第十四話 Rules of Engagement
「さて、銃は買ったが、ここからが本当の金食い虫だ。弾がなきゃただの鉄屑だからな。9ミリや12ゲージのストックはある程度持ってるが、一発が高い5.56ミリや10ミリは金があるうちに大量に確保しておきてぇ。……だが、テメェらもう一つ忘れてるだろ? 汐路だ。汐路の銃を買ってねぇ」
: お? とうとう汐路もトリガーハッピーへの道を歩むのか?
: 汐路には何を買い与えるんだ?
「ま、汐路のは玩具だよ。そんな高いもんじゃねぇ。当ててみな」
棗はニヤリと笑いながら、弾薬専門サイトで各種カートリッジをポチり、華音とマコに配っていく。
: 玩具? 22口径の安い銃か。
: 32ACPもあり得るが、PPKは高いしな。
: トーラスあたりの安いリボルバーとか?
: 大穴で「ゴミハンドガン」の代名詞、ハイポイントと見た!
「うーん、思いつかないな。ルガーSR―22か、S&WのM&Pシールドあたりかな?」
「わ、私は……な、なっちゃんほど詳しくないから……わからない」
「全員ハズレだ。アタシがハイポイント(安かろう悪かろうの代名詞)なんて買うわけねぇだろ。貴重なリソースをドブに捨てるようなもんだ。答えはコイツだ」
棗が一箱の段ボールを開けると、大きく「G」のロゴがプリントされた黒いパッケージが現れた。
「みんな大好きグロック……の、CO2ガスエアガンだ。言っただろ、玩具だって」
: は? そんなのアリかよ!
: この流れでエアガンはねーだろww
「バカかテメェら。汐路はエアガンすら触ったことがねぇんだぞ。そんな素人にいきなり実銃を預けられるか。運用するってのは、ただ的に向かって撃つのとはワケが違うんだ。今の銃はトリガーセーフティが主流だ。ホルスターから抜く時に焦って指をかけたら、自分の脚をぶち抜いて終わりだぜ。銃を扱うにはそれなりのルールがある。古参でに行ったことがある奴なら分かるだろ?」
: 同意。汐路ちゃんに持たせるって聞いたときはヒヤヒヤしたよ。
: 撃たせるだけならともかく、日常的に「携行」させるのは別の訓練がいるからな。
「ガンマニアを自称してても、実銃に触れたことのある奴とエアプじゃ考え方が違うみたいだな。……汐路にはしばらくコイツでセルフディフェンスの基礎を叩き込む。その合間にマコや華音の九ミリを撃たせて反動に慣れさせるが、実銃を持たせるのは早くても半月は先だ」
棗は、戸惑う汐路にグロックのガスガン、バイオBB弾、そしてCO2ボンベを手渡した。
「コイツが当面、お前の相棒だ。大事に扱え。使い方はマコや華音が教えてくれる。……そして、先に釘を刺しておく。ソイツは玩具だが、バカな真似をしたらぶち殺す。冗談でもアタシらに銃口を向けたら『敵対行為』と見なす。将来、対人戦の訓練でアタシらに向ける時以外は、死んでも人に向けるな」
: 玩具なのに「殺す」って棗、相変わらずやべぇ。
: いや、たとえ玩具でも銃の形をしてるものを人に向けちゃダメだろ。
: 徹底的に「本物」として扱わせて、癖を付けさせるんだな。
「サバゲーやってる奴も聞いておけ。玩具だろうが実銃と同じ『四つのゴールデンルール』を守れ。『常に装填されているものとして扱え』『撃つ時以外はトリガーに指をかけるな』『銃口を不必要に人に向けるな』『標的の背後に何があるか確認しろ』……だ」
棗は購入したばかりの『TAC ULTRA』を箱から取り出し、カメラに向けた。「新品を買ったらまずマガジンを抜き、スライドを引いて安全確認用のオレンジのプラ板チャンバーフラッグを抜く。このフラッグが入っていれば、薬室に弾がないことの物理的な証明になる」
慣れた手つきでスライドを何度も引き、引き金を落として感触を確かめる。「何をしてるかって? トリガーの重さや、引き切る瞬間のウォール、リセットの感覚を確認してるんだ。スライドの作動に引っかかりがないかもな。本来はショップの店頭でやる作業だが、店の商品を乱暴に扱うなよ? ……古参ども、トリガープルが気になるだろうが、計測器がねぇからカタログスペックで我慢してくれ」
