表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/54

死ぬまでにしたいこと

「丁度二人で話したかったんですよ」

「私と? なぜ?」


 どういうわけか、アベルも私と同じ気持ちだったのだ。

 私が彼を警戒しつつ、それでも彼を知りたいと思うように、彼も同じことを考えているのだろうか。


「美紀さんは、死ぬまでに好きなだけしたいことってなんですか?」


 また、この質問か。

 ないといえば、この場で殺されるかもしれない。目の前にいる少年は、人を殺すことに躊躇しない。考える時間すら、死ぬまでのタイムリミットに感じる。

 なら、適当でもいいから答えろ。

 ふと、私の頭に浮かんだ文字を答える――。


「友達――――」

「友達?」

「うん、友達とお話をすること」


 アベルは首を傾げた後、苦笑した。

「案外、普通なんですね」

「普通なのかな?」

「ええ、ごくごく一般的なことでしょう。美紀さんならもっと、でかいことをいうと思っていました」

「多くは望まないよ。ただここ()にきて、願うことは一つだけだよ。それさえ叶えばいい」

 

「クッソつまらないな――」

 そういったアベルの目は、いつものように生気を失った目、ではない、何か、もっとこう、物騒なもの。

 まるで親の仇でも見るような目をしていた。


 私は嘘をついた。

 死ぬまで――なんて特にしたいこと、はない。元々趣味があるわけでもないし、舞香のように好きな人がいるわけでもない。

 友達ができたことは私にとって会心であり、有利であり、必要であることに間違いないが、目当ての商品に付いてくる、おまけものティッシュのようなでもある。


 死ぬまでなんて関係ない。

 私の願いは、最後まで生き延びること、だ。

 そのためなら私は何度でも嘘を重ねる。


 もし、この場で、この部屋で、「したいことは、ない」と口にしたものなら、私の命はすでになかったかもしれない。国見啓介のように――。

 ここにいるのは、二人だと思っているのは私だけで、実は扉のすぐそばで牧村が待機しているかもしれない。アベルは後ろで手を組むと見せかけて、実はナイフを持っているかもしれない。


 ところで、私に向けられた目は、どうしてそんなに憎しみに満ちた目をしているだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