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第十五話 LOADOUT


 エアガンをホルスターに戻した汐路は、再び銃を抜き、両手で構えて五発を放った。撃ち終えて腕を下げ、銃口を地面に向けたまま、不安そうにマコへと顔を向ける。


 「え、えっと……銃を抜いてから、こ、今度は……り、両手で構えるために左手を移動させたけど、じゅ、銃口の前に左手がきてて……あ、危ない」


 「銃を抜く時は、左手は胸の前だ。服装や装備によっては、邪魔にならねぇように胸を抑えるくらいにしておけ。抜いた銃が体の正面まで来てから、左手を添えるんだ。よくあるのが、こういう安物のホルスターだと引き抜く時にグラつくから、左手でホルスターを抑えようとしちまうんだが……それはダメだ。シューティング競技じゃ、その瞬間に一発アウトだぜ」


 「あ、あと左手の指がス、スライドに当たってたし……か、片目で狙ってる。ちゃ、ちゃんと両目を開けて狙わなきゃ。う、撃ち終わった後も、ゆ、指がトリガーにかかったままだった。そ、その状態で銃口を下に向けたら……暴発した時、自分の足を撃ち抜くよ」


 「……とまぁ、こんな風にボロが出てくるわけだ。じっくり直してぇところだが、日の出ているうちに人里を見つけなきゃならねぇ。汐路の特訓はマコと一緒に画面外でやっててくれ。次は華音のライフル、と言いてぇところだが、二〇ヤードじゃ近すぎる。まずはアタシ、次にマコ。最後に華音だ」


  「なっちゃん、合図はいる?」

 暇を持て余していた華音が、弾倉を叩き込みながら声をかけてきた。


 「ん? 頼むわ。あったほうがしっくりくる」


 「タイマーはないけどね。……Shooter make ready. Stand by――」


 パン、と華音が手を叩くと同時に、棗は電光石火の速さでホルスターから銃を抜き、五発を速射した。銃を構えたままの姿勢で、ハァ……と大きく息を吐き出す。


「いかんな。最近はオプティック付きの銃ばかり使ってたから、アイアンサイトだと精密さに欠ける」


 棗は手慣れた動作でセーフティをかけ、銃をホルスターに収めると、ペーパーターゲットを回収し戻ってきた。


 「ちっ。やっぱ9ミリよりリコイルがキツいな。結構ばらついちまった」


 「でも、結構いいんじゃない? ほら、一発だけどド真ん中だよ、ド真ん中!」


  「……一発だけじゃねぇか。A点に一発しか入らねぇなんて、恥ずかしくて親父に見せられねぇよ」


 照れ隠しに頬を指でかく棗に、華音が「もう一回やる?」と首を傾げる。

「いや、九ミリと比べて10ミリ弾は高いからな。練習はフルメタル・ジャケット(安価な練習用弾)をまとめ買いしてからだ。……次はマコと交代するぜ」


 棗が画面外へ消え、入れ替わりでマコがカメラの前にやってきた。 「お疲れさま。どう? 汐路ちゃん、慣れてきた?」


 「ま、まだまだかな……。ま、的は……あ、あれかな?」

 「うん。……どう? .410でレバーアクションなんて初めてでしょ? ビルドリル(速射検定)擬きじゃないほうがいい?」


 「そ、そうだね。ロ、ローディングも慣れてないから……」

 「了解。一応、掛け声だけはしておくね。……Shooter make ready. Stand by」


 ハンドガンと違い、マコはスリングで肩から提げた状態――「ローレディ」から開始する。初弾はまだチャンバーに送り込まれていない。  パン、と手が叩かれると同時。古参リスナーが最も好む、あの乾いた金属音が響いた。レバーが下がり、弾丸を噛んで戻る音。直後に引き金が引かれ、放たれた.410のスラグ弾がペーパーターゲットを大きく弾けさせた。


 本来は一発で終える予定だったマコだが、そのあまりの心地よさに、無意識に再度レバーを動かしていた。排莢と同時に次弾を送り込み、流れるように引き金を引く。


 「うわぁ……。小口径とはいえ、やっぱりショットシェルだね。すごい威力」


 たった二発の銃撃で、見る影もなく引き裂かれたペーパーターゲット。マコは満足げに息を吐き、華音はその破壊力に目を輝かせていた。


 「わ、私はこれで終了で……いいかな」

 「じゃあ、次は私だね。私はライフルだし……三〇ヤード、いや五〇ヤードくらいからかな。なっちゃーん! 五〇ヤードから撃つから、ちょっと離れるよー!」


 華音は棗たちに背を向けて五〇歩ほど進むと、幹に新しいペーパーターゲットを貼り付けた。それから駆け足で戻ってくると、マコに声をかける。


「掛け声お願いね。ローレディとハイレディを一回ずつ。最後にライフルを一発撃ってから、ハンドガンへ持ち替えてのスリータップ(三連射)をやるよ」


: 華音ちゃんってお嬢様だよな? PMCの傭兵か何かか?

