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騎士の物語


「これは、立派な一人の騎士の物語なんだけど。ある国に王様がいたの。とても優しくて部下思いで、ミステリアスで、彫刻のようにかっこいい王様。その王を守るために国中の騎士は身を粉にして戦った。ある時は他国へ行き、ある時は天界の神とさえ戦った。様々な逆境を乗り越え国と王を守り抜いたんだけどね、騎士が自国に帰ってきた時、王は壊れてしまっていた。以前のような優しさもなくなり、彫刻のような顔は痩せこけ、王は部下に罵声を浴びせるようになっていた。玉座にいる王はまるで別人になっていた」


 杏奈は予想以上に興味があるようで、目を丸くし物語に釘付けだった。

「それで? 次は?」と食いつく杏奈に、物語を続きを聞かせた。


「王に忠誠を堅く誓った一人の騎士がね。その原因について調べ始めたの。メイドや執事に探りを入れて、時には変装を、時には罪まで犯して、隅から隅まで調べあげた。何日も何日も。すると一人の女の存在が明らかになった。メイドたちの証言によると、彼女は夜にしか現れない。という、不思議な女だった。何かに操られているかのように、王様は昼に寝て、夜に起きる、そんな生活を繰り返した。理由は女に会うため。女などに惑わされる王――。『ああ、きっと王はもう限界だったのだろう。王という地位への嫌悪、王の弱さに漬け込んだ女』そして不自然に思った騎士は、夜に王の部屋に乗り込むことにしたの。そして、ついにその時がきた。彼は女の正体を明らかにしてやる、と罰せられることを承知で剣を持ち、王の寝室に乗り込んだ。すると、そこには女がいた。待ちくたびれたぞ、といわんばかりに女は騎士を鋭い目つきで凝視した。だが、騎士は女を見ると、体が固まったように、動けなくなった」


「なんで?」杏奈は訊く。


「理由はね、それはそれは美しい女性だったから。女には妙な魅力があった。男なら誰しもが惹かれてしまう、全てを兼ね備えたような美女。世界一黒が似合う女だった。目が合えば魅入ってしまう綺麗な瞳。街を歩けば誰もが振り向く容姿。お堅い騎士さえも目を奪われた瞬間だった。やがて太陽が昇ると、女は姿を消した。幸い王の寝室に入った騎士は何の罰も受けず、咎められることもなかったが、それ以降、部下に対する王の当たりが一層強くなった。けれど、王から『出ていけ』『殺すぞ』など今まで聞いたことのない声で罵声を浴びるようになった騎士達は次々と王から離れたいった」


「そんな王様、嫌だね。騎士は王のために命を賭けたというのに。私でもそんな王様離れると思う」


「そうだね。でもこれにはまだ続きがあってね。その騎士はただ女に見惚れていたわけではないの。誰よりも優秀な騎士は、あの女が人間ではないってことを知っていた。何故なら、頭に生えたツノと、背中に羽が生えているのを見たから。いくら美しい女でも、人間ではない女を王の側に置いておくわけにはいかない。そう判断した騎士は、たとえ王が壊れても、廃人になっても、その女を殺すべきだ――。と決意を固め、実行に移した。そして、ついに実行日。予定通り、王の寝室に女は現れた。女は王の頬を撫でた瞬間。騎士は気配を消して女の背後に周り、剣を頭上から振り落とそうとした、その時――――」


 物語を遮るように、本の部屋の扉が開くと同時にアベルが手を叩きながら部屋へ入ってきた。狭い部屋中に響く拍手が物語を終わらせた。

 前のめりで聞いていた杏奈は、少しがっかりした表情を見せると、小さくため息をついた。


「その話知っています! タイトルはなんだっけな。確かライトノベルの! 素晴らしい物語だ!」


 本当に知っているのか? と疑うほど、誰でも並べられる雑なセリフに苦笑するも、またアベルと話す機会を得た、と内心期待をした。


「ええと、確か『悪魔の――』なんでしたっけ?」

「これ、タイトルいうとネタバレになっちゃうんじゃない? そうでしょ? 美紀さん」

 

 私がこくりと頷いた。

「なら言わないで。続き、気になるから」


 この少女はやはり賢い。その通りだ。タイトルが全ての伏線を回収するのだ。この物語は結末が大事なのではなく、結末までの過程が面白い物語。


 騎士の忠誠心、王という権力を持つ者の弱さ、悪魔の囁き、それらが交わり、小さな世界を変えてゆく者達の心の弱さと真の強さの物語だ――。


「では、話が終わったなら、杏奈ちゃんは部屋に戻った方がいいでしょう。お母さんが探してましたよ」


 杏奈は視線を本から下へ移すと、深いため息をついて「わかった」と部屋を後にした。

 この空間に私とアベルの二人だけとなった。聞きたいことは山ほどあるのに、いざとなると会話が出てこない。

 何から聞けばいいものか。

 するとアベルの方から話しかけてきた。


「丁度二人で話したかったんですよ」

いつも読んでいただきありがとうございます。

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