天国
あの後一度部屋に戻ったのはいいものの、あっという間に夕食の席になり食堂へ向かった。
夕食を生きている全員だけで囲うのは今日で終わる。今日が最後の晩餐となるのだ。
今日を乗り切れば、明日になれば、明日になってしまえば――――。
願おう、最後まで生き延びることが出来ますように。
食堂に一番乗りで来た私に続いて瑠夏、杏奈、謙、そして最後に葵が少し気まずそうに入ってきて、席に座る。
今朝の事件以降葵と話してはない。まず部屋から出ていないのだろう。感情に任せた怒りは消えたように見えるが、少し落ち着いただろうか。
集まった招待客をみてだいぶ減ったなと思った。
今生き残っているのは、謙、瑠夏、葵、杏奈、そして私の四人だ。館に来た当初十三人いたとは、誰が想像できるだろう。九人の死、いや、舞香のお腹の子も含めてーーーー十人の死だ。たった六日間で十人の人間が死んだのだ。
死んでしまった人には申し訳ないが、ここまで生き残ることができて本当によかった、と安心している。
何度か危険こそあったものの、幸い特定で狙われることはなかったし、なんとか回避することができた。それはこの館にいる人間のおかげでもある。
だが、まだ警戒を緩めてはいけない。後一日、油断は禁物だ。
十八時になり、アベルが衝動に現れて私達は最後の夕食に手を合わせた。
テーブルの上には、手作りのピザやトマトのブルスケッタ、生ハムがたっぷり乗った野菜サラダ、ブロッコリーの入ったペンネが並べられた。
(今日はイタリア料理か。相変わらず国見はすごいな)
並べられた料理の中に肉料理が一切ないことから、あれは斉藤夫妻のしたいこと『お肉をたくさん食べたい』という願いが叶ったことが窺える。
そして夫妻が死んだ今、肉料理を出す必要はなくなったということだ。
食事を終えて、いつも通り部屋に戻ろうとする私達をアベルは引き止めた。
「皆さん、そのままお座りください。大事な話があります」
戸惑いながらも、あげた腰をもう一度下ろした。
「皆さん、今日までよく乗り切りましたね。本当にお疲れ様でした。今晩ででこの館の宿泊は終了となります。心残りはありませんか? 皆さんの為に用意した天国はいかがでしたか?」
「天国って……どこがっ……」
「美紀さんはお気に召さなかったようですね〜」
「当たり前でしょ。どれだけ人が――」
アベルは顔の位置で手を挙げて、私の言葉を制した。
「美紀さん。勘違いしないでいただきたい。ここは『あなた方の本性、本能、欲望、全て解放』できる場所なのですよ。死んだ人間に寄り添い、慈悲するのではなく、あなた自身、その人自身が天国だと思えたのか、を聞いているのです」
むかつくけれど、私が先走ってしまった。
確かにその人自身が天国だと思うことができたら、ここは天国なのだろう。事実誠も斉藤夫妻もここを天国だといった。
「僕には地獄にしか思えなかったよ、アベル」
「そうですか、残念です」
「私は明日決めるかな〜最後に決めるよ〜」
「それがいいですね! 杏奈ちゃんはどうでしたか?」
「どちらかというと、私は地獄だと思う。二度と招待して欲しくない」
「そうですか、それは残念です」
葵と瑠夏、杏奈はアベルの質問に答えたが、謙はだんまりとしていた。各々の結果がどうであろうと、アベルは眉ひとつ動かさない。
謙は食事は口にしたものの、ずっと一点を見つめ口をぱくぱくと動かしている。まるで目に見えない何かと会話しているようにも見えて気味が悪い。
アベルも流石に話が伝わらないとわかっている相手に尋ねることはしなかった。
「そこで、最後のイベントです! 最後のイベントは『告白』です」