: 棗より兵士みたいなメニュー組み始めたな。

: まぁ棗の嫁だしな。頭の中がテキサスどころか「ノルマンディー上陸作戦」になってても驚かん。


 「しゅ……しゅぅたぁ、め、メイク……れ、レディ」


 (……吃音のマコちゃんに掛け声を頼んだのは、少し酷だったかな)  華音は心の中でマコに謝りつつも、五〇ヤード先のターゲットと手に持ったライフル、そして周囲の音に神経を研ぎ澄ませる。


 「すっ……スタンバイ!」


 やや長めの間のあと、マコの手を叩く音が響いた。

 華音は素早く銃口を跳ね上げ、ストックに頬を当てる。五回、鋭い銃声が森を震わせる。射撃姿勢を維持したまま深呼吸を一つ。セレクターを操作してセーフティをかけると、彼女はターゲットを回収しに走った。


「うわー、恥ずかしい! A点に一発も当たってない。やっぱり五〇ヤードは遠すぎたかなぁ」


: え? あんなに凄そうだったのに、一発も当たってないの?

: 棗より凄いって言われてたけど、実はそうでもない? 有識者解説たのむ。

: いや、普通に考えてバケモノだぞ。

: そうなの?

: そもそも今の華音のライフル、スコープどころかアイアンサイトすら付いてないんだぞ?

: !?

: ワイもFPSゲームならできるで。

: ゲームと一緒にすんな。


 「これは恥ずかしくてハイレディ(銃口を上げた構え)でのチャレンジはできないや。みんなゴメンね。オプティックかスコープをつけてからまたリベンジするよ。」


 華音はそう言いながら、手に持っていたペーパーターゲットを丸めて、チラリと棗の方へ顔を向けた。  棗は満面の笑みを浮かべていた。いいところを見せようとして失敗し、赤面している恋人を心底楽しんでいる、そんな笑いだ。


 「おいマコ、汐路、見たか? あんだけカッコつけて『ローとハイを試す』とか言って、A点ゼロ発だぜ? ぷーっ、恥ずかしーい! アタシだったら恥ずか死んで、華音の脇に顔を埋めて隠れちまうところだぜ」


 「そ……それは、ただ……脇の匂いが……嗅ぎたいだけじゃ?」

 「棗、恋人にそんな追い打ちかける? 優しくしてあげなさいよ」


 「ま、華音いじりはこれくらいにしとくか。しっかし、よくアイアンサイトもねぇライフルでここまで当てられるもんだな。……正直、アタシよりセンスあるんじゃねぇか? アタシがショットガン好きなのは、『大体この辺に向けて撃ちゃ当たるだろ』っていうガサツな運用ができるからだしな」


 実際、棗は自称するほど射撃の腕が「天才的」というわけではない。銃社会のアメリカにおいて、トレーニングを積んでいない一般人よりは遥かに上だが、競技シューターと比較すれば下の方だ。  それでも、日本でのサバゲーで圧倒的な戦績を叩き出せていたのは、彼女の長所が「オカルトな領域に達した勘」と「並外れた反応速度」の組み合わせにあったからだった。


 「さてと。結構な時間、この場で銃音を鳴り響かせちまったからな。……何かが寄ってこないうちに、さっさと離れるか」


 「だね。今日こそ村を見つけてお風呂に入りたいな。……あ、お風呂に入る前に、脇の匂い嗅ぐ?」 「おう、もちろん。華音の脇はエロい匂いプンプンしやがるからな」


 平然と下品な会話を交わす二人を見て、汐路は顔をしかめてマコに耳打ちした。


 「……棗も変だけど、華音ちゃんもだいぶ変わってるよね? マコちゃんはあの二人と一緒にいて平気なの? その……マコちゃんも、棗と付き合ってるんだよね?」


 おとなしそうなマコが、あの「おかしい二人」とどう折り合いをつけているのか。肉体的な関係以前に、精神的な意味で気になって汐路は尋ねてみた。


 「わ……わた、私は……た、たの……楽しいよ。な……なっ……なっちゃんも、か、華音ちゃんも、優しいし。ご飯……お、美味しいって、言ってくれる。わ……私の、は、話を……ちゃんと、さ、最後まで……き、聞いて……く、くれるし」


 汐路は、マコだけは「普通」の感性を持っていてくれたと安堵した。見た目通りのんびりした優しい子なのだろうと、汐路は微笑む。


「そっかぁ。いい人たちに出会えてよかったね、マコちゃん」


華音化け物じみてますね。

45メートルをアイアンサイト無しでペーパーターゲットに当てるなんて。

すべてD点だとしてもバケモンです。

創作物とは言えやりすぎましたねリアリティ0です

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