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目立ちたい裏ボスは今日も今日とて目立たない~転生陰キャは変わりたい~  作者: 悪魔のケチャップ
一章 学園編 一幕 裏ボスは転生しても影が薄い 
4/15

EP4 裏ボス落ちる。

 落ちていく。この絶望感は死ぬ時と同じだ。でも伝わってくるイリスの温かみが自分が死んでないと自覚させてくれている。それでもこのまま落ちていけば同じことだろう。

……永遠に続くと思われた時間は「ゴンッ」じゃない「バンッ」……まあいいや。何かにぶつかる感覚で終わる。同時に激しい痛みを感じ意識を手放してしまった。


「……! ここは……? 痛いな」


右手を動かそうとした矢先、激しい痛みが腕を貫いた。どうやらしばらく使い物にならなそうだ。ならもう片方の左腕は? 力を込め、指を動かす。するとなにやら好ましい感触を得た。それを確かめようと力をもう一度込める。しかしその正体を知るには至らない。何度も手を動かし探る。

ん……? そういえば俺はどうしてこんな状態に? ゴリラ(魔物)に突き落とされて……壁が崩れて、イリスと共に落ちて。頭を整理するうちに、視界が晴れ頭が冴えわたる。白い床。黒い地平線。左腕にはイリス……。

ん? ! まさか今のって……・いやいやそんなこと。

……ありました。イリスの胸の上に俺の手があった。


「うぇえ」


思わず飛びのく。そして右腕の痛みで転ぶ。……不可抗力だからな。


「いきなりなんですわ? 五月蠅い。……ってここはどこですわ?」

「知らねぇよ。うん。知らない」

「どうしたですわ? そんな動揺して。遂に頭が狂いました? ですわ」


どうやら気づいてないようだ。よかった。思わず胸を撫でおろす。……周囲の状況は最悪のようだ。人生初のπ揉みはこんな状況とはな。

混沌としたような黒き空。不気味なほどの白い立方体が組み合わさった床。恐らく始まりの迷宮、70階。一気に雰囲気が変わる、永久の庭園(とこしえのていえん)だろう。庭園と言うより、虚無だがな。


「なんとまあ。不気味なとこですわ。……魔力が吸われる」

「そうなのか? 俺には分からんが?」

「魔力の最大値の0.001%を徐々に吸い上げているようですわ。私の場合一回に約10000持ってかれるですわ」


へえ。……イリスの魔力量やばくね。0.001%で10000か。少なくともイリスのMPは1000000以上あるってことだよな。バケモンすぎるだろ。怖がられても無理ないわ。


「今。失礼なことを考えました?」


げ。読まれてる。まあ、このダンジョンが魔力を吸うとは驚きだな。……だけど俺には分からんな。やっぱ魔力量が低いから「1」も消費されないのかも? ……ステータスでは「infinity」だったけどな。この鑑定と世界の認識には齟齬があるのか? いやinfinityだとそもそも減らないのか? 


「考えてないよ。で、俺らは脱出を目指すしかないよな?」

「それしかないに決まってるですわ。でもどうやって?」

「ダンジョンをクリアするに決まってるだろ。俺らなら出来ないことは無いと思うぜ」


ダンジョンをクリアすると入口に戻ることができる。テンプレだな。


「でもここ、生徒が来ていいような場所じゃ無いと思いますが」

「魔力量1000000の人に言われたくないね。……じゃ行くか」


裏ボス二人で攻略できないダンジョンなんて……なあ? 俺らはLV500の主人公よりステータスは上だし、行けると思う。

そう考えながら歩を進める。さっきのように抱えて走ったりはしない。体力切れが怖いからな。


「おいでなさったようですわ」


こちらに気づき寄ってきた、三体の鎌を持った影。「死神の使い」だ。こいつは、即死技を操る奴で鮮明に記憶に残ってる。何回殺された事か……。


「攻撃を引き付ける。イリスは援護を頼む。それと黒い靄の攻撃に当たらないように注意」

「分かりましたですわ」


素早い動きでこちらに近寄ってくるのが2体。魔法を唱えるのが1体。……セオリー通りに行こうか。(異世界モノでよくあるセオリーだ。試した事はないけど)振りかぶった鎌を回避し、鎌に乗る。それを足場にして跳躍。魔法を唱える1体を切り付け、詠唱を中断させる。イリスにヘイトが行かないよう、他の二体もすかさず攻撃。

……ゲームでは当然こんな動きはできない。しかしセリルが使った、「ライトニングブレード」のように現在そのアーツを取得してなくても、「ライトニング」と剣撃を合わせることにより使用出来るというゲームでは出来ない動きを行えた。同様に「攻撃に乗る」というゲームでは出来ない動きもできた。ならば……。