棗はマガジンに10ミリ弾を込めていく。「コイツは10ミリのホローポイントだ。見ての通り弾頭の鉛が剥き出しで、先端が窪んでる。ターゲットに当たった瞬間、キノコ状にひしゃげる『マッシュルーミング』が起きて、体内で止まるように設計されてる。貫通して周囲に二次被害を出さないし、体内で軌道が暴れて臓器をズタズタにしてくれるぜ。昔はダムダム弾なんて呼ばれてたフラグメンテーション弾に近い性質だな。最近じゃR.I.P弾なんていうエグいのもあるが、クソ高いから買わねぇ」
「なっちゃーん。せめてスリングだけでも買っていい?」
華音たちが、それぞれの新銃のフィーリングを確かめながら近づいてくる。
「ああ、そうだな。マコと華音はスリング。アタシと汐路は安物のナイロンホルスターでも買っておくか」
「私のスリングは、ちょっと良いやつにして! 私はこのV7を使い倒すつもりだから」
棗は、片手で素早く長さを調整できる一点式のタクティカルスリングを華音に、パラコード製のシンプルなものをマコに買い与えた。自分と汐路には頑丈さだけが取り柄のホルスターを選び、ベルトへ装着する。
: 10ミリオートの試射、楽しみだな。あまり聞かない口径だ。
: 九ミリと一ミリしか違わないけど、そんなに変わるの?
: 威力は9ミリ<45ACP<10ミリって感じだが、モンスター相手に一七発叩き込める九ミリの方が有利な場面もある。棗の言う通り、装弾数と火力のバランスだよな。
「ま、ハンドガンはあくまで護身用だ。アタシの嫁に手を出す不届きもんをブチ殺すためのな。モンスター相手にはライフルとショットガン、五・五六ミリと一二ゲージの暴力よ。……ま、オマケにド小口径の.410もあるがな」
: その.410ってのは、どの程度の威力なんだ?
「.410を知らねぇか。ショットシェルの規格なんだが、大きさ的には45コルト弾なんかと同じくらいだ。トーラス社の『レイジング・ジャッジ』みたいに、ハンドガンで撃てるモデルもある。マズルエナジー(銃口威力)は1000ジュールを少し超えるくらいだな。九ミリが500J、45ACPが550J、10ミリが900前後……って言えば、そのパワーが分かるだろ。ま、弾頭重量や火薬量で多少の差は出るがな」
: 何気にマコちゃんが一番威力の高い弾を使うのか。
: 反動でマコちゃん吹き飛ばない?
「.410は散弾の中じゃ小口径だし、ハンドガンじゃねぇから平気だ。というか、スタンスさえしっかりしてりゃマコにS&W M500(世界最強クラスのリボルバー)を撃たせることだってできるぜ? お前ら、漫画のオーバーな表現を信じすぎだ。デザートイーグルを撃っても肩は抜けないし、後ろに吹っ飛んだりもしねぇよ。動画サイトでたまに見る『撃ってひっくり返る奴』は、単に構え方がなってないだけだ」
棗が解説している間に、華音は空になった箱をまとめ、不要な資材をセーフハウスへ放り込んでいく。
「さてと。貴重な実弾をその辺の木にぶち込むのも勿体ねぇが、いきなり実戦ってのも不安だ。とりあえず、試射するか」
棗は、汐路のエアガンの箱に同梱されていたペーパーターゲットを見つけ、それを手に取った。周囲を見渡し、標的に適した巨木の幹にターゲットを貼り付ける。そこから大股で歩数を数えながら二十歩ほど距離を取り、三人を呼んだ。
「ターゲットからここまで約二〇ヤード。一ヤードは約〇・九メートル、大体大股一歩分の距離だ。ヤーポンが直感的に分かりやすいのは、歩数とヤードがほぼ一致する身体尺だからだな。……さて、誰から行く? と言いたいところだが、まずは『訓練兵』汐路、お前からだ」
「ええっ!? 私から? っていうか、エアガンだよ? 届くの?」
