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トリガーハッピーは異世界でいきる  作者: stupidog
A Place Filled with Gunsmoke
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第十三話 Range Advantage


Range Advantage


 サハギンと交戦した地点から歩いて三十分。まだ十分に離れたとは言えない距離だが、それなりに大きな岩場を見つけた一行は、そこを一時的な陣地とした。焚き火を起こして休憩を取りながら、棗たちはリスナーとの対話を開始する。


「……まぁ、さっきの戦闘でも分かった通り、9ミリじゃ火力不足な気がしてきた。あいつらは前面に装甲がなかったから倒せたが、全身あんな硬い鱗に覆われてる奴がいたら、最低でも12ゲージと5.56ミリは欲しい。……ところでテメェら。アタシら銃持ちと、この世界のモンスターを比べた時の『最大のアドバンテージ』って何だと思う?」


: 銃っていう未知の武器を使うことか?

: 単純に威力じゃね?

: 視認して避けられない「弾速」だろ。

: それもあるけど、ライフル込みなら「射程距離」だと思うな。


「ショットガンやハンドガンの射程って短いって聞くけど、どんなもん?」と、初心者らしい質問が流れる。


: 有効射程は五〇メートルってところだな。

: 短くない? 銃なのに。

: コンパウンドボウの有効射程が二〇〇メートル近いって言えば分かるか?

: え、銃って弓より弱いの?

: 何を基準にするかだよ。対防弾ベストなら、実は矢の方が貫通力が高い場合もある。アラミド繊維を固めたソフトアーマーじゃ、矢は防げねぇぞ。

: 弓は一本ずつ番えて狙う必要があるが、ライフルなら構えて引き金を引くだけで弾が切れるまで連射できる。

: それにライフルなら有効射程は八〇〇メートル。長距離狙撃用の12.7ミリとかなら、二キロ先の狙撃も理論上は可能。まぁ、それ相応の腕と質の良いライフルが前提だが。


 「……お前ら、やはり頼りになるな。アタシも、この世界での最大のアドバンテージは『距離』だと思ってるぜ ただし――それを維持できるかどうかは、別の話だがな。」


 棗は焚き火に枝を放り込み、画面越しに語りかける。 「目視できない距離からの先制攻撃。その後に、目視で避けられない弾速と、予備動作のねぇ連続射撃が続く。威力に関しては、まだこの世界の『魔法』を見たことがねぇから負けてる可能性もあるがな。……ちなみに、アタシの腕じゃダニエル・ディフェンスのAR―15を使っても、三〇〇メートルが限界だ。動かねぇ的に対して、プローン(伏せ撃ち)やニーリング(膝撃ち)でじっくり当てるなら、アタシより華音やマコの方が上だな。ただ、スピードも含めるとマコは華音に一歩及ばねぇ」


: へぇ、マコちゃんは狙撃系なのか。

: ゲームじゃないからな。動かずに待つスナイパーは、この世界じゃリスク高そう。

: 華音ちゃんは動けるタイプでしょ?


「あ? 華音はアタシと同じ『ストライカー(前衛)』だよ。うちにスナイパーなんて高尚な役職は居ねぇ。マコは最低限の護身ができるだけで、基本は非戦闘員だ」


 盛り上がるコメントを横目に、棗たちはカロリーバーを齧り、インスタントコーヒーを啜る。乾いた喉と小腹を癒しながら、話は本題の「装備更新」へと移る。


「てなわけで、昨日のスパチャで新しい得物を二つ買う。一つは確定でアタシの『1911』だ。まだ人里は見えてねぇが、この先、銃を隠し持っておきたい場面も出てくるだろうからな。銃を知らねぇ奴でも、散弾銃を担いでりゃ『飛び道具持ち』だって一発でバレちまう」


: なら、いっそコンシールドキャリー特化の銃は? SIG P365とか。


「あー、それも考えたが、似たような銃は二つもいらねぇ。華音がSIG好きなんだわ。アタシは当然、スミス&ウェッソン(S&W)かコルト派だ。われらがアメリカの誇る歴史あるメーカーだからな」


