第十二話 Escalation
半人半魚の怪物に向かって棗たちが歩を進めると、異形たちは大きく裂けた口を開き、粘り気のある唸り声を上げて威嚇を始めた。
棗は「やはりな」と納得したように口の端を上げ、左手でショットガンのハンドガードを支え、銃口を群れへと向けた。
「ま、哺乳類ベースのゴブリンならともかく、アイツらは見るからに両生類か魚類だもんなぁ。友好的なわけねぇか。……華音、マコ。このまま十五ヤードまで距離を詰める。そこから先は『ハッピータイム』だ」
: ハッピータイムってなんだよww
: 思考がトリガーハッピーすぎるだろ。
: まぁ棗は筋金入りの人種だからな。
: テキサス育ちだもんなぁ。
: テキサスへの風評被害。……否定はできんが。
銛を構え、唸り声を上げて迫りくる半魚人の群れ。 棗は淀みのない動きで人差し指をトリガーガードの中へ滑り込ませ、引き金を引いた。
成人男性ほどの体躯を持ち、全身を硬い鱗に覆われた半魚人だったが、人間と同じく前面の腹部は防御力が低い。ショットガンの衝撃は鱗を内側から弾けさせ、その後方へと突き抜ける。穿たれた個体は、声を上げる間もなく崩れ落ちた。 棗の発砲と同時に、華音も愛銃を火を噴かせる。腹部に二発、胸に三発、トドメに頭部へ一発。吸い込まれるような連射で、確実に一体を沈めた。
「ふ、はひ……こわい、こわいよぉ……っ」
マコは薄っすらと目に涙を浮かべていた。だが、身体を震わせることも逃げ出すこともなく、教本通りの射撃スタンスを維持している。そして、ゆっくりと、だが確実に。連射に頼らず一発ずつ弾丸を送り込んでいた。
華音ほど素早くはない。だがマコは、一発で腹部を射抜いて敵の動きを止め、二発目で胸に致命打を叩き込み、最後に頭部を撃ち抜く。弾の消費を最小限に抑えつつ、着実に「無力化」していくスタイルだ。 棗が三体、華音が二体を仕留める間にマコが倒したのは一体。その動きは極めて慎重だった。
「よし、クリアだ。マコ、いい動きだったぞ。華音も偉い」
棗は、ゆっくりでも的確に当てるマコのスタイルも、弾数を惜しまずスピードで圧倒する華音のスタイルも、どちらも正解だと思っている。 相手が銃火器を持った兵士であれば話は別だが、相手は木製の粗末な銛を手にした知能の低そうな化け物だ。 どんなやり方であれ、今は「生きている的」へ銃口を向け、引き金を引き、その命を奪うという行為を完遂できれば、それで十分だと考えていた。
(……しかし、あのアタシにベッタリだったマコが、モンスター相手とはいえ躊躇なく引き金を引けるか? いくら料理で魚の腹を裂いたり、動物のモツをぶつ切りにするのに慣れてるからって、この光景を見て平気なメンタルだったか?)
一瞬だけ棗の脳裏に、転移の際に女神から何らかの精神干渉を受けたのではないかという疑念がよぎる。だが、棗にしてみればそれは「ナイスなサポート」でしかなかった。感謝こそすれ、今さら恨み言を言うつもりはない。
「マコと汐路は周囲の警戒。華音はアタシから少し離れたところでバックアップ。アタシはこの半魚人の死体を調べる」
: いや、どこの兵士だよ。棗のメンタルやべぇ。
: 手際いいなぁ。マコちゃんも一発一発は遅いけど確実に当ててる。
: マコちゃん、あれで遅いの? 普通じゃない?
: 華音は腹に2、胸に3、頭に1の計6発。ビルドリル(射撃検定)のスコアから計算すれば、トップクラスってほどじゃないが、サイティングを変えながらこれなら十分早いよ。
: 棗のショットガンはどうなん?
: 「普通」。というかショットガンはリロード速度を見ないとな。
: ちなみに棗のスコアは華音より上。下振れした時の棗が、華音のアベレージって感じだ。
: バズったから見に来たワイ、古参の詳しさにビビる。お前らも銃撃ったことあるん?
: 古参はグアムのレンジでオフ会とかしてたしな。ちなみにワイはエアプ。
棗は足元の石を拾い、倒れた半魚人に投げつけて「死んだふり」でないことを確認した。それから一番近い個体のそばにしゃがみ込む。ショットガンを背負い、腰からマチェットを引き抜いて死体へと振り下ろした。
ガキン、と金属同士がぶつかったような音が響く。マチェットは弾かれ、衝撃で数枚の鱗が剥がれ落ちた。棗は目を細めてそれを見つめる。
「硬ってぇ。こいつ、ピラルクみてぇな分厚い『硬鱗』を持ってやがる。特に背中や四肢の外側がガチガチだ。……そういや南米の方じゃ、硬鱗を削って民芸品にするんだっけか? なら、この異世界産半魚人の鱗も売れるかもな」
棗は腹部や関節の柔らかい箇所からマチェットを突き刺し、テコの原理で内側から鱗を剥がし始めた。 バキバキと不快な音が響き、剥がれた隙間から大量の血と内臓がこぼれ出す。ムワッとした生臭い腐敗臭に近い匂いが、辺りに立ち込めた。
「なっちゃん、あまり時間はかけられないよ。かなり臭う……他の奴らが来る」
「だな。この一匹から剥げる分だけでいいか。魔石ってのも探したかったが……」
血の匂いで新たなモンスターを呼び寄せるリスクを考慮し、棗は深追いを断念した。ポーチからビニール袋を取り出すと、剥ぎ取った鱗を拾い集めてマコたちの元へと戻る。
「おう、異世界産とれたてホヤホヤの半魚人の鱗だ。あとで汐路のフリマに出すぜ。本物のスケイルメイルの材料にでもなるんじゃねぇか?」
: 序盤の鎧が作れそうな素材だ。
: マチェットを弾くなら、本物のスケイルメイルが作れるな。
: 銃弾は防げるんかな?
: 貫通しなくても衝撃で骨が砕けるだろうけど。
「実際、腹側を撃ち抜いた9mmホローポイントは、背中側の硬鱗までは貫通してなかったな。22口径や32ACPじゃ、この鱗は抜けない。……こりゃマジで、5.56mmや7.62mm、あるいは50BMGが必要になる場面が出てくるかもしれねぇぜ」
棗は血のついたマチェットを拭い、ニカッと笑った。 「お? そうだ、そろそろ昼か。さっさとここを離れて、楽しい楽しい『銃選び談義』でもしようじゃねぇか!」
意気揚々と歩き出す棗の後ろ姿を見ながら、汐路は「……頼りになるけど、本当についていけるかな」とポツリと独り言を漏らす。画面の向こうのリスナーたちは、そんな彼女を必死にあるいは面白がって励ましていた。
私のビルドリル 大体2.8秒ほどです。A点は1発あるか無いかです。




