美女は薔薇と散る
舞香の部屋は、人が死んだとは思えないほど生活感があった。旅行用のキャリーバッグは隅に置いたまま、手荷物で持っていたカバンの中には財布や携帯が入っている。そして最後に飲んだであろうペットボトルの水はテーブルに置かれている。
何より昨日の夜、着ていた服がベッドに散乱している。
婚約者が死んだ舞香を不憫に思い、アベルが慈悲でもかけて逃した可能性も考えたが、財布や携帯を置いていったことから、その可能性は低いとみていい。
そして、確認することがもうひとつ。
これで舞香の死亡は確定する。
首吊り自殺の場合、ロープをかけた手摺に何十キロもの負担がかかる。
であればロープによって擦れた跡、あるいは、部屋にあるお粗末なロープを使ったのであれば、摩擦によって落ちた糸屑でもあれば、確実に首吊りを図った充分な証拠になる。
「あった……ご丁寧にどっちも残してくれる」
手摺にロープによって擦れた跡、摩擦によって落ちた糸屑。
ああ、舞香は本当に死んだんだ――。
「残念ね……せっかく仲良くなれたと思ったのに」
いずれにせよ、食堂の長いテーブルに舞香が並ぶことはもうない、ということだ。
とある物語で美女と野獣が恋をする話がある。
どこか町に馴染めない心優しい美女は野獣の城に迷い込んだ。そして野獣に出会った美女。やがて野獣の呪いを知るが、美女は野獣に恋をしていく。
しかし、元は人間だった野獣は、傲慢な性格だったがゆえに魔女が野獣に変えた。
薔薇の花が散るまでにお互いを愛さねばならない。
結局最後は美女が涙を流し、それが愛となり野獣は人間に戻り二人は結ばれる。
そんな話だったか。
得られるのは自分の元の姿、そして真実の愛。そして未来。
館へ来て、得られるはずだった未来を舞香は失った。
優作がもし、魔女に魔法をかけられ自分が醜い野獣になっていたら、あの身勝手で傲慢な性格も変えられたなら、お腹にいる自分の子供の存在が薔薇となっていたら、二人の愛は真実の形になったのかもしれない。
薔薇すら散ってしまった今、どれだけ涙を流しても優作が生き返ることはない。
無論、舞香も生き返らない。
願わくばここではない、黄泉の国と呼ばれる本当の天国で二人は再開し、それが二人の幸せとなればいい。
そう祈りを捧げよう――――。
矛盾点ないようにしてますが、ミスあったら申し訳ないす……




