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EP1 裏ボスと夏休み

夏休み。それはどんな学生でも思い描く理想。勉強に明け暮れるのもよし、はたまた遊ぶのもよし。

入学後、主人公補正に振り回され、数か月……挙句の果てには難関ダンジョンに落ちるという苦労。楽しむ権利はあるはずだ! でも……そんな日に俺は、教室で講義を聞いています。


「解せぬ。解せぬぞぉ!」


と小声で叫ぶという器用なことをする。なぜこうなっているのか? その理由は簡単だ。ある先生に、魔法の補修が必要と言われ半ば強制的に講義……じゃなく補修に参加させられたのだ。

まあ、確かに魔法は得意ではない。それでも納得しかねる点がある。ここにいないアレクは魔法技能は俺以下なのに呼ばれてないのだ。これやっぱ主人公補正せいだろう。それしかないだろうな! たぶん!


「この魔法の術式は…………。そこの君!これを活用した術式を書いてみなさい」

「え? いや、でも……!」


この先生……イリス曰くこの先生は魔法が出来なさそうな生徒たちを補修させて、できないことを責めることでストレス発散してるとか、してないとか。そんな噂があるらしい。……俺ってそんなに魔法出来なさそうに見えるのかな?

因みに当のイリスは……


「―――――というわけで帰省するですわ」

「帰省? 実家にか? なぜ急にそれを?」

「見事な質問の三段構えですわ。……私は実家に帰るから、しばらく寮にいないし、会えないので、そこのところ理解してくださいまし。ていうことを聞かせにきてあげたのです」


――らしい。貴族の長女は大変だな。……その時俺が、「そんなに俺と会いたいのか……ありがとな。嬉しいぜ」って言ってやったら顔を真っ赤にして動揺してた。してやったりだぜ。


「こんなことも答えられないのですか? いいですか? これはここに通うならできて当然なのです。それができない、あなた方は普通の学生のように過ごす価値はないのです。さあ他にできる人は?」


はあ。このまま言わせるのは癪だな。なんだよ。魔法ができないからって、価値無し? ふざけるのも大概にしろ。……と偉そうにしてるけど、内容はさっぱりです。ごめんなさい。


「まったく。まあいいでしょう。そんなに筆記が嫌なら、実技としましょう。全員参加です」


おっ! 実技なら行けるかもしれない。……でも他の人は嫌そうだ。まあ魔法を打たれて、打ちのめされるからな。精神にも、肉体にも、クるものがある。しかし! 俺はこんなこともあろうかも(と人生で一度は言ってみたい)新技を獲得している。恐れる者は何もない。


「では、始めましょう。やりたい人。手を上げてください。誰もいないなら番号順です」


俺は手を挙げる。すると他の人から尋常じゃない視線を向けられた。しかし嫌味な物はなく、驚愕と感謝、諦めと言ったところか。


「ユリアス・フォン・オルバン。この講義には、初参加ですね? いい意気です。掛ってきなさい」


「――いつまで持つかな?」そんな目線。ふん。いま後悔させてやる。

……相手からは来ないようだ。ならいい。腕を体操するように、後ろに伸ばす。手は一般的に手刀と言われる形。ねじるように、身体をしならせて……撃つ!

手刀は当然、空を斬るがそれでいい。空を斬った衝撃は、油断している無防備な補修教官に直撃し、強風に吹かれた紙切れのように、ぶっ飛んで行った。

これが新技「風刀(ネームセンス皆無とはいわせないぜ)」。

まあ文字通り神速の一撃の風圧で敵を斬る技だ。無論、教官の胴と首が泣き別れしないように威力は抑えてある。手刀でも、全力でやったら、訓練場も斬れるかもしれないので注意。

因みに以前、開発段階の時、剣で全力でやったら、進行方向の物は雲もろとも一刀両断された。魔法も斬れたけど、概念系の光と闇は切れなかった。でも、我ながらいい飛び道具を開発したなと思う。


「すごい!」

「あの先生を……」

「なんだ。全然強いじゃん」

「臆病者や弱者ではないようだ。尊敬できる。評価は間違ってたみたいだ」

「よく見たらイケメン……」

「尊敬しますっ」


え?……ふふふ。ははは。くはははは。

遂に来た。我慢の時は終わった。俺は主人公補正に勝った! たった10人、されど10人だ。俺は信者……いや仲間を手に入れたのだ。


「教官は?」

「気を失ってる」


流石に壁に打ち付けられたら気絶するか。俺だってそうだったし。


「教官も戦闘不能だし、帰っていいんじゃないか」


俺はそう云い放つ。それに続けて――


「あと、もう来なくていいと思うぞ?」


補修メンバーは驚いているようだった。「え?でも……」という声が聞こえる。……あの教官、こういう生徒を集めてたんじゃないか?断るのが怖い生徒。断るのがめんどくさい生徒。


