死の概念
「僕が、殺しました――――」
「無能な世間が裁かない犯罪者を集めて、殺しました」
「――何故かって? それが僕の愉悦でしたから」
「ああ、本当に幸甚で心踊る十四日間だった。幸せでしたぁ」
「ある者は人形みたいに操り殺しました。また、ある者は絶望の淵まで追い込み自死させました。でも、不思議ですよね。僕は誰一人触れていません。寧ろ自分の首に傷があるんです」
「十三歳の僕をどう裁くおつもりですか?」
「皆様も、ご招待しましょうか? 僕が作った天国へ――――」
*
舞香の死亡して数時間が経過した。
特にやることもないので、本の部屋へ向かう。
瑠夏や皆は夕食後の夜や空いた時間に、本の部屋に集まり談話をしているようで、いつの間にかその部屋は談話室と呼ばれるようになっていた。
皆に合わせるように、私の本の部屋を談話室と呼ぶようにした。
先客がいたようで、そこには白いワンピースを着た小さい女の子が自分より背の高い本に手を伸ばしていた。
親切心より出来心が優先し、驚いた顔が見たいという欲をもって、本を取ってあげよう、と彼女の後ろへ音を立てずにそっと向かう。
「これを取ればいい?」
「はい」
突如背後現れた私に驚いた素振りも見せない彼女に、つまらない、やはり気味が悪いと感じる。
このくらいの小さい女の子なら、うわっ、とか反応するはずなのに、面白味のない子……。
杏奈は自分の顔より大きい本を持つと、テーブルの椅子に腰を据えた。杏奈と向かい合うように私も対面で椅子に腰を下ろした。
「この館に来て怖いことがたくさん起きるね。杏奈ちゃんは大丈夫?」
「怖いですか? 私は大丈夫です。むしろ楽しんでいる人も居るんじゃないですか?」
杏奈は私を数秒凝視し、やがて視線を本に戻す。
「……人が死んでるんだよ。それでも怖くないの?」
「死がなぜ怖いというのか理解できません。死はその人の運命であり、奇跡です。それに、死が解放という考えの人もいます」
「杏奈ちゃんは、どう思っているの?」
「死=解放です」
「なぜそう思うの?」
「何故でしょう――物心ついた時からそう思っていましたから」
「なら、質問を変えるけど――死にたい?」
「…………どうでしょう。死にたい、という概念がないかもしれません。でも、もしここで死ぬのなら、それは本望でしょう」
杏奈は、私の背後にある窓に視線を向けた。その表情はひどく大人びた顔をしていた。
窓の外には草と木、そして檻がある。残念なことに、そこに太陽はない。ここは日の当たらない部屋。この部屋にほんの少しでも日が入れば、彼女の冷え切った心を温めてくれたのだろうか。
「杏奈ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「もしかして……転生者?」
相変わらずの無表情だが、口をぽかんと開けたまま杏奈は呆然とした。
「はい?」
「いや、なんかさ、例えばだけど。人生三週目とか、前世で立派に騎士の役目を果たして、燃え尽きた! とか、だったりする?」
「美紀さん、頭大丈夫ですか?」
「あはは……だよね?」
「はい」
杏奈は私を怪訝な顔で数秒見つめると、再び視線を本へ戻す。私が話すたびに杏奈はこれを繰り返す。
冗談。いや、半分本気で思いついたことを聞いてみたが、我ながら馬鹿だ、と苦笑する。
「転生者とか、騎士とか、よくわかりませんが、そんなファンタジー要素のある人間ではありませんよ」
「だよね。あまりに大人びてるから、もしかして? って思っちゃって。昔、読んだことがあるんだ。騎士が王を守る話」
「どんなお話なんですか?」
彼女が初めて私の会話に興味を示した瞬間だった。
そうか、この物語ならピッタリじゃないか。
なら、その物語について語ってあげよう。
「これは、立派な一人の騎士の物語なんだけど――」




