第7話 雷脈に選ばれし者
鹿島の空は静まり返っていた。
だが、その静寂は試練の前触れにすぎない。
星の影が忍び寄り、スクナヒコナが仕掛ける“器を試す”戦いが、ついに始まろうとしていた。
港の灯りが遠くに瞬く夜。
タケヒコは宿営の一室で、眠れぬまま槍を磨いていた。
指先に走る微かなざわめき——普通の兵なら気づかぬほどの振動が、彼の神経を刺す。
(……まただ。誰かが、雷脈を揺らしている)
不安は確信に変わる。
部屋を出た瞬間、背筋に冷たい戦慄が走った。
「待っていたぞ、雷脈の器よ」
闇の路地に立つ影。
小さな体躯に似合わぬ威圧感、スクナヒコナがそこにいた。
「お前が副官にまで選ばれた理由——この目で確かめてやる」
次の瞬間、紫電が炸裂。
スクナヒコナの掌から奔った稲光は、空気を震わせ、タケヒコの神経をえぐるように襲いかかった。
「ぐっ……!」
膝が折れかける。視界が白濁し、全身を貫く激痛に体が崩れ落ちそうになる。
(……これが……俺の弱さ……!)
雷脈過敏症——人より何倍も敏感に波長を読み取れる反面、強すぎる干渉はすべて刃となって彼を刻む。
最大の長所が、同時に最大の弱点。
スクナヒコナは嗤う。
「どうした? 雷脈の申し子がこの程度か」
タケヒコは歯を食いしばり、槍を突き立てる。
「……俺は、折れない。副官としてじゃない——戦士として、生きるために!」
雷光と雷光がぶつかり合い、夜の鹿島を蒼白に染めた。
それは——最初の“試練”の幕開けだった。
今回は、スクナヒコナがついにタケヒコの前に立ちはだかりました。
タケヒコの「雷脈過敏症」という弱点を突かれつつも、彼の強い覚悟と制御能力が試される展開です。
次回は、この戦いの中で 「なぜ彼が副官に選ばれたのか」 が回想として描かれ、現在の戦闘へとつながります。