの?
「スミス&ウェッソンパフォーマンスセンターっつうのはスミス&ウェッソンの中でも選りすぐりの高品質部品を使った銃を扱ってるラインだな。
だが、笑えることにこのTRR8は安い銃がポリマーの箱に入って販売されてるっつーのに安っぽいボール紙の箱で販売されてんだぜ。」
:え?マジで?
:まぁ 実際の所あのポリマーの箱は邪魔らしいしな。
:あのポリマー製のケースで保管する奴はいないもんな。
「そして今アタシの後ろに見えるのが現在作ってるレンジだ。予定では横並びにアタシら4人が立ち練習できる程度の幅とライフルのゼロインの為に100メートルの距離までターゲットを設置できるするようにする。」
:随分とデカいのを作ろうとしてんな。
:まだ、がっつり木が生えてるけどどうするの?
「そりゃ、切り倒すだろ。そこはまぁポータブル電源と電気式のちっこいチェーンソーで何とかする予定だぞ。」
さっそく試射を始めようとする棗達だったが再びラスティが息を切らせ走り寄ってきた。
昼間とは違いかなり切迫した表情に棗は普段の軽薄な態度ではなく真面目な顔になった。
「棗、お願いだ。助けてくれ。」
「どうしたラスティ。何があった?」
「棗達以外の異世界人がきて、食料で揉めてるんだ。棗達みたいな力を持った奴相手になんかしたらグレッグが死んじまうよ。」
「ちっ まだ生きてたのか。予想よりしぶといな。とっくにモンスターの糞にでもなっちまったと思ってたんだが。
ラスティ、何人だ?一人二人ってんじゃないんだろ?」
「5人……。棗達でも無理?」
5人という人数に棗はチラリと華音をマコに目を向けた。
(ちっ さすがの華音も人を撃つなんてのはまだできねぇ、あたりまえだがマコも無理だ……。)
華音はこの世界にきて初日に銃口をキャンパーたちに向けてはいるが実際撃てたかというと撃てなかっただろう。
至近距離ということもありC.A.Rのスタンスをとったがしっかりとトレーニングし身に着けているかと言われたら答えはノーだ。
ならなぜ不慣れなC.A.Rで銃を構えたか。それはわかりやすい示威だったからだ。
棗もそれを理解している。
棗達の使用するシューターの基本アイソセレス・スタンスは銃を知らない人間からは素人っぽいと誤解されがちだ。
だからこそ玄人っぽく見えるC.A.Rを見せ銃口を向けたのだ。
棗ならばまず一人を問答無用で容赦なく撃った後威嚇する。
撃つ気があるぞではなく、容赦しないぞというテキサス流のドクトリンによるものだ。
テキサスはキャッスル・ドクトリンが根強くスタンド・ユア・グラウンド法というのがある。
家の敷地にはWe don't call 911(うちは警察を呼ばない)という自分で解決するという看板が立っているのを目にするほどだ。
「ちっ マコ、華音。てめぇらはまだ人を撃てねぇ。アタシもてめぇらに人を撃たせたくはねぇ。アタシ一人で行ってくるが……。
もしもの時はてめぇらは極力セーフハウスからでねぇ生活をしろ。アタシがくたばったら今ある弾薬がすべてなんだからよ。」
マコが棗の言葉を聞き、何かを覚悟した顔で棗の袖を掴んだ。
「わっ……私も一緒に……いく。う、撃てないかもしれない……。
で、でもなっちゃん居ないのはもっと無理……。」
「そうだよ、なっちゃん、私もなっちゃんを私たちの英雄なんかにしないよ。
なっちゃんは私たちの頼れるリーダーのままでいてもらうんだから。」
二人の言葉に棗はそっと目を閉じ覚悟を決めた。
「汐路、そんなわけだ。てめぇは「ついてくる」なんて言わねぇだろうし付いてこられても邪魔だ。
アタシらがくたばった後は自分で何とかしろ。フリマの能力の運用の基本はもう理解できただろ?
あとは頭は悪くねぇんだ自分で応用しろ。」
「死ぬつもり?」
「馬鹿か?死にてぇ奴なんざいねぇよ。アタシも死ぬつもりはねぇ万が一っていったろ?」
:棗達死なないよな?
:異世界生活始まって三日目でなんでいきなり最終回みたいになってるの…。
:三人とも覚悟きまりすぎじゃない? 本当に日本生まれ?
「おっと、配信したまんまだったな。 ま、そんなわけだ。今回ばかりは戦闘は配信しねぇ。
同じ人間同士の戦いになるかもしんねぇからな。」