「補修生徒に負ける教官に教わることなんてないだろ。誘われても断れ。怖いなら他の教官に相談しろ。それかいっその事サボれ。適当に流せ」


その言葉に揺らぐ補修生徒達。


「まっ! 努力はしないとな。自分で自主的にやろうと思える時にやるのが一番さ」


前世では、そう、うまくは行かなかった。でもこの世界は違うのだ。魔物を倒せばいくらでも強くなれる。……因みに俺は成長しませんでした。LV10(-)だからな。まあこのステータスではLVが上がる必要なんて皆無だけど。でもLV上げの楽しみは……?

そういえば、名前の横の「level」って何だろうな? 上がる気配は今のところない。何なんだろう。


「そう……だよな」

「こんなに強い人が言うのだから……」

「確かに。断るのがめんどくさいならサボればいいのに」


おっ。みんな感化されてる。これでこの教官の餌食は少なくなりそうだ。

俺を信じてくれた人だ。これくらいはしてやるよ。

さて、明日から旅行だな。



―――日は流れ、夏休み終了前日。

……夏休み中は、語らないんかいと思ったそこのあなた。だって仕方ないんだよ! 何もやってないし、やったとしても、このあたりで一番高い山に登った事と、海の周辺で一週間キャンプしたくらいだし。でも得たものもあった。肺活量と体力と筋力だな。山では空気が薄くて大変だし海では生きるのが大変だったし。……苦労したからステータス上がってるかな? 「鑑定」っと。


《個体名ユリアル・フォン・オルバン( level1)


 LV- EXP-


 種族 人間(特殊)


 所属 黒狼の学級(?)


 称号 影の者


 加護 暗黒神の加護 魂神の加護 水神の加護 天空神の加護 技巧神の加護


 ステータス

 HP16000 ST 1500 MP infinity STR 6000 VIT 1000 INT 8000 RES 8000 DEX 20000 AGI 20000


 スキル

 魔剣術LV5 攻盾術LV5 スターキットLV2 ボス耐性 持久力強化 食いしばり 神耐性


 アーツ 痛恨の一撃 スターレールシリーズ 風刀 威圧

 

 その他 最も関わりが深い人物 イリス

 評価 ☆6(上位)》


色々おかしくなってるな。上から突っ込んで行くと、所属(?を入れるな)、称号(悲しいな)、加護(なぜそうなった?)、ステータス(やった上がった! 隠しステータスがメインになってる!)、スキル(かっこよくなってるけど、スターキットってなんだ? どこぞの怪盗か?)、アーツ(うん)、その他(鑑定が詳しくなってるな)

って感じか。

閑話休題。

というわけで最終日。イリスとも……そういえば、夏休み終了の一日後に帰るらしい。だから明後日か。

ふん。長いようで短い夏休みだったな。すっかり夏の空気は秋に変わっている。どんどん涼しくなっていき、もうじき冬を迎え、年を改める。一年の半分が過ぎた。それで得たものは……

俺は考えるのをやめ、眠りについた。

二幕……完ッ!

……暑い。もう秋なのに無性に暑い。その蒸し暑さで目が覚める。


「……なんだよ? 暑いなぁ……秋だぞ。もう」


俺は眠り眼でカレンダーをみて驚愕する。めくったはずのカレンダーは戻っていた。それだけなら問題なかった、風でめくれる(そんなことほぼないけど)かもしれないから。でもこの暑さ。日の出の早さ。間違えない。


「夏休み初日だ……」


補修を受けることになり嫌な思いで寝た、最初の日。そこに戻っているのだ。


「どういう事だ? 夢オチ? なわけないよな……」


でもその可能性は高い。まあ過ごして判断するしかない。


―――三回目。三回夏休みを過ごした。これで分かった。これは何かしないと終わらないやつだ。

そう感づいた理由、それは三回過ごした事が大きいがそれ以外もある。

それはステータスは変わらないこと、周囲の行動が少し違うこと、補修メンバーが補修に来てなかったのだ。つまり、俺以外も感知してると言うことだ。それでも夏休みが終わらないのは、暑いのと、感知していない人がいること(まあ認めてないだけかもしれないが)だろう。

