プロローグ
この物語は実在する人物、国、組織、および地域などとは関係ありません。すべてフィクションです。
「G-72-1、G-72-1、降下準備開始!」
無機質な空間で放送が響き渡る。
機械的なスーツを身につけている彼の姿はSF作品に出てくる戦闘用人型ロボットに似ている。そして、その姿はまるで”ロボット”のようだ。立ち振る舞いこそ”ヒト”だが、その表情や目はロボットそのものだった。
そして放送がなり終わってから数分後、無機質な光景に光が差し込む。光が差す方向を見ると、その先は黒く染まった空だった。嵐と思わせるほどの空間にスプライトが走る。それは自然生成のものではなかった。男はそこから魔術因子の存在を感じた。
「G-72-1、出撃する」
無機質な声がオペレーターの耳に伝わる。そして、彼は絶望の地へと降り立った。
辺りには血や装備で溢れかえっていた。その多くは科学国際連合(SUN)のものだ。男にとってそれらは味方であるうえ、男が所属する陣営だ。しかし彼は“ロボット”だ。そんなものは気にも留めていない。ただ目の前の邪魔者を消すのみ。そして、彼は相対した。消すべき者たちと。彼は顔を隠すようにローブを羽織っていた。
「増援が来たようだな」
ローブ姿の男が低く言う。ローブ姿の戦士、魔術師たちが所属する世界救済連盟(WSN)にとってSUNはそこまで強くない相手である。なぜなら彼らは科学を追求するのに対し、WSNは魔術を追求する組織であるからだ。科学は魔術に技術力で追いつけない。これが世界の常識だ。実際、今までの戦闘もほとんどがWUN側の勝利であった。今回もそうなると誰もが思っていた。
「一人で何ができる?大人しく降伏するんだ」
ローブ姿の男が言う。しかし、“ロボット”には響かない。彼は無言のままだった。しかし、その姿は異様であった。外見は普通の戦闘スーツを着た戦士。しかし、本人の冷たさが周りの空気をも凍り付かせていた。そんな空気の中、ローブ姿の戦士たちが徐々に冷静さを保てなくなる。そして、
「やつを殺せ!」
リーダー格の者が言う。この一言で凍った空間が熱くなった。一斉に魔術師が杖を持ち、“ロボット”の方に指した。杖の先から電撃や炎が飛び出してきた。一般人なら避けることはおろか、耐えることすらできない。しかし、彼は逃げずにそれらを正面から受けた。
轟音が響く。煙が砂を起こしながら立つ。周辺の空間には残存した魔術因子が赤い稲妻のように周りに走った。
今の一撃は完全に致命傷、誰もがそう思った。
次の瞬間、一筋の銀線が走る。そして、魔術師の一人が鮮血を出しながら倒れた。
何が起こった?誰がやった?
魔術師の間に混乱が巻き起こる。
砂煙がまだ立っている。視界は黄色のまま。その中にまた一つ、また一つと銀のアクセントが走る。その度に赤色が加わる。
そして砂煙がなくなった頃、魔術師は皆倒れていた。
魔術師が陣取っていた背後の丘で一人の“ロボット”が立っていた。
空はもう雲ひとつない綺麗な青が広がっていた。
大地は黄金に輝き、SUNの装備も光を反射して輝く。
太陽光というスポットライトは”ロボット”の方を当てていた。
機械的な腕が持つ銀色に輝く剣には綺麗な赤色の液体が滴っていた。