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トリガーハッピーは異世界でいきる  作者: stupidog
A Place Filled with Gunsmoke
19/29

第十九話 AFTER ACTION REPORT


 グレッグやラスティ、そしてミアたち護衛チームの面々は、轟音を響かせながらオークやゴブリンを一方的に屠っていく三人の姿に、ただ目を剥いて固まっていた。


 何が起きているのかは分からない。だが、あのオークに向ける長い杖のようなもの――あれが雷鳴を轟かすたび、強靭なはずの魔物たちが紙細工のように倒れていく。  おそらく、弓の系統を極限まで進化させたような武器なのだろう。グレッグの頭に、先ほどの会話が浮かぶ。「魔石が必要」と言っていたのは、あの杖を動かすための魔力源としてではないのか。


 「あれ……なに? あんなに強いの?」


 ラスティは驚きと恐怖に震えながら、グレッグのズボンの裾をぎゅっと握りしめた。  彼女たちを最初に見つけたのは自分だ。もしあの時、対応を間違えて敵対していたら。そう考えると、背筋に冷たいものが走った。


 「見たこともない武器だ……。あれが棗の武器か。……正直、譲ってもらいたいほどだが」

  「無理じゃない? っていうか何者よ、あいつら。あんなの国家機密レベルの代物でしょ。そんな連中を拉致して放置? あるわけないじゃない。……工作員よ。帝国の『特務』か何かなんじゃないの?」

 魔導師のミアが、疑念を隠そうともせず棗たちを睨みつけながらグレッグの側に寄る。

 「もし工作員なら、これほど目立つ真似はしないだろう。……怪しいのは確かだが、今は命の恩人だ」




 戦場には、カランカランと真鍮の薬莢が転がる乾いた音だけが響いていた。

 華音はライフルの銃口を倒れたオークに向けたまま、鋭い視線で警戒を維持している。マコも棗も、ショットガンの射線を生きた魔物の残党へと固定したまま動かない。


 最後のターゲットが事切れたのを確認し、数秒の静寂の後、棗の声が響いた。 「シース・ファイア、シース・ファイア、シース・ファイア」


 その合図で、ようやく華音とマコは銃のセーフティをかけ、銃口を下ろした。


 「ふぅ……やば。死ぬかと思った。なっちゃん、やっぱり5.56ミリじゃ火力が足りないよ」


 「だなぁ。アタシも熊狩りなんてしたことねぇから予想外だったぜ。これまではディア(鹿)やコヨーテばかりだったからな。…….308ウィンチェスターか、.30-06は必須だわ。完全にアタシのミス。あのデカブツがあんなにタフだとは思わなかった。装備も整ってねぇのに戦場に出したアタシは、指揮官失格だな」

 「別に私たちは軍人じゃないから……それに、私たちもなっちゃんを止めなかった。二回の戦闘で、ちょっと調子に乗ってたのは認めなきゃね」

 「な、なっちゃん……こ、怖かったぁ……」


 「さてと。このまま撤収したいところだが、グレッグたちは聞きたいことが山ほどありそうだしな。華音、マコ。……今のうちに薬莢を回収しておいてくれ。アタシはちょっとグレッグと話してくる」


  棗は二人を残し、大股でグレッグたちの方へと歩いていく。

 「か、華音ちゃん……なっちゃん、大丈夫かな?」

  「大丈夫でしょ。……あれを見せられた後で、なっちゃんに手を上げようなんて奴、そうそういないよ」


 近づいてきた棗に、グレッグたちは武器を構え直すこともできず立ち尽くしていた。


 「よっ。なんか言いたそうな顔してたから来てやったぜ。聞きたいことがあるんだろ? 全部正直に答えてやるが……あんたら、絶対それを信用しねぇだろうな。証拠を見せろと言われりゃ出せなくもねぇが、アタシらは秘密が多い。できれば知る人間は限られててほしいんだ。……まぁ、知られたところで『だからどうした』ってレベルの秘密だが、面倒事は勘弁だからな」


 「……一つ聞かせて。貴女、帝国の工作員とかじゃないわよね? 工作員にしては、今の戦闘は派手すぎて目立ちすぎるもの」  ミアが代表して問いかける。


 「帝国? ああ、知らねぇな。アタシの生まれは『日本』っていう能天気な民族が暮らす島国だし、育ちはアメリカ合衆国のテキサス州だ。間違っても帝国なんて場所じゃねぇ。ついでに言うと……アタシらは、この世界の住人ですらねぇよ」