: 「我がアメリカ」って、棗は日本人だろww

: 育ちがテキサスなだけ。

: しかも住んでたの六、七年くらいだっけ。意外と短い。


「細けぇんだよお前ら。いいんだよ、アタシは日本生まれ・日本国籍の『魂のアメリカ人』ってことにしとけ。親父がアメリカ人だし、ハーフみてぇなもんだろ」


: その親父、血が繋がってないどころか赤の他人じゃねーか。

: 母親と再婚してれば義父だが


「うわっ、やめろ。あの母親がボブと結婚するなんて想像しただけでゾッとするわ。ボブにはもっとこう……ちゃんとした『いい女』と結婚して幸せになってもらいてぇんだよ」


: 棗のファザコンが拗れすぎている。

: 棗、ボブと再会すると普通にハグしてキスするからな。

: ワイもボブとハグしてぇ。

: このチャンネル、謎のボブ推し多すぎだろww


「ボブの話はいい。次はもう一つ。誰に何を買い与えるかだ」


: 流れ的に、華音ちゃんにライフルだろ。

: 華音ちゃんはハンドガンでも無双できそうだけど、火力は欲しい。

: 華音ちゃんにAR-15を推す。

: 華音ちゃんのSIG好きを考慮してMCX(SIG製の最新ライフル)とか。

: ワイはマコちゃんが12.7mmを撃っておっぱいを揺らすのが見たい。


 一人のリスナーが投下した「大口径の反動による乳揺れ観測」という邪な一言が、一瞬にしてチャット欄を「マコに50口径(バレット等)を!」という勢力に塗り替えていく。だが、棗が冷めた声でそれを一蹴した。


「いや、マコに12.7ミリなんてプローン(伏せ撃ち)じゃなきゃ無理だろ。乳揺れは見えねぇぞ。……つーか、マコじゃ7.62ミリでもキツい。反動で倒れはしねぇだろうが、次弾の制御が絶望的だ」


: そうか、50口径は男でもスタンディングはきついもんな。

: 棗的には何を買うつもりなの?


 「アタシか? アタシは二人に好きな銃を買ってやりてぇよ。マコが好きなマカロニ・ウェスタンの実用性のねぇ銃から、華音の好む現代的な最新モデルまでな。……ま、金がねぇから今は無理だが。食い物を少し節約すりゃ、マコにヘンリーの『ゴールデンボーイ』か、あるいは『AXE』。それに華音用のARくらいは買えると思う」


:ヘンリーのゴールデンボーイ、調べたけどクソかっこいいな!

: 最近、タクティカル仕様のレバーアクションが流行ってるよね。

: ロマンはあるけど、実用性はどうなの?


 「レバーアクションか? 悪かねぇぞ。欠点はプローン射撃がしにくいことくらいだ。ヘンリー社はアタシも好きだが、ゴールデンボーイは口径によっては割高に感じるな。アタシならルガーの『10/22 テイクダウン(分解式ライフル)』を選ぶ。アタシはルガー結構好きなんだ。特に『マークIV タクティカル』はいつか絶対に欲しい一品だ」


 銃談義に花が咲く中、汐路は完全に置いてけぼりを食らっていた。だが、棗とリスナーが楽しそうに会話する様子を見て、「類は友を呼ぶとはこのことか」と一人納得していた。

 もちろん汐路もただ漫然と聞いていたわけではない。

 先ほど入手したサハギンの鱗を水で洗い、乾燥させ、棗に借りたツールナイフのヤスリで磨きながら「サンプル品」を作りながら汐路は「距離」という言葉に、少しだけ違和感を覚えた。

 遠くにいれば安全――本当に、そうなのだろうか。


 「で、どうすっかねぇ……。あーあ、どっかのメーカーから案件とか来ねぇかな。異世界にいるから現物は受け取れねぇけど、商品代をスパチャでくれればガチでレビューするぜ? アタシは忖度一切なしだ。命かけてサバイバルしてんだから、クソみたいな商品ならボロカスに叩く。それでもいいってアウトドアブランドがあったら、よろしく頼むぜ」


