表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第4話 港に残る影

出雲艦隊は退いた——しかし、それは嵐の前の静けさだった。

港に残されたのは傷ついた兵、焦げた木材、そして見えぬ陰謀の影。

海面には、雷脈砲の余波でできた白い稲妻模様が、まだ薄く残っていた。

タケヒコは桟橋で残存雷脈を確認しながら、兵の撤収を指揮する。


「副官、お怪我は?」

港の防衛隊長ミオリが駆け寄る。

彼女の瞳は真剣だが、その奥にわずかな安堵が混じっていた。

「大丈夫だ」

タケヒコが短く答えると、ミオリはふっと笑みをこぼす。

「……よかった。あなたが無事じゃないと、この港は守れませんから」

わずかに頬を染めたその顔を、アマユキが鋭く横目で睨んだ。


港の一角、サクヤは負傷兵の治療を続けていた。

その手つきは舞のように滑らかで、雷脈による微細な治癒刺激が傷口を早く塞ぐ。

兵の一人が感謝の言葉を告げると、彼女はわずかに笑い、視線を遠くのタケヒコへ送った。


(……やっぱり、北の血。感受性が澄んでる)

昨日の同調の感覚が、まだ胸に残っている。


——その頃、港の裏通り。

倉庫の影で、出雲の密使スクナヒコナが町の男と密談していた。

「この粉を船底に撒け。次に港を訪れた時、船は自ずと沈む」

男は恐る恐る小袋を受け取り、人混みに紛れる。


その影を、灰色の外套をまとった者が見ていた。

雷脈の波長を読むその目は、日高見の者ではない——星の民だ。



高天院・議場。

半円形の議席が陽光を受けて白く輝く中、北派と南派が向き合っていた。

アラヒコ議長(北派筆頭)が杖で壇を叩く。

「北方防衛こそ国の命脈。南進は背を敵に晒す行為だ」


南派副議長アヤメが、ゆるやかに立ち上がる。

艶やかな黒髪と切れ長の瞳が、議場の空気を一変させる。

「現状維持を安定と呼ぶのは、死を先延ばしにするだけです。

 南方交易を開かずして、どう国を養うおつもり?」


議場の外で待機していたタケヒコは、その声を耳にし、ふと窓越しに視線を送る。

中ではアヤメが、まっすぐ彼を見返して微笑んだ。

その一瞬を見逃さなかったサクヤが、横で僅かに眉をひそめる。


(……港だけじゃなく、高天院でも女関係が増えるの?)

隣のアマユキは腕を組み、わざとらしく咳払いをした。

さらに後方のミオリも、議場を見ながらそっと唇を噛んでいた。


議論の熱が高まる中、南派若手議員ツキヨミが密かに回廊を抜けた。

彼の手には、高千穂の祭祀長アマツから届いた封書。

中には「南方統合案」の文字が躍る。

「……老人たちが気づく頃には、もう遅い」

ツキヨミは薄く笑い、封を懐にしまった。


——その動きを、議場上階の影から監視する視線があった。

星の民、そして出雲の密使。雷脈の波長が静かに交錯していた。

今回は戦闘後の静けさの中に、政治的な火種と恋愛の火花を忍ばせました。

タケヒコを巡って、サクヤ・アマユキ・ミオリ・アヤメの四人が

それぞれ違う形で意識し始めています。

次回はツキヨミの策動と、星の民の不穏な接触が動き出します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