死ぬまでにしたいこと
「丁度二人で話したかったんですよ」
「私と? なぜ?」
どういうわけか、アベルも私と同じ気持ちだったのだ。
私が彼を警戒しつつ、それでも彼を知りたいと思うように、彼も同じことを考えているのだろうか。
「美紀さんは、死ぬまでに好きなだけしたいことってなんですか?」
また、この質問か。
ないといえば、この場で殺されるかもしれない。目の前にいる少年は、人を殺すことに躊躇しない。考える時間すら、死ぬまでのタイムリミットに感じる。
なら、適当でもいいから答えろ。
ふと、私の頭に浮かんだ文字を答える――。
「友達――――」
「友達?」
「うん、友達とお話をすること」
アベルは首を傾げた後、苦笑した。
「案外、普通なんですね」
「普通なのかな?」
「ええ、ごくごく一般的なことでしょう。美紀さんならもっと、でかいことをいうと思っていました」
「多くは望まないよ。ただここにきて、願うことは一つだけだよ。それさえ叶えばいい」
「クッソつまらないな――」
そういったアベルの目は、いつものように生気を失った目、ではない、何か、もっとこう、物騒なもの。
まるで親の仇でも見るような目をしていた。
私は嘘をついた。
死ぬまで――なんて特にしたいこと、はない。元々趣味があるわけでもないし、舞香のように好きな人がいるわけでもない。
友達ができたことは私にとって会心であり、有利であり、必要であることに間違いないが、目当ての商品に付いてくる、おまけものティッシュのようなでもある。
死ぬまでなんて関係ない。
私の願いは、最後まで生き延びること、だ。
そのためなら私は何度でも嘘を重ねる。
もし、この場で、この部屋で、「したいことは、ない」と口にしたものなら、私の命はすでになかったかもしれない。国見啓介のように――。
ここにいるのは、二人だと思っているのは私だけで、実は扉のすぐそばで牧村が待機しているかもしれない。アベルは後ろで手を組むと見せかけて、実はナイフを持っているかもしれない。
ところで、私に向けられた目は、どうしてそんなに憎しみに満ちた目をしているだろう。