: こんな状況で営業かけてくるとか、さすが棗ww

: でも異世界でのガチレビューは需要あるぞ。


 その時。  画面を真っ赤に染める高額スパチャが連発され、コメント欄が凍りついた。


 「ん? ……げっ。久瀬のジジイ!? オイ華音! ジジイがクソほどスパチャ投げてんぞ! しかもアタシを誘拐犯扱いしてやがる、かなりキレてんぞ」


 「ええっ!? おじいちゃん!? 何やってるの!?」


 慌てて華音が画面に駆け寄る。棗は彼女と交代するように立ち上がると、ショットガンを手に周囲を警戒しつつ汐路とマコの元へ移動した。


「……棗、なんか大変なことになってない?」


「ああ、久瀬のクソジジイが喚いてやがる。華音はもうアタシの嫁だってのにな。いつまでも孫離れできねぇ死に損ないめ」


「な、なっちゃんが……そうやって、あ……煽るからっ……!」


「まぁそう言うな。あのクソジジイだって本気でキレてるわけじゃねぇ。アイツが本気を出してたら、今頃アタシはネットで『犬相手に犯されてる動画』をばら撒かれてるか、東南アジアあたりでボロ雑巾みてぇな性奴隷にされてる。あのジジイにゃ、小娘一人くらい簡単に消す力があるからな」


 いくら銃を扱い、歪んだ性根を持っていても、棗は財力も権力もない一介の女性だ。  対して華音の祖父は、日本の表裏両面に顔が利き、莫大な富を操る『久瀬グループ』の会長。


「……それ、冗談じゃないんでしょ?」


「お? 汐路は信じられねぇか? 出来るに決まってんだろ、あのジジイなら。……まぁ、溺愛してる孫の恋人にアメリカのマフィアみてぇな真似をするのは、プライドが許さねぇだろうがな。さて、リスナーが置いてけぼりだ。注意してくる」


 棗は震える汐路たちから離れ、画面の前へ戻った。


「おい、ジジイ! ここはアタシらのチャンネルだ。私的に使うんじゃねぇよ。それとも、リスナーに『金さえありゃ何でも許されると思ってる老いぼれ』だって宣伝したいのか? 華音と個人的にやり取りしてぇなら、夜に時間を取ってやるから、それまで大人しくしてろ」


「もうっ、おじいちゃんたらアカウントを大量に作ってスパチャ攻勢なんて! 品がなくて恥ずかしいよ!」


「……ま、そんだけあのクソジジイは華音を溺愛してるってことだ。なんなら今の科学力でこの世界に繋がる方法を必死で探してるだろうよ。……っと、リスナー諸君。脱線してすまねぇな。だが、久瀬のジジイがブチ込んだ金のおかげで、明日には資金不足が解消される。華音とマコ、二人の装備をガッツリ整えてやれるぜ」


: チャンネル独占は勘弁だが、装備が充実するなら我慢するわ。

: はやく実銃の試射が見たい!


 「まぁ待て。まずは購入する銃の説明だ。……アタシのハンドガンは、ロックアイランド・アーモリー(RIA)の『TAC Ultra 10mm』にする。10ミリ口径なら何でもよかったし、45ACPでもよかったんだが、RIAの銃は触ったことがなかったんでな。S&WやSIGの競合モデルより安かったのも決め手だ」


:SIG好きだけど、最近のモデルは色々噂を聞くもんな……。

: P226あたりは名銃なんだけどな。


 銃を目的に集まっている古参リスナーたちは、昨今のSIG社製P320系列のピストルにおける暴発のリスクや、新型ライフルの精度のムラについて熟知していた。


「……実際のところはどうだろうな。ボブはP320が出たばかりの頃に買って毎日キャリーしてたが、一度も暴発はなかったと言ってたぜ。まぁ、今はもう持ち歩いちゃいねぇけどな。『やはり新物に飛びつくもんじゃねぇ。信頼できるのは1911だ』って笑ってたよ。アタシが1911やブローニング・ハイパワーみてぇな古い銃を好むのは、そういう理由だ」


: へぇ。で、棗の中での「古い銃」の定義ってどのへんなの?


 「んー、M9あたりも古い銃でいいと思うぜ。グロックもまぁ、設計思想としては古いと言っていい。……アタシはあのクソみたいなグロックのトリガーが好きじゃねぇがな。六〇〇ドル払って最新のGen5を買うくらいなら、三〇〇ドル程度でルガーのRXM(グロックGen3のクローンモデル)を買うね」


: 棗ってグロック嫌いなのか。どこの警察も軍も使ってるから、最高に性能がいいのかと思ってた。

: そこは「プロの道具」と「シューターのこだわり」の違いじゃないか?


