第二十一話 We’re Still Alive
「生存報告」というサブタイトルのついた配信予定時刻。
画面が切り替わるのを待ちわびていたリスナーの目に飛び込んできたのは、棗ではなく、一人でマンションの一室のような場所に座る汐路の姿だった。
「あー……えっと。ガンフリーク・シスターズのおまけの、汐路です。生きてます。……ねぇちょっと棗! 私、配信なんてしたことないんだってば。どうしたらいいの?」
「あー? んなもん適当でいいんだよ適当で。とりあえず、汐路のフリマに出す予定のもんでも見せて繋いでおけ。その間にこっちも支度が終わっからよ」
画角の外から棗のガサツな声が聞こえる。「支度」とは何だろうとリスナーたちが首を傾げる中、古参たちは「また棗が思いつきでバカなことを始めようとしているな」と察していた。
「そ、そう? じゃあとりあえず、みんな無事ってことで……細かいことは後で棗たちに聞いてね?」
: どうせ棗がまた思いつきで何かやらかそうとしてんだろw
: ていうか汐路ちゃん、服が新しくなってるな。
: 泥まみれじゃない。お風呂入ったのか?
「あ、うん。魔石を手に入れたから、お風呂にも入れるようになったし、電気もつくようになったの。文明の利器、最高……」
: ってことは、華音ちゃんの能力の中か。
: 女子の部屋……という割には、色気がないな。
「そう、華音ちゃんの能力の中だよ。ちなみにカメラの外は、今とんでもないことになってるからね? 四人で六畳一間に住んでるから……。で、私の『フリマ』の能力もそろそろ解禁します。一品目はこれ。――磨き上げたサハギンの鱗」
汐路がカメラに向けて差し出したのは、虹色に輝くサハギンの硬鱗だった。
「結構硬くて、磨くのに一日がかりだったけど……どうかな? 綺麗だし丈夫だよ。磨いたやつは三千円、磨いてない方は一枚千円で出す予定。配信が終わったらフリマにアップするから、誰か買って欲しいな。……今のところ、生活費全部なっちゃんたちに出してもらってるから。そろそろ自分で、服や食べ物代くらいは稼がないと、ね?」
: たぶん秒で完売するぞそれ。
: ほしい。異世界の素材とかロマンの塊。
: 他には何か売るの?
「今のところはこれだけかな。そういえば、オークやゴブリンの集団と戦ったんだけど……凄かったよ。私は安全なところで震えて見てるだけだったけど」
: それはしゃーない。銃持ってるからって即座に戦える棗たちがおかしい。
: 人型のゴブリンを初っ端から撃ち殺してるしな。
: 何気に華音ちゃんやマコちゃんも、平気な顔でトリガー引いてるのが驚きだよ。
「あー、それか。……多分だが、この世界に来る時、アタシらは『心』のどこかを弄られてるきがする。アタシはともかく、マコなら本来は卒倒して動けなくなるはずだからな。ま、躊躇せず引き金が引けるってのは、サバイバルにゃ好都合だがな」
画面の外から、再び棗の声が割り込む。
: 棗だけは弄られてなさそうw
: コイツは平然と歌舞伎町でも銃を乱射しそうな雰囲気ある。
「どうだろうな? まぁ、アタシは日本にいた頃からトリガーを引くのに躊躇はしねぇよ。というかテキサス育ちだぞ? 銃社会で生きてりゃ、いざって時に躊躇するわけねぇだろ。もたもたしてたら死ぬか酷い目に合うか、どっちかしかない場所なんだぜ、あそこは」
: 流石にテキサスでもそれは風評被害だろw
: まぁメキシコ近いし……。
: これだから南部の野蛮人は……。
「あ、棗たちが支度終わったみたい。私はそろそろ退場しようかな。配信も慣れてないし、あの三人みたいに美人でもないからね」
汐路は眼球型のカメラの向こう側で、三人が準備を終えたのを確認して立ち上がった。
: 汐路ちゃんも十分可愛いぞ!
: 俺の「お嫁さん検定」ギリギリ合格ってとこやな。
: なんでお前そんな上から目線なんだよ。
「こっからはアタシらの番だ。……汐路を見ての通り、風呂に入って着替えも買ったんだ。で、マコがアタシや華音にも『お洒落しろ』ってうるさくてな。マコ・プロデュースのファッションショーだ。誰から見たい?」
: お洒落といえば華音ちゃんか?
: マコちゃんセレクトなら安心感あるわ。
: 俺はマコちゃんの乳が強調された服が見たい(直球)
: マコちゃんがそんな服自ら選ぶわけ……。
「よし、じゃあ言い出しっぺのマコから行け」
棗の声に促され、マカロニ・ウェスタン風の衣装に身を包んだマコが、照れながらカメラの前に現れた。
黒のテンガロンハットにはシルバーのバッファロースカル。生成りのブラウスに萌葱色のロングスカートを合わせ、ウエストを茶色のレザーコルセットで絞り込んでいる。そのせいで、元々豊かな胸部がさらに強調される形になっていた。
: うおおおおお! おっぱい! おっぱい!
