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第5話 「裏切りの波紋」

戦は退いたはずだった。

だが、港の闇には密使の影が潜み、議場の奥では若き策士が糸を引く。

タケヒコは知らぬまま、個人を狙った戦いに巻き込まれていく。

鹿島での会議を終えた夜、タケヒコは港の見回りに出ていた。

その傍らには、カナヤ港防衛隊長ミオリの姿もあった。


——出雲軍を退けた戦の経緯を語る「現地の証人」として、彼女は鹿島に召集されていた。

カナヤの防衛は帰還した防衛艦隊と副長に任されており、彼女自身は臨時に鹿島へ留め置かれている。


港にはまだ、焼けた木の匂いが漂っていた。

風は湿って重く、夜の闇に不穏な気配が潜んでいる。


「……また襲撃がある」

ミオリは槍を肩に担ぎ、鋭い視線で路地を探った。


その時、倉庫の影で爆ぜるような音がした。

雷脈の残滓ではない。

——毒粉だ。スクナヒコナが仕掛けたもの。


「下がれッ!」

タケヒコは咄嗟にミオリを庇い、雷脈を放出して毒霧を散らした。

だが直後、小柄な影が音もなく迫る。


「出雲の密使……!」


稲妻のように俊敏な身のこなし。

閃く短剣がミオリの頬をかすめた。


タケヒコは反射的に剣を抜き、雷脈を流し込む。

刃は火花を散らし、暗闇を裂いた。


「相手してやる!」


狭い路地を舞う電光と影。

スクナヒコナは粉を撒き散らし、雷を鈍らせて翻弄する。

タケヒコは苛立ちながらも冷静に応じ続けた。


「くっ……厄介な……!」


その背を、別の稲光が貫いた。


「……タケヒコを殺させはしない!」


声の主はサクヤだった。

彼女の掌から迸った雷が、スクナヒコナの足を撃ち抜く。


一瞬の隙にタケヒコが剣を叩き込み、短剣を弾き飛ばす。

呻き声とともにスクナヒコナの影は闇へと退いた。


静寂が戻る。

ミオリは悔しげに槍を握りしめ、サクヤは荒い息を整えている。


「タケヒコ……大丈夫?」

彼女の瞳が、不安と安堵に揺れていた。


タケヒコは黙って頷いた。だが胸の奥にざわめきが残る。

(なぜ俺を狙った? ただの副官に過ぎない俺を……)


夜空に瞬く星の光が、冷ややかに見下ろしていた。


タケヒコはついにスクナヒコナに狙われ、彼自身が「なぜ標的なのか」という疑念を抱き始めました。

この夜の衝突は短いものでしたが、確かに彼の胸に傷を刻んでいます。


退いた密使、残された不安、そして夜空の星影——。

すべては次なる試練への序章。

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