The Cost of a Meal
コーンブレッドの焼ける香りとプルドポークのスパイスと脂の香りに棗はうっすらと肌に汗を滲ませながらマコのもとにやってきた。
「んまそう。さすがマコ。マコの飯は最高だぞ。」
「これマコちゃんが一人で作ったの? すごい。」
ハリウッド映画の中でしか見たことのないような本格的なアメリカンな朝食に汐路が驚きの声をあげた。
「味も保証するぜ。なんたってマコは喫茶店の調理担当だ。」
「へぇ。でも喫茶店なんかどこも回転率を早めるためにパウチばかりだと思ってたけど本格的なんだね。」
「うんうん。マコちゃんの料理はどれも本格的だよ。私はお菓子作りはできるけど料理は一般的な物しか作れないけどね。それだってマコちゃんの方がおいしいけど。」
「さ、せっかくマコが作ってくれた飯だ。プルドポークが冷めねぇうちに食おうぜ。」
四人はテーブルに付き、軽く身体を動かした後の空腹を満たすように皿へ手を伸ばした
「はぁ 食った食った。 もう一品くらいあっても良かったが食い過ぎも良くねぇからな。」
手の甲でプルドポークの脂に塗れた唇を拭った棗が、マコの淹れたドリップコーヒーを手にそう口にすると汐路が信じられないもの見たような顔で棗を見つめる。
「嘘でしょ?棗あんた私の三倍は食べてるわよ。」
「なっちゃんは大食いだからねぇ。ほら、なっちゃんお肉の欠片が頬に付いてるよ。」
棗の頬についた肉片をとる華音が、棗の大食いを知らない汐路に声をかける。
「それより汐路ちゃんが少食すぎだと思うけど?ナチョスとコーンブレッド一つ、プルドポークがほんの少しにハッシュドブラウン一つなんて。」
マコや華音も汐路の倍は食べている。
こういったアウトドア時の棗の張り切りは、ちゃんと食べないと身体が持たないことを知っているし元々の筋肉量が一般的な汐路とは違うのだ。
実際のところ、マコは汐路よりも力も体力もあった。
ただ、その性格ゆえに力を発揮しきれなかったり緊張などで無駄な体力を使用しているだけだ。
棗に関してはその身体は深夜の通販番組に出てくる海外の女性インストラクターのような引き締まった鍛えられた身体だった。
「たっ 足りなかったら⋯⋯つっつくるから⋯⋯。」
マコが汐路をチラリと見たあと棗の顔をじっと見つめる。
「ま、アタシは昼飯を少し豪華にしてくれたらいいぜ。チリコンカーンが食いてぇ。」
「マコちゃん、トルティーヤ焼いてタコスかケサディーヤとかラップサンドでもたくさん作ったら? 余っても間食でなっちゃんが食べるだろうし。」
昼までの作業の流れを話し合い再び棗達はシューティングレンジを作りに戻り、マコは使った調理器具をタープテントの中に隠すように設置されたセーフハウスの扉の中へ運んでいく。
マコは現在ウェスタン衣装でロングスカートだ。
土木作業を手伝うには向かない。そのためいつもの身軽なシューターらしい格好に着替えるとともにしっかりと護身用のXDを身に着けた。
隣には華音のXD、それと棗のTAC ULTRAが置かれている。
村の中とはいえ外れであり更には森の中へと作業で入るため、護身用の銃は必須のためマコは棗と華音の銃とベルトをとりもっていく。
「なっ なっちゃん。こっ これ。 村の中だけど、もっ⋯⋯森に近いから。」
「おっ サンキューな。」
受け取ったベルトを腰に巻き、ホルスターから伸びるズレ防止のベルトを右足の太ももに巻き華音の銃を手に持ったまま何かを期待し立っているマコに目を向けた。
「ったく。」
棗は引き寄せ頬にキスをした。
「good girl。マコ。」
あまりいい表現とは言えない軍人スラングを口する棗。
棗もボブが一度だけ口にした言葉を何気なくマコに囁いた。
マコはにこりと棗に微笑み、華音の銃を持ち駆けていく。
「ったく、甘えん坊で可愛いやつだぜ。 早く部屋数を増やすか汐路の家を作らねぇとな。欲求不満になっちまう。」
棗がピッケルを再び振るい昼には10メートルという至近距離でのハンドガンを二名までは練習できるほどの範囲を掘り起こすことができた。
「棗達、ほんとに体力あるわね。」
早々に力尽きた汐路が折り畳みの椅子に座り休憩をしながら、掘り起こした長さ10メートル幅7メートル程の深さ50センチの窪みにザルで分けた石を敷き詰めている棗と華音を見てそう呟く。
「しっ……汐路ちゃん、おっ…お料理得意? わっ私と変わる?」
グリルで昼食となるトルティーヤを焼き、チリコンカーンを作るマコが提案する。
4人分の……棗の大食いを考えればそれ以上の量を一人で作るマコだが決して料理だけをしているわけではない。
朝食後、調理器具を洗い室内に乱雑に置かれた段ボールなどのゴミをまとめ処分し、一度棗達の土木作業に合流し手伝い時間を見て昼食つくりを始めている。
それを指示されることもなく時間管理を自分で行い行動していた。
「そういって貰えるのは嬉しいけど正直マコちゃんのかわりはできないかなぁ。体力は無いけどまだ一つのことをやってる方が楽かも。」
マコと汐路が話していると、チリコンカーンの匂いに引き寄せられ家のようにラスティがフラフラと近づいてくる。
「らっ……ラスティちゃん? どっ……どうしたの?」
