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トリガーハッピーは異世界でいきる  作者: stupidog
Watching the Line They Crossed
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第二十三話 “A Quiet Morning”


 異世界に来て三日目の朝、誰よりも早く目を覚ました棗は、寝袋から這い出した。

 変わり映えしないオリーブドラブのカーゴパンツと、灰色のクロップドタンクトップ。それらを身につけると背筋を大きく伸ばし、部屋の隅に置かれたチェストリグからタバコとライターを取り出した。


 汐路はともかく、マコと華音は非喫煙者だ。外で吸おうと静かに部屋を抜け出そうとしたが、寝袋から伸びてきた手が棗の裾を掴んだ。


 「なっ……なっちゃん、どこいくの?」


 マコだった。棗は声を落とし、優しく囁く。


「ん? 寝ぼけてんのか。外でタバコ吸ってくるだけだ。どこへも行かねぇよ。まだ早い、もう少し寝てな」


 しゃがみこみ、マコの頭をそっとなでる。

 マコは猫のように目を細め、満足そうに小さく息を漏らすと、そのまま再び寝息を立て始めた。

 その様子をじっと見つめたあと、棗は部屋を出る。


 外はまだ日が昇りきっていないというのに、村の中央には開拓作業の準備をする村人たちが集まっていた。

 棗がタバコを咥え、火をつけて紫煙を吐き出すと、人影が近づいてくる。グレッグたちだった。


 「棗、なんだその格好は……」


 タンクトップから大胆に肌を露出させた彼女の姿に、グレッグは驚きを隠せない様子で声をかける。


 「あん? 変か? まぁ夏とはいえ早朝だ、少し肌寒いかもしれねぇが、アタシは年中こんなもんだぜ」


 「いや……そうじゃなくて、その肌の露出だ。それにその模様や絵は何なんだ」


 「ただのタトゥーだよ。この国にゃタトゥー文化はねぇのか?」


 「無いな。南の蛮族が全身に魔術印を描くという話は聞いたことがあるが……」


 「ふーん。まぁアタシの世界でも、タトゥーはもともと呪い(まじない)だった気がするな。

 魔力だの魔法だのが存在しねぇ世界じゃぁ、ただの模様に過ぎねぇが。

 ちなみにアタシの国じゃ、昔は罪人の印だったから、あまり受け入れられてねぇ文化だった。

 こうして墨を入れてんのは、アタシみてぇなマトモじゃねぇ奴らばかりだったぜ」


 そう言い切り、棗は短くなったタバコを素手で握りつぶして消した。


 「マトモじゃない、と自分で言うのか」


 「自覚があるからな。アタシは世界一平和ボケした脳天気な国の生まれだが、荒事に特化してるどころか、『銃』なんていう人をシステマチックに殺す武器に魅せられちまってっからよ。

 こんなもんは本来、あっちゃならねぇもんだ。

 男も女も、老人もガキも、兵士も市民も――分け隔てなく殺すシステムだぜ」


「……それが分かっていて、なぜ?」


 「そりゃ、憧れたからだよ。アタシがまだ孤独なガキだった頃、独りぼっちのクリスマスに、硝煙の香りのするサンタクロースに会ったんだ」


 棗は、何が面白いのかククッと喉を鳴らした。


「ぶっちゃけると、アタシの両親は親としちゃ失格でな。

アタシを放置して仕事に明け暮れるワーカーホリックの母親と、それをいいことに浮気しまくってた父親だ。

 アタシが育ったステイツじゃ、クリスマスを家族と過ごさないガキなんてのは、酷く憐れまれるか驚かれる存在なんだぜ?」


 そこまで言うと、彼女は懐かしむように目を細め、パンと手を叩いた。


「だが、そんなアタシの前に現れたんだよ。『何してるんだ?』って聞きに来た、最高にクールな元海兵隊のサンタクロースがな。

 要するに、ボッチで憐れなガキだったアタシは、銃を扱うソルジャーと知り合い、そいつに憧れたって話さ。

 この世界にだってあるだろ? モンスターに襲われたところを助けられ剣士や魔法使いに憧れる……そんなありふれた話だ」


 話が終わる頃、セーフハウスの扉が開いた。

 湯気の立つステンカップを持つ華音。買ったばかりのマカロニ・ウェスタン風の衣装を纏ったマコ。そして、まだ眠そうに目をこする汐路が出てくる。


 「なっちゃんおはよー。あれ? 私たちに内緒で逢瀬? もしかして浮気かな?」


 「かっ、華音ちゃん! そっ、それは……ないよぉ。でも……」


 棗が重度の女好き(ビアン)であることを知っている華音は、ニヤニヤと笑いながら冷やかす。

マコは冗談だと分かっていても、不安げに棗を見つめた。


 「あん? アタシが男と逢い引きするわけねぇだろ。ほらマコ、そんな顔すんな。こっち来い」


 呼び寄せて抱きしめ、おでこに軽くキスを落とす。


 「ヤニ吸ってたら偶然会っただけだ。心配か?」


 「まさかね。なっちゃんは女好きだもん。他の女の子を口説くことはあっても、男の人はあり得ないでしょ。なっちゃんばっかりずるい、ほらマコちゃん。私ともギュッてしよ?」


 華音が両手を広げると、マコはチラリと棗の顔を伺った。棗が頷くのを確認してから、マコは華音の胸に飛び込んだ。


 「あー……なんというか。仲がいいんだな、お前ら」


 グレッグが呆れたように、あるいは感心したように呟く。


 「そりゃ、嫁と仲悪いわけねぇだろ? ああ、そうだ。アタシらはこれから、あの辺りに拠点を作る予定だ。問題ねぇよな?」


 棗が指さしたのは、開拓村の西側に広がる森だった。村は東に向かって開拓を進めているため、西側に射撃レンジを作っても、将来的に街のど真ん中に銃声が響くような事態にはならない。