急に振られ驚く汐路に、棗は「余裕だ」と答えた。
「アタシの指導、華音の指導、マコの指導……誰がいい? アタシはかなり厳しめだ。華音は普通。マコは吃るが、優しく教えてくれるぜ」
「じゃ、じゃあ……マコちゃんかな」
汐路は即答した。出会ってから日は浅いが、棗の性格だけは十分に理解している。スパルタは御免だ。逆にマコは、常に自分の隣に控えてくれていて話しやすい。
「わ、わかった。よ、よろしくお願いします……。まずは、私たちに……銃口を向けないように気をつけて、五発撃ってみて」
何の指導もなしに「撃て」と言われ、汐路は首を傾げた。
「マコはそういう教え方か。まぁ、実弾じゃできない『悪い見本』を炙り出すやり方だな。……リスナー、よく見ておけよ。何がどう危険なのか、実際にやって見せた方が分かりやすいだろ?」
汐路は(間違ったやり方を見せるためなら、間違えても大丈夫だろう)と安心し、ホルスターから銃を抜いた。大好きなアニメのシーンを思い出しながら、片手で銃を構え、五回トリガーを引いた。
「わっ、結構すごい。おもちゃなのに、ちゃんと飛ぶんだね」
「あー……。アタシらじゃなくてもダメ出しできる、典型的な『ダメな撃ち方』の見本市だな」
: お、おう……。流石にサバゲー未経験の俺でも「それはない」って分かるぞ。
: 銃に興味なくてバズから見に来たワイには、何が悪いのか全く分からん。
「ま、まずは……片手撃ち。これが一番ダメ。銃は両手で、ちゃんと保持しないと。……い、今はできないけど、ア……アキンボもダメだよ。」
: アキンボって何?
: 二丁拳銃のこと。
「そもそも二丁拳銃ってのはな、両手で一丁ずつ持ってヒャッハーするための技術じゃねぇ。西部開拓時代の『キャップ&ボール』の頃、リロードに死ぬほど時間がかかったから、弾切れの予備としてもう一丁持ってたのが始まりだ。リロードするより、別の銃を抜いた方が早かった時代の名残だよ」
「……片手撃ちだから、か、体が横を向いてる。射撃のスタンスは……アイソ……アイソセレスタンスが基本」
: 専門用語わかんねぇ。何それ。
: 射撃姿勢の一種。俺らにとっちゃ「気をつけ」くらいの常識だが。
「映画でよく見る、マイアミ市警のデカが構えるような姿勢だよ。……いや、最近の映画はウィーバースタンス(体を斜めに構える姿勢)の方が多いか? 俳優の顔が見えやすいしな」
棗が補足する間、マコは汐路に身振り手振りで説明を続ける。 「じ、銃を体の正面で、両手で持ってみて。……そう、自然に『二等辺三角形』ができるでしょ? あとは足を肩幅に開いて、肩の力を抜いて。……そう、そんな感じ」
: あれがアイソセレスタンスか。
: 有名なゾンビゲーの初代の構えがアイソセレスで、続編のパッケージで斜めに構えてるのがウィーバーだよな。
「……あ、あと! 銃を抜く時から、ト、トリガーガードに指を入れてた。撃つ瞬間まで、トリガーに指をかけるのは絶対ダメ!」
「ここまでは、サバゲーマーでも分かる基礎中の基礎だ。だが、ここから先は古参リスナーでも無意識にやらかしてる奴がいるかもしれねぇぞ。……マコ、続きを頼む」
「ここから先を説明したいけど……し、汐路ちゃん、もう一度銃を抜くところからやってみて。た、たぶん、新しく『ダメなところ』が……ふ、増えてるから」
: フォームを直したら、逆にダメな場所が増えるの?
: 分かる。意識を他に割くと、別の基礎が疎かになるんだよな……
Rules of Engagement
有名な用語ですねRoEとよく略されます。
交戦規定のことです。
棗やたら物騒です。アタオカが主人公で良かったのかと悩み始めてました。
私が好きな銃は何故か22口径が多いです。
ルガーマーク4然りワルサーWMP然り
所で22WMR撃ったことないですが22LRとどのくらい違うんでしょうかね。
22WMR撃っことある方コメントお願いします。