「あー うん。なんていうかさ良い匂いしててついついね。ただちょっと、こういうことはあんまり言いたくないんだけど。」
ラスティは言いにくそうに切り出した。
ここは開拓村で物資が潤沢にあるわけでもない。まだ畑すらない村なのだ。
この開拓村にいる村人はここから約一日ほどの距離の街から開拓をすることで税を免除されるということでやってきている移住者たちだった。
そしてそんな食い詰めた移住者たちはもとより財産など少ない者たちであり、領主からの支援物資で共同生活している。
つまりはみな腹を空かせている中で美味しそうな匂いはかなりきついということだった。
「それは拙いかもね。 マコちゃん、棗を呼んできたほうが良いんじゃない?」
汐路がそういい棗のもとに行こうとする。
だが、マコはラスティに声をかける。
「らっ……ラスティちゃんは、わっ私達が別の……世界から来たの、しっ知っているよね? わっ私たちはこの世界のお金をもってない。
だっだから魔石を買うお金もない。魔石かお金で……格安でなら……なっ なっちゃんも納得するはず。」
「うーん、魔石かぁ。」
「あ、あとは私達は大工 必要。 家を建てるの手伝って欲しい。かっ 開拓が先だから前払いで……食料を提供……する。手が空いたら、わっ私たちの家を建てて欲しい。
たっ たぶんなっちゃん……納得するラインがここまでだと思う。 なっ……なっちゃんは同情で……動かない。人の心無い。」
恋人であるマコからの辛辣な評価を耳にした汐路は、やはりマコちゃんからでも棗はそういう風に見えるのかと呆れた。
「おいおい、マコ。人の心がねぇは心外だぜ? あたしにだってちゃんとある。
ただアタシはロジックとドクトリンに従い動いているだけだ。感情に流されないようにな。」
汗に塗れた棗と何故かほほを染めた華音がいつの間にかマコと汐路の側に立っていた。
「そうそう、なっちゃんはただクズで自己中でモラルがないだけだよ。」
華音の言葉に汐路は「それって人の心無いんじゃない?」と呟きなぜ二人が棗と付き合っているのか不思議に思った。
確かに棗にはどこか惹きつけられる魅力も存在する。自信あふれた佇まいに目を引く容姿。
身をもって体験しているが身内認定した時のきちんと気遣いをしてくれるところ等だ。
だがそれを差し引き、乱暴な口調やモラルの無さ等マイナスな部分が多すぎた。
「ま、おおむねアタシはマコの意見に同意だ。アタシらも別に食料が無限に湧いてくるわけじゃぁねぇ。
アタシの能力を使って手に入れてはいるがきちんと対価を払って手に入れているんだ。
今のところ『配信』っつーマコの能力でアタシたちの生活を元の世界に晒しおひねりをもらって元の世界の金を手に入れているが何時までもそれが続くとは限らねぇからな。
飽きられたらそこでおしまいだ。 とはいえ、アタシも鬼じゃねぇ 困ってんなら助けてやるつもりはあるぜ? それもグレッグやラスティのように戦闘ができるわけでもねぇ。
ただの農民や大工でもできる簡単で時間もさほど取られねぇ作業でだ。」
「棗、何をさせる気?」
「あん? んーなの簡単だ。汐路てめぇの能力忘れたのか? フリマだよフリマ。余った時間に何でも良いから汐路のもとに持ってきてもらうだけだ。
それこそ大工が家を建てる時に出た端材でもなんでもいいんだ。 そいつらが持ってきたものを売れそうな金額で売る。
一割かそこらをアタシらの手数料で貰い残りの9割分を食料だのなんだに変えて渡す。簡単だろ?それより汐路もサハギンの鱗販売してただろ?どうなったんだ?」
「そういえばそうだったね。」
汐路は気になり能力を使いフリマサイトを開く。
出品したサハギンの鱗は磨いた物も磨いてない物も既に完売していた。出品した鱗の枚数は30枚。総額7万円となっていた。
「棗……売れてる……完売してるよ。7万……7万も手に入ってる。」
「だろ? 配信でガチ異世界を晒し証明されてるんだ。日本いやアメリカですら手に入れられないレアアイテムだぞ?
希少価値だけで言うならあの磨いた鱗は汐路の値付けの3000円なんかよりもっとあるはずだ。ま、レアなだけでひょっとしたら綺麗なだけで価値はねぇかもしれねぇがな。
これから先、手に入れるもんの中にゃぁ技術のブレイクスルーが起きるようなもんもあるかもしんねぇ。
地球のマーケットに流れた結果、日本で……地球でどんな影響がでるかはアタシらにはわからねぇ。 アタシも華音もマコもおそらく汐路も何らかの専門知識があるわけじゃぁねぇからな。」
「それって……少し無責任じゃない?」
「そうか? アタシらは提供するだけだ。運用も管理も手に入れた人間の責任だろ? 年間何万も死者がでる銃なんざ誰が責任をとる? 初めて銃を開発した人間か? 火薬を発見した人間か? 銃を製造しているメーカーか? それとも販売店か? 違うだろ? 銃を手にしトリガーを引いた奴が責任をとる。そういうもんだろ?」
極論ともいえる棗の言葉に汐路はどう答えていいのかわからなかった。
なかなか物語が進みませんね。
どうしても既に決まっている物語の結末に向かう上で欠かせないものがいくつかあるので。