 「ああ、開拓は東向きだからな。あっちなら構わん」


 東には大きな都市があり、人口増加に伴う入植計画が進んでいた。


 「数日は拠点作りに専念する。だが、またオークだのが現れたら言いな。手を貸してやるぜ」


 「ああ、あんたたちがいてくれりゃ助かる。……むしろ、俺たちがお払い箱になっちまうかもしれんがな」


 「それはねぇだろ。アタシらはこの世界のことを何も知らねぇ。できるのは殺すことだけだ。シカリオ(暗殺者)や掃除屋と大差ねぇアタシらに、信用なんてねぇよ。」


 グレッグたちと短い言葉を交わしたあと、棗は華音から受け取った冷めたコーヒーを口にした。


 「さて、拠点作りを始めるぜ」


 棗は能力でペンと紙を購入し、サラサラとフリーハンドで簡単な図面を描いて三人に見せた。


 「まず華音と汐路で休憩場所のテントを立てる。その間にマコは朝食の用意だ。アタシは力仕事を担当する」


 「なっちゃん、この図面……」


 華音はその図面を見て、頭痛を覚えた。

 全長100メートル、幅20メートルのシューティングレンジ。

さらに地下一階、地上二階建ての木造家屋。どう考えても素人の女性四人で作れる規模ではない。


 「どうした、華音」


 「なっちゃん、私たち家なんて作れないよ。経験ないもん」


 「別に、家の部分はアタシらがやるわけじゃねぇそんなのは後で大工に任せる。

今必要なのはレンジと休憩用のテントだ。寝泊まりはセーフハウスでできるからな。……そういえば、昨日のスパチャはいくらになった?」


 「あっ、うん。今確認するね」


 促されたマコが能力を起動する。……が、そのまま虚空を見つめたまま固まってしまった。


 「マコ? どうした」


 「なっ、なっ……なっちゃん! こっ、こっ……」


 「鶏の真似か? じゃなくて、どうしたんだ。まさか垢バンでも食らったか?」


 昨日の投げ銭が今日入る算段で、既にファッションショーなどに散財してしまっている。もし収益が無効化されていたら致命的だ。


 「う……ううん。すごい大金が……」


 「いくらだ? 300万くらいか?」


 棗の問いに、マコは首を大きく横に振り、震える声で答えた。


「815万円……!」


 さすがの棗も目を見開き、口をパクパクとさせた。対照的に、華音だけがニコニコと微笑んでいる。


 「……まさか、あのジジイ、そんなにぶっ込んだのかよ」


 「え? おじいちゃんが投げたのは700万だよ? 残りの115万はリスナーさんたち。ファッションショー、かなり盛り上がってたもん。特にマコちゃんとなっちゃん。やっぱり『意外性』には勝てないなぁ」


 「はん。……華音、マコ。ファッションショーなんざ、もう二度とやらねぇからな。

アタシらのチャンネルは『ガン&シューティング』だ。お色気で金を釣るのは趣味じゃぇねぇ。」


 棗は毒づきながらも、どこか吹っ切れたような顔で続けた。


 「まあいい。これでセーフハウスに洗濯機や冷蔵庫も置けるし、新装備も買える。昼頃に、購入と試射の配信でもぶちかますかね」


 タープテントが華音と汐路によって張られ、その正面には棗が新規に購入した金属製の大型炭焼きグリルが設置された。

マコはセーフハウスから、食器や調理器具の入ったバックパックを運び出し、朝食の準備を始めていく。


 「なっちゃん、ドリトス貰うね。」


 おやつとして持ってきていたドリトスをいくつか抱えたマコに棗は、アメリカ育ちということもありマコの用意する朝食の一品がなんなのか予想がついた。


 「おう、良いぜ。ドリトス・ナチョスでも作るのか?」


 「うん 今日はドリトス・ナチョスとコーンブレッド、プルドポークを作る予定。 ナイルのネットスーパーで買ってほしい材料はそこの紙にメモしておいたよ。」


 朝食のメニューは棗の居たアメリカ南部の定番料理ばかりだ。

 懐かしい定番料理の登場に思わず棗は口笛を吹き喜びをあらわにする。


 「懐かしいな。日本じゃコーンブレッドなんざ滅多に目にかからねぇ。ホロホロのプルドポークにもな。 マコ、ついでだハッシュドブラウンも頼めるか?」


 「うん。」


 マコの残したメモを基に棗が材料をかい新たに買った4人掛けの折り畳みテーブルの上に置く。


 「さて、極上の朝食の前に一仕事するか。汐路、華音手が空いたならてめぇらもコッチだ。」


 「はいはい、でもマコちゃんを手伝わなくていいの?」


 「あん?今からやる作業は力仕事だし量も膨大だ。マコにゃ厳しいからなお前らはコッチだよ。」


 「え?私も力仕事?」


 汐路が驚き声をあげる。


 「ああ、汐路が何ができて何ができるかアタシは知らねぇからな。アタシみてぇなバカでもできる力仕事をやってもらう。」


 どさりと二人の前に置かれたのは大きなザルとピッケルに土木用シャベル等だ


 「こいつで西に120メートル幅20メートル深さ50センチで整地していくぞ。アタシや華音はともかく汐路とマコはこの世界で生きるにゃ体力がねぇいいトレーニングにでもなるだろ?」

  

 棗がピッケルを振るい、華音がソレをシャベルで掘り起こし用意された│一輪車ネコに乗せ汐路が少し離れた位置でそれをザルに移し土と石へと分けていく。

 そんな三人の作業をマコは調理をしながらチラチラと伺っていた。

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