: まさかのマカロニ・ウェスタン!
: そういえばマコちゃん、ウェスタン村の住人だったな。
: UbertiのModel3を欲しがってたもんなぁ。
: Uberti? 初めて聞いたわ。
: イタリアのメーカーだよ。古銃のレプリカで有名。Colt Navyのコピーとか。
「も、モデル3は……スミス&ウェッソンの……リ、リボルバーで……中折れ式がカッコイイんです。……スコフィールドって名前の方が、わ、分かる人いるかも。ワイアット・アープの愛銃です」
: すまん、ワイアット・アープも知らん。誰?
: 『OK牧場の決闘』の保安官だよ。有名な実在の人物。
「つ、次は……なっちゃんか、華音ちゃんの番だよっ」
「アタシはオチだ。先に華音行け。アタシのお洒落なんて誰も期待してねぇだろ」
「そんなことないと思うけどなぁ。すっごく似合ってるのに」
華音の楽しげな声に、リスナーの期待が高まる。
: 華音ちゃんは何だろう。お嬢様風のワンピ?
: 普段着姿ってあんまり見ないから楽しみ。
「どうかな? こういう格好を見せるのは、初めてだよね」
現れた華音は、落ち着いた濃紺の生地に大輪の牡丹がプリントされた、艶やかな浴衣姿だった。
「日本は夏祭りの時期だしね」
: 浴衣!? 予想外すぎる。
: マコちゃんに合わせたコスプレ系が来るかと……。
「あはは。それでも良かったんだけど、なっちゃんが浴衣に興奮してたから。テキサス育ちで中身はアメリカ人だから、日本の文化に憧れがあるんだって」
「そりゃそうだろ。一度やってみたかったんだよ、『浴衣を無理やり脱がす』ってやつをよぉ」
: 発言がもう完全にエロ親父なんよ。
: 棗を早くなんとかしないと。
「じゃあ、トリはなっちゃんだね」
「へーへー。似合ってねぇって言うなよ? マコに泣きつかれて仕方なく着てるんだからな」
不満げな声の後、現れたのは――ド派手なトリコーンハットを被り、左目にはレザーの眼帯。レースと刺繍が見事なヴィクトリアン・ドレスを纏った棗だった。
: は? 予想外すぎて草。
: てか普通に美人だから似合ってるのが腹立つ。
: これで口が悪くなければ嫁にしたい。
: 銃メインの古参だけど、これはこれでアリだな……。
「あー……もっと酷評されるかと思ったぜ。アタシは胸もねぇしこういう格好は苦手だ」
棗はヴィクトリアン・ドレスを着たまま、ドカッと床に座り込んだ。膝を立て、股を広げ、壁に背を預ける。その気怠げな態度は、豪華なドレスと絶望的なまでにミスマッチだった。
「取り敢えず、村にはすんなり入れた。作りかけの開拓村だが、紛れ込むには丁度いい。……んで、さっきオークとゴブリンの群れと戦闘したんだが。ハッキリ言うわ、異世界を舐めてた。オークって奴はヒグマ並みにタフだ。.308ウィンチェスターや7.62ミリ、.45‐70GOVTの火力が必須だわ」
棗はドレスの裾を邪魔そうに払いながら、ガントークに熱を上げる。
「華音のジジイがスパチャ投げまくってたみたいだから、明日はそれでアタシのM1Aを買わせてもらう。ショットガンも、今の5連装じゃ心もとねぇ。セミオートのベネリM4あたりに変えるか。……華音、お前はどうする? 5.56から7.62に変えるか?」
「うーん……迷う。オークも倒せなくはないし。それに、7.62ミリは重すぎるんだよね。私は予備のマガジンを増やして、手数で勝負する方がいいかも」
「だな。アタシが威力、華音が手数って分担でいいだろ。マコは……このまま.410でいいか?」
「へ……ヘンリーのH6。 357マグナム欲しい。」
「H6? ああメアーズレッグピストルか。」
優雅なドレス姿で、今後の殺戮に向けた軍議を始める棗。その容姿と中身のギャップこそが、彼女の本質だった。
その姿は滑稽でありながら、同時に異様な説得力を帯びていた。
基本的にこの作品に出てくる銃は私の趣味の物が多いです。
スコフィールドなんて良い例です。
先日ガンプレイ(クルクル回すあれ)の練習をしていたら思い切りミスって落としてしまいフレームが割れてしまいました涙
日本のモデルガンは高いです。それこそルガーRXMが変えてしまいます。
Henry H6 mares leg pistol
はい。ピストルです。見た目ライフルでもコレはピストルなんです。