 棗の言葉にグレッグは当惑して首を傾げたが、ミアだけは目を見開いて絶句した。 「嘘……? まさか、本当に……『異邦人』なの?」


 「なんだ。別の世界ってのに心当たりがあるのか? アタシらは二日前、急にこっちへ放り出された。だから魔石も知らなきゃ、ここがどこなのかも知らねぇ。そして、見たこともねぇ『銃』っていう武器を使う……ただの迷子だよ」


 「……私はハーフエルフだから、エルフの伝承で『界渡り』の話を聞いたことがある程度だけど。まさか実在するなんて」


 「ふーん。なら話は早い。事故で来ちまったが、戻り方は分からねぇ。そもそもアタシの世界には魔法もモンスターも存在しねぇんだからな」


 相変わらずマイペースな棗は、そう言い放つと胸ポケットからシガリロを取り出し、オイルライターで火をつけた。紫煙を深く吸い込む。


 「……じゃあ、その『魔石』は、さっきの武器に必要ってわけじゃないの?」


 「ああ、アタシらの世界の武器に魔石だの魔力だのは関係ねぇよ。だが、この世界に来た時にひとりひとつ、特殊な力を得た。アタシの場合は、こっちでいう『召喚』や『等価交換』に近い。アタシの世界の道具や弾薬を買うことができる能力だ。……厄介なことに、買うためにはアタシの世界の通貨か必要なんだがな。だから魔石は、華音の能力で家を維持したり、飯を作ったり、風呂に入ったりするための燃料として必要なんだよ」


 「風呂……? 風呂に入るために、こんな危険な戦いに飛び込んだのか?」

  呆れるグレッグに、棗は肩をすくめた。


 「それだけじゃねぇよ。既に出来上がった大都市より、今作っている最中の村の方が、アタシらみたいな素性の知れねぇのが紛れ込むには丁度いいだろ? アタシの勘がそうしろと言ってたんだ。……まぁ、あのオークって奴を侮ってたのは認めるぜ。万全の装備じゃねぇ時に戦闘を仕掛けるなんて、指揮官として無謀だったわ」


 圧倒的な戦力を見せつけながら、それでも「万全ではない」と言い切る棗に、グレッグたちは戦慄した。


 「異世界の証拠が見てぇってんなら……そうだな、こいつを見てくれ」


 棗はチェストリグのポーチから、今や時計代わりにしかならないスマートフォンを取り出し、以前撮った動画を再生させた。


 画面には、珍しく洒落た格好をした棗が、雪のちらつく歌舞伎町で自撮りをしながら、華音とマコを引き連れて歩く姿が映っていた。

 この世界には存在し得ない、目に刺さるような蛍光色のネオン看板。そこかしこで流れる電子音。天を突くかのような巨大な鉄筋コンクリートのビル群。

 その光景に、グレッグたちは「異世界」の存在を認めざるを得なかった。


 だがその次の瞬間、動画が勝手に切り替わり、艶めかしい女の嬌声が響き渡った。


 『っ、あ、なっちゃんダメ……っ、イッてる! イッてるからぁ!』


 「おっと。ハメ撮りが再生されちまった」


  棗は慌てて再生を止め、スマホをポケットに放り込んだ。静まり返る周囲をよそに、彼女は何食わぬ顔で煙草をくゆらす。


 「てなわけで、アタシらは異世界人だ。国をどうこうする気も、戦争をする気もねぇよ。……いい加減、早く風呂に入りてぇ。魔石、くれるよな?」


 「……あ、ああ。場所を取るだけの屑魔石を処分できるのは助かるから、許可は出るだろう。ただ、俺たちは雇われの護衛だ。最終的な決定権はこの村の代官にある。あと、流石にオークの魔石は屑魔石じゃないから総取りはさせられんが……さっきお前達が倒した分は、お前達の取り分でいいはずだ」


 「でだ、アタシらはこの村に住みてぇ。土地はどうすればいい? 武器の練習をするために、それなりに広い土地が必要なんだが」


 「……許可さえ降りれば、ここはまだ人口も少ない開拓村だ。開拓を手伝うっていうなら融通は利くだろう。比較的安全な領地とはいえ、ゴブリンはどこにでもいるし、湖の側だからサハギンも出る。兵士も手が足りない。お前たちの戦力は歓迎されるはずだ」


 「そうか。なら話は決まりだ。とにかくアタシらは文明的な暮らしが恋しくてたまらねぇ。さっさと魔石を頂戴して、一風呂浴びさせてもらうぜ」


AFTER ACTION REPORT 軍用語というわけではないですが念のため

事後報告書の事


シースファイア ceasefire 停戦や休戦のことを指しますがこういう場面もしくはシューティングレンジのインストラクターに言われた場合は「撃ち方やめ」と捕らえてください。

だいたいこの様に3回繰り返します。

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