表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリガーハッピーは異世界でいきる  作者: stupidog
A Place Filled with Gunsmoke
1/29

第一話 Cold Start

 深い森に囲まれた巨大な湖の畔。キャンプをするには絶好のロケーションだが、百々目鬼とどめきなつめはイラつきを抑えきれずにいた。愛飲しているダビドフのエスクリオを取り出し、女が持つにはやや渋いオイルライターで火をつけ、深い紫煙を吐き出す。


 「ちっ、異世界転移だと? ふざけるなよ。量産された陳腐な深夜アニメかよ」


 「なっちゃん落ち着いて。まぁ不幸中の幸いじゃない、こうやって一緒に転移できたんだし」


  棗をなだめるのは、彼女の恋人、久瀬華音くぜ かのんだった。


 「で、でもこの世界って……モ、モンスターとか居るって話だし、どうしよう?」


 棗のもう一人の恋人、黒崎マコが不安げに棗の腕にしがみつく。


 「ああ、そういやぁ『女神』とか名乗るクソアマが、モンスターだの魔法だのファンタジーだのほざいてやがったな。異能とかいうのも寄越されたが……お前らのはどんな能力だ? アタシは『通販』だとよ。ブックマークしてたサイトから買い物ができるらしい」


 「へぇ。いい能力だと思うよ。ここが中世風の世界なら、現代の商品がないと満足できないもん。私は『セーフハウス』への扉を呼び出す能力。現代日本風のワンルームに繋がってるんだけど、魔石ってのを消費すれば、電気・ガス・水道が使えたり、部屋を拡張したりできるみたい」


 「最高じゃねぇか。だが、アタシの『通販』は日本円しか使えねぇんだ。この世界でどうやってキャッシュを手に入れりゃいい。……マコ、お前は?」


 「わ、私は『配信』って能力。私たちが使ってたアカウントで向こう(日本)へ配信できるみたい。視聴者からの投げスパチャにも対応してるみたい。」


 「なるほど、アタシら三人が揃えばライフラインはなんとかなるってわけだ。……だが、さしあたっての問題はアレだな」


 棗が視線を向けた先には、山梨県のキャンプ場から同じように転移してきた数組の日本人の男女が四十名ほど、呆然と立ち尽くしていた。

 本格的なブッシュクラフトを予定し、フル装備だった棗たちとは違い、彼らは高規格なグランピングエリアでバーベキューを楽しんでいた連中だ。

 ハーフパンツにサンダル、アロハシャツ。手には缶ビールや、食べかけの肉が乗った紙皿。そんな軽装で異世界の森に放り出されたのだ。


 「問題って? なっちゃんの性格なら、協力なんて柄じゃないでしょ」

 「あたりめぇだろ。どんな能力を貰ったか知らねぇが、どう見ても色恋沙汰しか頭になさそうなバカどもばかりだ。足手まといのお荷物確定だが、間違いなく『協力し合おう』なんて抜かしてくる。それにアタシも、華音もマコも面が良いからな。ワンチャン狙ってくるゴミもいるだろ」


 口の悪さと目つきの鋭さを除けば、棗は非の打ち所がない美人だ。清楚系の華音、小動物系で守りたくなるマコ。

 そんな三人が揃っていれば、無法地帯では標的になりかねない。

 十五歳までテキサスで過ごした棗には、日本的な「空気を読む」習慣はない。彼女の辛辣な言葉は周囲に筒抜けになり、あちこちから反感の視線が突き刺さる。


 「ま、ここは日本じゃねぇ。たとえ日本だろうが、協力しなきゃならねぇなんて法律はねぇよ。さっさと人里を見つけねぇと、魔物どころか野生のクマや狼に食われちまうぞ」


 棗は七十五リットルの大型バックパックを下ろし、中から大ぶりのマチェットと、シースに収まったコンバットナイフを取り出した。  キャップを深く被り、長袖のコンバットジャケットにモールシステム付きのベルト、チェストリグまで身につけたその姿は、キャンパーというよりは実戦を想定したサバイバリストだ。


 「ブッシュクラフト用の装備を持ってて正解だったな。グランピングなんぞしてたら、今頃丸腰だったぜ」


「確かにね。でも、戦闘系の能力がないのに魔物と戦えるの? 私のセーフハウスは隠れるくらいしかできないよ」


 「戦闘向きのギフトはねぇよな。だがな、アタシの能力を思い出せ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()から買える能力だぞ?」