 「だろうな。警官からすりゃ、トリガーを引けば確実に弾が出て、暴発の危険さえなきゃ何だっていいんだから。今はストライカー方式、ポリマーフレーム、レールとオプティック・レディ(光学照準器対応)が主流だ。わざわざグロックを選ばなくても、もっとトリガーフィールのいい銃はいくらでもある。趣味で持つなら好きなの持ったほうがいいぜ。グロックが最高だって言うなら、それはそれでアリだ」


: 棗が選んでる1911、今の条件に一個も当てはまってないんだが?


 「だから趣味だって言っただろ。あくまでハンドガンはサブアームだし、護身用だ。……さて、次は華音の銃だ」


 棗が視線を向けると、華音はいつも通りのニコニコ顔だったが、その瞳は明らかに期待に満ちて輝いていた。


「華音には、アタシの1911やショットガンが抱えてる『装弾数の少なさ』をカバーしてもらう。はっきり言って、ウチの主戦力は華音だ。幸い、コイツは最新鋭の装備が好きだしな。アタシやマコみてぇな変な拘りもねぇ。だから――ダニエル・ディフェンス社の、クソ高い一四・五インチバレルのARライフル、『DDM4 V7』を装備してもらう」


 「やったぁ! スコープやドットサイト、Cグリップ(ハンドガードを上から握り込むスタイル)もつけていいよね?」


 「お、おう。久瀬のジジイのスパチャだ、好きに使ってくれ。だが、あんまり高いスコープは勘弁してくれよ? アタシらド素人の腕じゃ、そこまでの遠距離狙撃は必要ねぇからな。……そしてマコは、ヘンリーの『.410AXE』だ。ショットガンだが、アタシとは運用目的が違う。アタシはスラグとバックショットを使うが、マコにはバードショットとスラグを持ってもらう」


: バードショットでモンスター相手に戦えるのか?


 「いや、流石にモンスターばかり相手にするわけじゃねぇだろ。草むらの毒蛇とかに9ミリを当てる自信はねぇからな。害獣駆除や小動物の狩りが目的だ。……リトモンみてぇな電気ネズミがいるかもしれねぇしな? 捕まえても、生きたままフリマに出すわけにはいかねぇだろ」


: リトモンが現実にいたら恐ろしすぎるな……。


 そう言って棗は能力を使い、ダニエル・ディフェンス『DD4 V7 SLW』、ロックアイランド・アーモリー『TAC ULTRA 10mm』、そしてヘンリー『.410 Axe』を次々と購入していった。


 「……アタシも実銃を一気にこんなに買うのは初めてだぜ。まぁアメリカ国籍ねぇから、買ったっつってもこの世界に来てからだが。……V7が2250ドル、タック・ウルトラが840ドル、ヘンリー・アックスが1212ドル。全部で4292ドル。日本円で約64万円……。もう手持ちの資金は半分だ……」


: 棗が「アックス高い」って言ってた意味がわかった。1200ドルは……。

: V7ってやつ、そんなに良いの?

: 二十歳そこそこの日本人の女の子が持つようなもんじゃないことだけは確かだ。

: それ言い出したら銃全般そうだろww 普通の二十歳の女はブランドバッグとか買うんだよ。


 「あちゃー……これじゃオプティック(光学照準器)やスコープは、明日以降かなぁ……」


 計算外の出費に、華音がションボリと肩を落とした。


 


Range Advantage 軍用語ではないので説明はなし。


主人公の棗やたら1911推しですね。

私も1911A2好きですが所持するなら45口径や10mmより9mm選びます。

あとグロック好きの方居たらごめんなさい。棗はやたらグロックを否定しています。

かくいう私もグロックのヌチャっとしたトリガーは好きではありません。

とはいえアメリカ在住でキャリーをするとなったらルガーのRXMかPSAダガー等のGen3クローンにします。

安いし雑に扱えます。

1200ドルもするスプリングフィールドの1911 RONINやStaccatoをレンジ以外で使いたくはないですよね?

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