第二十話 Logistics Wins Wars
21 Logistics Wins Wars
開拓村の責任者と立ち会い、討伐の報酬と不要な魔石を譲り受けた。棗たちは村の一角に「セーフハウス」を出現させると、中へと足を踏み入れた。
「オークの魔石が一個百ポイント前後、ゴブリンは……まあ、雀の涙だね。部屋の増設には一〇〇〇ポイント、拡張には五〇〇から必要みたい。今、全部で一三五〇ポイントあるけどインフラにどれだけ食われるか、まだ読めないかな」
壁にあるモニター付きの魔石投入口に石を放り込みながら、華音が棗を振り返る。
「まずは電気・ガス・水道の消費量を調べてからだ。そのあとキッチンを拡張して、次は玄関から靴を脱がずに土足で入れる『ガンルーム』を一つ作る。この調子じゃ、外に出りゃ泥だの返り血だので汚れるからな。硝煙汚れやオイルまみれの銃を、寝室やリビングに持ち込みたくねぇ」
発射ガスの燃えカスは銃の内部に固着し、放置すれば動作不良を招く。一週間程度なら問題ないが、何分、彼女たちは日本人だ。「使ったら掃除する」という清潔感から、毎日でもクリーニングしたくなる。
「確かに。早くV7ちゃんを綺麗にしてあげたいし」
「そんなこまめにしなくても壊れやしねぇよ。それにクリーニング溶剤だってタダじゃねぇ。ガンオイルの代わりは、手に入りやすいWD-40で十分だ」
防錆・潤滑の定番であるWD-40。日本でも、高価な純正オイルを嫌う射撃愛好家が代用することが多い。スピードシューティングの競技会にでも出るのでなければ、大衆向けのマルチスプレーで事足りるというのが、実戦主義な棗の持論だ。
「さて、これでインフラは確保した。まだ金はあるから、下着や着替えを買うぞ。汐路、いつまでもそのボロボロの服じゃ格好つかねぇだろ。服くらい好きなのを選べ。……ただし、わけのわからねぇロゴの入った二万もするようなブランド物はやめろよ? パンツはジーンズでもカーゴでもいい、動きやすいワーク系を一着は選んでおけ」
そう言いながら、棗は自分の下着と着替えを手早く購入していく。彼女は年中、似たような格好だ。機能的なスポーツアンダーウェアに、カーゴパンツやワークパンツ。上はタンクトップかTシャツ。冬でもその上にミリタリーコートを羽織るだけで済ませてしまう。
「な、なっちゃん……わ、私……ハット、とか……」
三人の中で、ファッションに最も強い「こだわり」を持っているのがマコだった。棗は、マコがカウボーイハットやロングスカート、それに合わせる白いブラウスとベストを買いたがっているのだと察した。 本格的なウェスタン・スタイルは、日本では需要がないため、揃えようとすると何気に高くつく。だがアメリカ南部では今なお愛されるスタイルであり、早撃ちの愛好家たちが、クリント・イーストウッドの映画から抜け出してきたような格好で集まる文化がある。
「ああ。高いが、昨日のスパチャのほとんどはマコ宛だ。好きにしろ」
「よかったね、マコちゃん! 私はいつも通り、なっちゃんに任せるよ。私、服のセンスないから……」
華音には音楽のセンスはあるが、服のセンスに関しては致命的だった。服のダサさをネタにされる女性声優の「斜め上」を行くレベルだ。本人も自覚があるため、普段はマネキン買いをするか、棗に選ばせていた。
「はっ。せっかく誰もアタシらを知らねぇ世界に来たんだ。好きなもん着りゃいいじゃねぇか」
「うーん……ほら、前にテキサスで買い物した時も、リスナーに『ダサすぎる』って叩かれたし……」
サイケデリックな色彩に、なぜか猫のドアップがプリントされたTシャツ。あるいは、棗のタトゥーと合わせようとした蜘蛛の巣がびっしりと描かれた禍々しいアロハシャツ。