最後にこういうイベントがある……ということだ。「エンドレスサマー」。本来三年目のイベントなんだがな。このシナリオのボスの場所は分かってる。だが俺が思ったのは……


「神と話がしたいな」


ゲームとは違うシナリオ。主人公補正の異常性。やはり事情を分かる人(?)に話がしたい。

―――と言うことで旅先で聞いたダンジョンに行きたいと思う。ゲームでは行けなかった遥か北の白亜の塔。曰く「神託の天道」に……。

「神託の天道」神の声が聞こえるという天に通じる、はるか昔に立てられた白亜の塔。そこは神聖系モンスターに溢れている……らしい。なにせ入った人が少ないのと、未攻略のダンジョンだからな。


「んじゃ。早速行くか」


町等で食料等を調達しながら行こう。善は急げ。そうして「神託の天道」へ向かうのであった。



町を出て、小一時間。走って行ってるが、如何せん距離が遠い。……それに。

木陰からゴブリンが出てきた。このあたりでは珍しくない。しかし異なるのは、その装備。スイカ柄の盾にスイカ割りの棒切れ。LVも30〜50程度と通常とかけ離れている。それに数も30匹と異常だ。そう。特殊サマーイベントゴブリンだ。

……まあそれだけだけどね。

剣を抜き放ち、敵に向け、最大限の殺意を向ける。殺意を受けた奴らは、こちらへ走るのを止める。威圧の効果だろう。そのまま距離を詰め首筋を薙いでいく。この通り、並大抵の魔物では裏ボスの道を塞ぐことはできない。因みに威圧の有用性に気づいたのは夏休みの時です。……遅いよなって話だ。ダンジョンで覚えられたら楽だったのにな。


「暇だな」


単調な魔物との戦いが続くのがめんどくさい。疲れてきた……? おかしいな? ダンジョンではそんな疲れなかったのに。仲間のサポートがあるから疲れなかったのかな? いや、肉体的には疲れてない。なら精神的に?


「まさか?寂しいとか?」


そんな弱メンタルだっけ? 俺。


「……考えても仕方がない」


俺はこの考えを振り切り進む。一か月……いや、三か月会えないだけで寂しいとか……なあ? こちらは現代人だぞ。……もし、これから半世紀くらいイリスと会えなかったらどうなる? いや考えたくないな。


「ちょっとテンションがおかしいな。ッ!」


後ろに気配を感じ振り返る。ここまで接近されるとは、気を抜いていたようだ。霧が深くなり気配が大きくなる。

木陰を掻き分け、姿を表したのは……


「ッ……?イリス?」

「ユリアス?」


懐かしい姿に張りつめていた気が抜ける。


「なぜここにいるんだ?」

「貴方こそなぜ?」


出てきたイリスは、辺りを警戒しながら質問を質問で返す。失礼だな。


「俺はあの塔を目指していてな」

「そうですか。あの塔に近寄るのはやめたほうがいいわ」

「ほう?」

「あの塔には監視の兵がいて、面倒ごとになりますわよ」


そうなのか。


「でも行くしかないだろう」

「そう……。私は止めましたよ?」

「じゃあ行ってくる……その前にお礼をしなきゃな」


俺は振り向き……


「こんな吐き気がするものを見せられた「お礼」をな」


振り向き様に真剣で放つ「風刀」。その威力は辺りの木々を吹き飛ばし、霧を消滅させた。


『なぜ? 切れた』

「偽物だと気づいたから。当然だろ?お前は騙すの下手すぎなんだよ」

『なぜ? 気づいた』

「さっき言ったろ?下手すぎって。もう少し精巧な偽物作りなよ」


まず俺の目的について聞かない違和感。口調。俺の呼び方。身のこなし。似てはいるが全く違う。

……俺の観察眼って気持ち悪いな。


『なぜ? なぜぇ!』

「……すこし黙ろうか」


うるさいから、殺気を込めた視線を声の方角に飛ばす。そこには老人……のような魔物が震えていた。

全くこの気分はこいつのせいだな。どうしようか……。


「で? 言い残す事はあるか?」

『ひぃ!』


老人の魔物は、ゴブリンを呼び出し攻撃を仕掛ける。たちまちゴブリンは見たことのある人間の姿に変わるが……。


「無駄無駄無駄無駄ァ」


親しい訳じゃないのですっぱり斬れる。同時に親しい人がいないと自分で認めてる気分になる。


『なぜ平然と人を斬れる!』

「いやマネキンを斬ってるようなもんだし……それに」


老人の魔物はイリスの姿になり、後退する。


「お前は今まで食った飯の数を覚えているのか?」


お前がいままで殺した者を覚えてないように、俺も殺した者はいつか忘れる。人でも同じことだ。だから斬れる。罪の意識など戦いには不要だ。


『わすれていたッ。ガハッ』


あっさりとイリスの形をした老人の魔物の首を刎ねる。すると身体に纏わりつく疲れが取れた気がする。やっぱ精神干渉か……しっかりしろよ「ボス耐性」。さっきの魔物、ゲームにはいなかった。無論サマーイベントにも。やっぱりここはゲームでは行けない所であり常識外だな。気を引き締めよう。

