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16. ほぼ、全員集合

毎度ご訪問ありがとうございます。

今回のお話では、ドタバタとメインキャラが全員集合します。

気に入っていいただけると、嬉しいです(-人-)。

診療所の仕事を終えた慧は、白衣を脱いで住居の2階へ向かった。今日は藍の大学の友達が大勢遊びに来るとのことだった。

リビングに入ると、なにやら普段と違う匂いが漂っていた。出汁と香味油、そして焦げる直前の甘辛いたれの香り。


藍とともにキッチンに立つ女性。リビングにも何人かいる。


「お、やってるな。こんにちは、藍の大学の友達ですか」


さっとやってきた長身の女性はにこりと笑い、指先を立てた。


「慧さん、お久しぶり〜!ひのかだよっ☆ お元気だった?」

「ん?どこかでお会いしたかな?」


ひのかの指先の炎の揺らぎを見たとき、慧の脳裏に何かが流れ込んだ。


──母方の遠縁。海外で暮らしていたが、留学で一時帰国中。 しばらく姉妹で祖母の家に間借りすることに──。


「そ……うだったな、ひのか、随分と大きくなったな」


ひと呼吸置いてから、慧はうなずいた。そうだ、彼女はひのか。小さい頃に会っている。そうだった。そう……小さい頃……。記憶がぼんやりしている。


「藍、ええっと確か……」

「そう、ひのか、キッチンにいるのか長女のくくり、そこに座ってるのが、次女のなぎと……ソファで寝てるのが末っ子のしなつ」


「ああ……藍、記憶が曖昧なんだが、最後に会ったのはいつだったっけか」


慧が小声になる。


「あ、そうだよね、結構前だから、私も小さい時だったし何年前かは、わ、忘れちゃった。あはは」


そのとき、チャイムが鳴った。

紗夜と立川、そして千早がやってきた。


「おじゃましまーす! わ、なにこのごちそう!?」

「藍ちゃんが作ったの?」

「まさか、ひのかのお姉ちゃんの、くくり料理長作だよ。紹介するね。長女のくくり、次女のなぎ、で、ひのかでしょ、そして末っ子のしなつだよ」


初めまして〜の声が飛び交う。


「あ、そして、うちの兄の慧です」

「慧さん、お久しぶりです。今日は押しかけちゃってすみません」

「どうもお邪魔します、立川です、こっちは鷹野で、みんな同じ学部なんです」

「こんばんは、みんな、藍のことよろしくね。ゆっくりしていって」


爽やかな笑顔に紗夜の目もにっこりと細くなる。


「それにしても、ご親戚に藍と年齢が近い四姉妹がいたんですね」

「うん、そうだな、実は俺も今日初めてし……」


と言いかけたところで、慧はふと違和感を感じた。


(いま、俺は初めて知ったと言いそうになった?初めてのはずはない、昔に会ってことがあるはずで、母方の遠い親戚──)


ひのかがちらりと慧を見る。


(記憶が──いや、でも確かに幻術にかけたのだが)


千早はその様子を、やや離れた場所で無言で見ていた。 火野 花と名乗る女──闇の気配はしないが幻術を操る。自分と同じ術使いなのか、それとも伏間 藍の式なのか。いずれにしろ能力者に違いない。残りの3人も同じ気配がする。そして藍の兄にも幻術をかけたようだが、少し様子が変だ。


そのとき、慧のスマホが鳴った。


「湊。 ああ、どうした?」


”湊”の言葉に藍はハッとした。電話している慧の袖をつかみ「お兄、東雲さん、うちの大学で講師してたの知ってたの?」咄嗟に言葉が出た。


「え?講師?湊が? なあ湊、白月大学で講師してるって? 何で黙ってたんだ? まあ……それならちょうどいい、お前も今から来るといい」


電話を切ると、慧はため息をついて「まったく……」と呟いた。


「大学で会ったのか」

「う、うん、大学院の方で教えているみたい。いきなり声かけられてびっくりしちゃった」

「あいつ、たまにこういうところがあるからな。人を驚かせて喜ぶとか」


(確かに東雲さん、こういうの楽しんでる節がある。掴めない人)


しかし、異界の存在たちが一堂に会して何か起きないかと藍は心配でたまらなかった。しかも、ネモが留守にしている今このタイミングで。


(後で怒られそうだ)


その時チャイムが鳴った。東雲にしては早すぎる。誰だろうと考えながら玄関のドアを開けると、そこには銀髪で和服姿の美青年が立っていた。


「ネ、ネモ!! 何でここに? いつ人界に帰って──」と言いかけて手で口を覆う。

「いつ帰ってきたの?」

「先ほどな。クラが拗ねておったぞ、一人残されたとな」

「いや、だってクラが来たらどう考えてもおかしいでしょ」


と答えた矢先にネモの後ろからヒョイとクラが顔を出した。


「ちょ!! 来てるし!」

「どうせ幻術をかけているのじゃろ?一人二人増えたとて変わらんわ」

「違うんだって、かからない人がいるのと東雲さんが──」と大声を出しかけた藍は、再び手で口を押さえた。


藍が何とか帰らせようと玄関先で押し問答をしていると、中から慧、後ろから湊がやってた。


「ああもうだめだ」藍は頭を抱る。

「おう、きたか湊。その人たちは? ん?あなたは、ね──」


と慧が問いかけたその時、ネモが指を立て「封文──記憶の外縁、静かに戻れ」と呟いた。


「ああ……お隣の神社の根元さん。藍たちがお世話になっています。どうぞ入ってください」


中に入ってく時、ネモは湊を一瞥し、そして藍に視線を送った。


(ネモ、お兄に何かした?それに、じ、神社って? ああ……もう何が、どう間違って、こうなっちゃったんだろう)


忙しい兄をこんな形で巻き込んでしまったことに、藍は罪悪感を感じていた。友達を招くことはいいとして、騙しているようで少し胸が痛んだ。本当のことを話せたらどんなにかいいのに、と。


「大丈夫。君が案じていることは意外とすぐに解消されると思うよ」


と言いながら、東雲は藍の肩をぽんと叩くとにっこりと笑った。

藍はギョッとした。まるで考えを覗かれているようだった。


「それにしても、今日は一段と面白い気配がするね。君にくっついていた彼にも挨拶ができそうだ」

「あ、あの!東雲さんはどこまで見えて、その……わかっているんですか。それに、案じていることがすぐに解消されるって……。あと、こないだ図書館の──」

「はは、質問が多いね。僕は、そう……気配がわかるのと、君が知らない昔のことを、少しだけ、知ってるだけだよ。ほら、ここで長話してるのもなんだから。行こうか、上が気になるんだ」


はぐらかされた気もするが、藍も気が気ではなく、促されるままに階段を駆け上がった。



──第17話へつづく。(次話:17. よみがえる二つの記憶)

ここまで読んでくださりありがとうございます。


また静かな境界のほとりで、お会いできますように(-人-)。


※毎週火・金曜の22:00更新。お楽しみに。

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