かつて、それを嬉々として選ぼうとした華音に、リスナーたちは恐怖すら覚えたものだ。
棗にしてみれば、華音の目に留まるほどの「クソダサい服」が販売されていたこと自体が驚きだったのだが。
着替えやタオル、日用品の購入を終えた棗は、チラリと汐路に目を向けた。
「さて、汐路。着替えも手に入ったんだ、先にシャワーでも浴びてきな」
「えっ、私が先でいいの?」
「あ? 別に構わねぇよ。アタシらは風呂がクソ長いからな」
「そ、そう……。あー、それなら二時間くらい外に出ていようか?」
入浴時間が長くなる理由を察した汐路が気を利かせて提案すると、棗はフンと鼻で笑った。
「ばーか。二時間で足りるわけねぇだろ。それともあれか、元カレって奴は前戯もしねぇ早漏野郎だったか? 変に気を使ってんじゃねぇよ。ほら、さっさと行ってこい。アタシらも早く入りてぇんだ」
棗に促され、汐路は気恥ずかしそうに浴室へと向かった。
「さてと。アタシはちょっとヤニを補給してくるわ。外で吸ってくる」
「わ、わた、私もっ……!」
マコが立ち上がり、タバコを吸いに行く棗について行こうとする。マコも華音も非喫煙者だ。珍しい同行の申し出に、棗は首を傾げた。
「どうしたマコ。何かあんのか?」
「は、配信……。みんな、し、心配してるかも……。へ、部屋の中は、見せられないし……」
マコの視線を追って室内を見渡すと、確かに配信に適した状態ではなかった。四人分の着替えや日用品が散乱し、購入した銃の空き箱が山積みにされている。
「……だな。生存報告の配信くらいはしておいた方がいいか。だが、配信するなら風呂上がり、サッパリしてからにしようぜ。どうせ映るなら、お洒落した姿を見せてやりたいだろ?」
棗は、マコが選んだ着替えの中に混ざっている「マカロニ・ウェスタン風」の服を指差した。
「お、お洒落……か、華音ちゃんも、なっちゃんも……しよ?」
「あん? アタシはいつだって洒落てるだろ。ミリタリーパンツにへそ出しタンクトップ、ミリジャケにキャップ。これこそ女シューターの正装だぜ」
「なっちゃんは、オシャレっていうか実用性を求めすぎてるんだよ。センスは悪くないんだから、たまには可愛い服でも着てみたら?」
「んーなもんは、マコや華音、お前らの領分だ。アタシにヒラヒラした服が似合うと思うか?」
「な、なっちゃんは……美人。背も、た、高いし……に、似合うと、お、思う……っ」
マコが顔を赤くして断言する。棗はタバコを指で弄びながら、少しだけ考え込むような素振りを見せた。
「ふーん。なら、アタシが外でヤニ吸ってる間に、マコにアタシと華音の『お洒落着』を選んでもらうか。それを着て夜の配信をやるぞ。……アタシのはネタでもコスプレでも、出落ちになるような代物でも構わねぇからな」
Logistics Wins Wars 兵站が勝敗を決するという格言
兵站の3大要素
補給、輸送、維持
コイツら兵站に関してはチート過ぎますね。
WD-40 言わずとしれた万能スプレー
と言うかメーカー純正オイル高すぎます。競技に出るわけでもないならこれ一択だと思ってます。
流石に洗浄用の溶剤はいいもの使ってください。
間違えても熱湯で洗い流すなんて荒業はしないようにね。
そして20話目です。
20話だと言うのにまだ異世界二日目です。
やっと主人公たちの関係性、能力、立ち位置等出し切りました。
少々詰め込んだ感はありますね。
銃の蘊蓄や描写を少なくしてでも先にさらっと関係性や立ち位置等を出してからにしておくべきだったのかも知れません。