……霧が再び立ち込める。霧は魔物のせいじゃなかったんだな。この辺りは霧が濃いエリアなのかもしれない。

走ると迷いそうだから、歩く。天に霧が掛り、塔は見えなくなってしまった。まっすぐ行けば大丈夫か。


「……あれ? さっきもここ通った……?」


気のせいか? いやこんな感じに迷うのは、テンプレ的に迷ってる奴。


「まあ。法則を見つけるしかないな。マークを付けて……」


進む。何もなし。進む。なんか変だな。気に浮かぶ顔が違う。進む。マーク。


「なに? うーむ。顔が出れば……こういうのあったよな。88番入口だっけ?」


聞いたことはある。やったことはない。

進む。異変。戻る。進む。何もない。進む………

こんな単純な作業の繰り返し……


「また入り口……これ永遠に無理じゃね」


早三時間。ギブです。もう風刀で斬ってもいいかな。

もう一回挑戦をしよう。……一瞬で戻る。

うん! いいよ!

俺の意思が全力の大声でそう告げる。


「スターレール・ウインドエングレービントトール」


スターレールと風刀。英語は直訳しただけである。それでもその風刃で全ての木はなぎ倒され道が開いた。

流石新技。素晴らしい。


「こんなんでいいのかな?正攻法で行った方が……」


そう考えたが止める。無理だからな。88回……あるかもしれないのにそれを生真面目に攻略するのは無理だ。


「まあ楽できるならそれに越したことは……」


斬撃が目の前をすれすれで通る。

は? 何故ここまで見えなかった? 心理的疲労? 

さっきまでそこにいたと言わんばかりの急な攻撃。急いでバックステップで距離を取るが……


「ッ!」


後ろからの一撃。この一瞬で回られた?! 


「おいおい。その図体でその速さかよ」


相手を確認して吐き捨てる。黒い狼の魔物。しかしその大きさは異常だ。この森の広大さを表すような、いうなれば夜の闇が襲ってきたような敵だ。


「早ッ!」


相手はこちらを殺す気でかかってくる。死角からの一撃。余裕をもって避けれたが迫りくる追撃は避けれるはずがなく、剣で受け流す。攻撃をしようにも速すぎて捉えられない。正面からの攻撃。神速機動からの側面攻撃。背後からの追撃。縦横無尽の攻撃が乱れ飛ぶ。

こいつ間違えない……裏ボスだ。俺と同じ未発見のボス。鑑定!


《五なる夜月の黒狼 HP infinity KP3》


やはり……ってHPinfinity?! 勝てるわけないだろ!

はい解散! しっぽ巻いて逃げましょう。

……5なる夜月ってことは、緑蛇。赤鷲。黄獅子。青竜。も……いるって事か?

まさかの五人衆裏ボス!?マジか。


『おい人間』


ん? なんか声がする気がする。


『聞いているのか?』

「まさか。黒狼さんが?」

『ああ」


マジで!? 対話できるの!? ふふふ。勝った! 


「許してください。よろしくお願いいたします。命までは取らないでください。

許してください。よろしくお願いいたします。命までは取らないでください。

許してください。よろしくお願いいたします。命までは取らないでください!」


『急にどうした』


「許してください。よろしくお願いいたします。命までは取らないでください。

許してください。よろしくお願いいたします。命までは取らないでください。

許してください。よろしくお願いいたします。命までは取らないでください!」


『命乞いか? 興ざめだな。殺すか』

「チッ。なら最後まで足掻いて死んでやる!覚悟しろバケモン風情が!」

『命を乞うか、最後まで戦うか、どっちかはっきりしろ。あと我が何風情だって? あ?』

「スミマセン」


あれ? 意外と人間臭いな。さすが神獣。


『はあ、人間。お主、何用だ?』

「いや。神託の天道へちょちょっと」

「はあ。そんな、神の加護がなければ本当に何もない所……意外に加護をもっているな。それにそのステータス……ふむ』

「それで……?」

殺すとか……無いよね?


『安心しろ。殺しはせん。我が出向いたのは森を荒らされたからだ。いいか? 金輪際この森を荒らすな。そもそも自然を荒らすな。分かったか?』


やっぱこの地を守護しているのかな? だから荒らしの俺に忠告をしに来たということか。

俺不名誉すぎん?


