恐怖の底へ
――――誰だ?
「いや、やめてくれよ」
「そうですよ。僕たちな訳ないじゃありませんか」
「とか言う奴が一番怪しいんだよ〜。ね〜?美紀〜」
――――誰だ? 黒幕。
この四人の中で人を裏切り、操った悪魔はどいつだ?
瑠夏か? いや、瑠夏は噂こそ好きだが、人を操り動かそうなんて発想すらできないだろう。馬鹿だから。口から生まれたような子だ。マイペースで人懐っこく、つい余計なことまで喋る癖はあるが、自分から率先して何かをするタイプでない。
もし、犯罪を犯すなら、自分の手を汚してしてもいいと判断する筈だ。
では、葵か? 葵もそれなりに馬鹿だが、人当たりはよく誰とでも仲良くなれる特技を持っている。たまに癪に触るが、悪いやつではないことは、これまでの関わりから窺える。人を犯罪へ導くというより、人助けを優先してしまう性だ。
どんな人であろうと、どんな助けであろうと、例え体を売ろうとも。優しすぎるから人を殺すことはできないだろう。
となれば残るは誠。彼は何を考えているのかわからない。この中で一番関わりのない人間だ。普段こそ、猫背で自信情けで如何にもいじめられそうな見た目と性格だが。恐らく、もう一つの顔を持っている。時々別人のようになる。デッサンのイベントの時に見た顔、それが彼の本当の顔だと思う。芸術、創作に対しての表現なのかもしれない。だが、仮面を外し、本当の顔、人格が変化した時、何をしでかすかわからない。
一つ言えることは、芸術も犯罪になりうるということだ。
「美紀? ちょっと大丈夫?」
「あ、ごめん。大丈夫」
「美紀さんは黒幕じゃないよね? 違うよね?」
葵は苦笑しているが、目は真剣だ。
何故か皆の視線が熱く感じる。そうか。皆、怖いんだ。自分が誰かに操られているかもしれないという不安。誰かの罪に加担しているかもしれないという恐怖。誰も信じられず、自分すら信じられなくなる環境のせいで、気が参っている。だから違うと否定して欲しいのだろう。
一連の事件の黒幕の話題は、私達を更に恐怖の底へ導いた。
「そんなわけないじゃん」
葵は安堵の息をを吐き出す。
「まあ、なんにせよ。皆生きようぜ。生きてここを出ような」
皆安堵の笑みを溢す。
この中に黒幕がいないことを願おう。葵の言う通り、皆生きてここを出られることができれば、彼らからすればこの上ないことだと思う。
瑠夏と葵が恋愛話で盛り上がっている中、誠に絵の話題を振る。
「そういえば、誠くん。本当に絵が上手なんだね」
誠をもっと知ってみたい、そんな好奇心から彼を褒めてみることにした。
「はい。でも少し怖がらせちゃったかなって」
「そう? 私は感動した。とても素敵だなと思ったけど」
実際は気味が悪いと思った。だが、本人の前で言うことではないし、彼の本当の顔をもう一度見たい。また見ることができるのなら、私は平然と嘘をつく。
「ありがとうございます。自分でも気に入ってて、部屋に飾ってるんです」
(あの絵と一緒に過ごせるとは……大した変人だな)
誠はハッとした顔をした。
「よかったらあげましょうか?」
「……大丈夫。気に入ってるんでしょ? 私なんかが貰っていいものじゃないよ」
「そうかな?」
照れながら微笑む誠に、私もそれに倣って微笑み返した。
「でも、そうだな〜。もっとみてみたいかも。誠くんの芸術を」
「僕の芸術ですか?」
「そう。だってここは、本性、本能、欲望、全てを解放できる場所でしょ? ここでしか出来ないことがあるんじゃないかな?」
少しの沈黙の後、顔を上げた。
「そうですよね。せっかくここに来たんだから……。わかりました。本当の芸術を僕が作ってみせます」
「楽しみにしてる」
一体彼はどんな芸術を私に見せてくれるのだろう。全くもって予想つかないが、天と地がひっくり返るほどの素晴らしい作品を期待しよう。
たわいもない話をした後、私たちはそれぞれ部屋へ戻った。
夜寝ていると、何やら釘を打つような音が聞こえた。途切れどきれに小さく聞こえる音。
この音は、一体どこから発しているの?
様子を見に行きたいが、体が動かない。金縛りにかかったように、意識はあるのに、体は重たく動かすことができない。
私は睡魔に弱いのだ。少し気になる音なんかよりも、自分の睡眠が大事だ。
まあ、いいか。明日になれば音の原因もわかるだろう。
翌日、目が覚めて支度をする。いつものルーティンを終えて、食堂へ向かう為階段を降りた。
階段を降りて見えるのは館の玄関である二枚の木製の扉。
だが、今日は扉が見えない。何かによって塞がれているのだ。
その何か、とは。
私は何度も目を擦りそれをみる。
自分の目を疑った。これは今までにないほど、残酷だと思った。
そこにあったものは…………。
改稿できてないです、今週中にやります。