 「あ……!」  マコが弾かれたように声を上げた。


 「そっか、そういうことか!」


 「ああ。アタシらの『趣味』がアレで良かったな。……華音、マコ。今いくら持ってる? アタシは五万だ」

 「私もそれくらい。マコちゃんは?」

 「私は念のために十万くらいは……」


 「二十万か。予備として五万残して、十五万を装備に回す。いいか?」

 「背に腹は代えられないよね。何を買うの?」


 「お前ら二人には九ミリ。アタシは12ゲージ(GA)ってところだ。十五万じゃベレッタやSIGの純正品は無理だが、探せばあるだろ」


 棗はテキサス育ちだ。銃規制が最も緩く、トリガーハッピーたちの聖地で育った彼女は、筋金入りのガンフリークだった。日本帰国後も、華音やマコを連れて海外のシューティングレンジへ通い詰め、その様子を配信するのが彼女たちの日常だった。


 「PSA Daggerダガーならクソ安いからな。二挺買ってもお釣りがくるぜ」


 「ダガー? 聞いたことないけど、どこの九ミリ?」


 「パルメット・ステート・アーモリーだよ。グロックGen3の特許切れを突いたクローンだが、各部の造りは本家より気が利いてる。あー、ホルスターは日本のサバゲーメーカーが出してる安モンになるが、そこは我慢してくれ」


 棗は能力を使い、目の前にホログラムのような半透明の画面を浮かび上がらせた。左側のタブからブックマークしていた大手銃器販売サイトを選び、検索欄に指を走らせる。


 「……340ドル。日本円で約5万円か。二挺で十万。それと9ミリ弾百発、アタシ用の12ゲージ、ホームセーフティ・ショットガンにバックショット、それとホルスター類……よし、ギリギリ十五万以内で収まるな。マコ、お前はルガーのEC9でもいいか? あれなら一九九ドルで済むぞ。……それか、スプリングフィールドのXD-Mか」


 「え? スプリングフィールドのXDってそんなに安いの? 」


 「セール中で三〇〇ドルだ。ただ、こいつは予備マグが付いてこねぇ」


 「ちなみにマガジン単品だといくら?」


 「二〇ドルから三〇ドルってところだな」


 「じゃあ私、ダガーよりXDがいい! なんで最初ダガーを選ぼうとしたの?」


 「グロックのマガジンが使い回せる銃は多いからな。あっても損はねぇと思っただけだ。だが、まあ……金があるならわざわざクローン銃を買うこともねぇか」


 「だよね。なっちゃんだって、予算があれば絶対に1911を選ぶだろうし」


 「華音ならフルサイズならM9、コンシールドキャリーならP365ってところか。ま、今はXDで我慢してくれ」


 棗は淀みない操作で、九ミリ・ホローポイント弾百発、スプリングフィールドXDを二挺、予備マガジンを二本。自分用にはスティーブンスの『320・セキュリティ』と、十二ゲージのバックショット(鹿撃ち弾)、そしてスラグ弾を購入していく。


 「なっちゃん……そのショットガン、二万七千円なんだけど大丈夫なの? 爆発したりしない?」


 「ポンプアクションの※ホムセン銃なんてこんなもんだろ。セミオートのタクティカル仕様じゃねぇんだからよ。……日本じゃ銃は許可の手間もあって一挺三十万とかするが、あっちは一家庭に一挺の普及品だ。構造が単純なポンプ式なら、百五十ドルから選べる世界なんだぜ」


 棗は届いたばかりの段ボールを華音とマコに手渡すと、次に大手ECサイトを開き、サバゲー用の格安ホルスターとショットガン用スリングを選んでいく。  その間に華音はボール紙の箱を開け、XDを取り出した。慣れた手つきでマガジンをリリースし、スライドを引く。薬室から※チェンバーフラッグを取り出すと、数回スライドを往復させ、空撃ちでトリガーのフィーリングを確かめていく。


 「ちょっとトリガーリセットまでが長いかな。でも、悪くないよ」


 「三〇〇ドルの銃に多くを求めるな。そのクラスにしちゃ上等だろ」


 棗は購入した「玩具レベル」のホルスターを二人に渡し、自分も段ボールから無骨なショットガンを取り出した。数回空撃ちをして機関部の動作を確認してから、手際よくスリングを取り付けていく。


 「なっちゃん、私とマコちゃんは準備オッケーだよ」


 「ああ、アタシも終わった」


 箱からクリーニングキットを取り出してバックパックに放り込み、棗が立ち上がる。その周囲では、いつの間にか複数の男女がた彼女たちを遠巻きに眺めていた。

Cold Start 準備のない状態からのスタート、効率化や解決策が求められるテーマの事


※ ホムセン銃  ホームセンターでも売ってる安物の銃のこと

※ チェンバーフラグ  プラスチックでてきたキャップのようなもの

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