「はい! なるべく自然は荒らさないように善処します」

『うむ。そうしてくれ。そういえば、お前は神託の天道に登り神託を聞きに来た……違うか?』

「おっしゃる通りです」

『そうだろうな。……我はこの塔を守護する役目を我らが神―――暗黒神から賜っている』


ん? ここは通さないってこと?


『つまりここを易々と通す訳にはいかないのだ』

「と……いうことは?」

『うむ。形だけでも戦わなければ我のメンツが立たないな』


メンツの使い方間違ってません?


『まあ摸擬戦と思ってくれ』

「え? ちょっと!」

『ふん!』


風を斬る音が耳を逆なでする。俺は思いっきり右に飛ぶ。

クソッ。止まってられない。


「おいおい。森林破壊するのはお前じゃないのか?」

『我の攻撃は、森にはノーダメージだ』


そう言って、攻撃を緩める気配がない。さすがにこれを受けたら死ぬ。

「ジァシュッ」と目の前の地面が裂ける。まずい! 頭に迫る一撃をスライディングで避ける。

どうやらこのまま続けても死ぬみたいだ。

さっきから「死ぬ死ぬ」と言ってるが、本当に俺は死ぬのが怖い。当然だ。一度死んだから分かる。どんなに興奮状態だろうが、あれ程の絶望はそうそうない。

まあ、俺はどうやら本気をオールインしなきゃ勝てないらしい。


「はあ。本当はこんな戦いで消耗したくないんだがな」

『それは無理な相談だな』

「そうだな。分かってるよ」


俺は敵の周りを回るのを止め、相手の方に突撃。


『どうした。勇気と蛮勇は違うだのだぞ?』

「そのセリフは、俺がお前に挑もうとした時に言ってほしいね」


悪態を吐き捨て、距離を詰める。……リアル弾幕ゲーはやりたくないんだがな。って何個のゲームをこの世界で経験してるんだが。……まあいい。


「んじゃ。裏ボスの威厳でも出しますかね。―――スターレール・プロミネンス!」


俺は、今できる負荷が少ない最強技を選んだ。これでどうだ?


『ふん。その意気だ。受けてやろう。―――風花雪月!」


花が咲く。そんな攻撃だった。なんという技だろうか。美しいのにその脅威ははっきりと感じられる。

気が緩みそうになったが、気を引き締め迎え撃つ。

花弁が黒き流星に触れ、消え去る。その応酬が繰り広げられる。

永遠に思えた時間は突如として終わる。相手の肉を斬る感覚と肩に走った鋭い痛みが現実へ引き戻した。


「痛い」

『うぐ。流石だな』


黒狼は、影に消えた。そして―――


「おい。残機有りとかずるくないか……」


黒狼の傷は全快していた。まさか本体は戦ってなかったって言うオチ?


『まあ。これで我のメンツは立ったな。よし行っていいぞ』

「こんな傷で?」


肩の傷は深く、今にも出血多量で死にそうだ。


《HP10000/16000》


ああ6000も減ってる。……あ! 1減った。


『大サービスだ。回復してやろう』


影が俺に迫るが、避ける気力は……有るが、その気はない。


「おお! すごいな。疲れが消えた」


立ち上がり身体の調子を確認する。……大丈夫そうだな。


「よし。ありがとうな」

『そうだ。我に乗っていけ』

「いいのか」

『いいぞ。森林を吹き飛ばされるよりな』

「悪かったって」


その節は非常に申し訳ありません。

俺は遠慮なく黒狼に乗る。

『飛ばすぞ』

「ああ! って速くない。速すぎるって」

『舌を噛むなよ』

「おいおい。夜の森でジェットコースターは止めろ。止まれ止まれぇぇぇぇぇ!」



「クソッ!速すぎるって」

『早く着いたのだからいいではないか』


それはそうだけどなぁ。............!おっとこの壮大さに魂を抜かれていたようだ。

それは真っ白な天に届くような塔。夜闇にさらされようと輝いて見える。


「よし! 行くか!」

『ああ健闘を祈るぞ。ふわぁ』

「あくびするの止めてもらっていいっすか」


そうしてダンジョン「神託の天道」に乗り込……む前に―――


「仮眠しよ」

『お主こそ、今の雰囲気を壊すのをやめてくれ』


あしたのおれにまるなげだ。


ここまで見ていただきありがとうございます。

この章からすこし工夫を進化させました。ブラウザバックしないで見てくれた方々。

本当にありがとう。


下の星を入れてくれるとうれしいです。

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