第9話 刹那の交錯、残された影
鹿島の闇夜を裂く雷光。
副官タケヒコとスクナヒコナの激突は、街を震わせるほどの衝撃を生んだ。
だが決着は、まだ訪れない。
それはむしろ——“宿命”の幕開けだった。
紫電と蒼光が衝突し、夜空を白く染め抜いた。
港の波は爆ぜ、瓦屋根がきしみ、鹿島の街は一瞬呼吸を止めたかのようだった。
「……っ!」
タケヒコは膝をつきながらも、槍を離さない。
過敏症の神経は悲鳴を上げ、全身が焼けるような痛みに覆われていた。
だが——その痛みの中で、敵の雷脈の乱れを確かに感じ取っていた。
「お前の波長……もう読める」
スクナヒコナの目がわずかに細められる。
「……驚いたぞ、小僧。ここまで適応するとはな」
次の瞬間、スクナヒコナの雷撃が空を裂いた。
しかし、タケヒコの槍はわずかな“揺らぎ”を突き、光を切り裂いた。
閃光が収まったとき——互いの間合いは寸分違わぬまま。
沈黙。
やがてスクナヒコナは口元に不敵な笑みを浮かべる。
「このまま続ければ、確かに決着はつくだろう。だが……」
闇に潜む影が蠢き、背後に星の民の気配が揺らぐ。
「今はまだ、“器”を壊す時ではない」
その言葉と同時に、周囲の空気から雷脈の圧力がすっと消えた。
まるで嵐が引いていくように、夜の港は静けさを取り戻していく。
「小僧——いずれ必ず、“次”が来る。覚えておけ」
小さな影は翻り、闇の奥へと溶けて消えた。
残されたタケヒコは、震える膝を必死に支えながら、槍を握り締めた。
胸の奥で、痛みと共に熱が渦巻く。
(……俺は、逃げない。次こそ、この槍で——!)
港の遠くで雷鳴が鳴り、夜風がざわめいた。
それは、宿敵との果てなき戦いの始まりを告げる合図のようだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
ついにスクナヒコナが正面から姿を現しました。
タケヒコの「雷脈過敏症」という弱点が、戦いの中でどう作用するのかを描けたと思います。
今回の戦いは決着までは至らず、スクナヒコナは撤退しますが——これは一時中断。
長期的な宿敵としてタケヒコの前に何度も立ちふさがる存在になります。
次回は、タケヒコが戦いを通じて感じた“影”が、港や高天院にどんな波紋を広げていくのかを描く予定です。
どうぞお楽しみに!