俺は3体を見据え、集中する。すると世界がスローになってきた。そしてある軌道を剣で描く。それは終盤でお世話になり何百回も見た軌道。レベル外アーツができるなら、未習得も行けるはずだ。その技の名を……。


「スターレール・プロミネンスッ!」


黒き星々の軌道が敵を切り裂く。30連撃、更に広範囲の必殺技。「スターレール」シリーズ最強の技だ。MP消費が激しいが、infinityなので無限に使えます。


「ダークスパイク」


広範囲に闇の剣山が出現し、あっけなくさっきの斬撃で怯んだ「死神の使い」のHPは全損した。そいつって一応闇属性だけど、軽減とかお構いなしなんだな。怖ッ。


《アーツ 

スターレール

スターレール・クロス

スターレール・ダブルクロス

スターレール・スカーレット

スターレール・メテオダスト

スターレール・プロミネンスを獲得。

コンプリートにより、スターレール・プロミネンスダストa(アルファ)を獲得》


「ふう。終わりましたわね」

「MPは大丈夫か?」

「大丈夫ですわ。いざとなったら魔力を全快させられるので、魔力切れは心配ないですわ」


ああそういえばそんなのも使ってたな。ゲームでは、イリスとの戦闘時30ターン後に魔力を全部使った、完全即死技が飛んでくる。その攻撃を、所謂「耐えてみた」企画検証をやった人によると、「耐えると魔力を回復させて、また30ターン後に飛ばしてくる」らしい。その全快技だろうな。イリスのMPがinfinityじゃないのはその魔法のせいかもしれないな。魔力量比例ダメージだから……。


「お前こそ大丈夫ですわ? 体力とか」

「大丈夫だ。新しいアーツも獲得できたし気分は最高だぜ」

「はあ。そこまで楽観的なのはうらやましいですわ」


仕方ないだろ。一度クリアしてるから情報は持ってるしな。考えても現実は変わらん。

その後も軽口叩きながら探索した。残念ながら、新アーツを試せる強敵はいなかったが宝物は大量に入手できた。終盤のいいアイテムは、普通に嬉しい。……例の「宵闇の毒食」もあったが、俺は何も言わず虚空に投げ捨てた。高く売れるかもしれないが、俺は売る気はないし持つ気にもならなかった。

次の階もまた次の階も、特に苦戦するような敵も出ず階層をどんどん進めていった。外はどうなっているだろうか? まあどうでもいいけどな。


「クロススラッシュ!」


 セリルの威勢のいい声が響く。ここは5階。だいぶ早いスピードで攻略している。


「へッ。手ごたえがねえな」

「まあ。ここで苦戦するほうがおかしいけどね」

「そうだがなぁ。暇で暇でしょうがねぇよ」


たしかにそうだ。まあ、王家の王子と公爵の騎士。そして光の天使のようなセリルがいれば何者にも負けないだろう。


「そういえば。ユリアスとイリスグループ……っていうかペアは、どこにいるんだ? 俺たちがベースから出るころにはいなかったが……」


確かにな。追い抜いたチームに彼女はいなかったし、彼らが自分達より下は、まずありえない。ならもうクリアしてるかもしれないな。


「みなさん。次がボス部屋ですよ」

「おう、もうそこらへんか。早いな。まだ7時間だぜ?」

「いいことじゃないか。次のボスは、レッサードラゴンだよ」


ボス部屋に入る。農民にもクリア出来るというけど、レッサードラゴンは農民には倒せないと思うけどね。

そこには、情報のレッサードラゴンと……何かが戦っている。


「あれ、何でしょうか? まさか先客……」

「危ない!」


セリルを抱えて横に飛ぶ。なんとレッサードラゴンがぶっ飛んできて、息絶えた。


「大丈夫かい」

「あ……ありがとうございます」

「おいおい。ありゃなんだ」

「わからない。一旦逃げよう」

「逃げられる雰囲気じゃないけどな」


毛が生えたような巨人の敵は、こちらを見るなり攻撃を仕掛けてきた。早い……! 


「全員回避しろ!」


広範囲を薙ぎ払う攻撃。それだけで地面は荒れ狂い、岩が飛び散った。その岩を足場にして距離をとる。セリル達は無事だな。一撃でも食らえばやばそうだ。


「どうする? リーダー」

「こんなときだけリーダー呼びはやめろ。まあやるしかないだろ。全力の技で」


全力で地を駆ける。敵は大きく振りかぶった一撃を繰り出す。その読みやすい攻撃は簡単に避けられる。すれすれで通り抜け、王家の槍の一撃「ヴォーパルストライク」。敵の腹を突き刺し、浅くはない傷を残す。どうやら防御力は少ないようだ。これなら……。

かと思いきや、痛みで激高した敵のパンチが飛んでくる。まずい。やられる。


「うおおお」


アレクは大剣でその攻撃を受け止めた。アレクは後方に吹っ飛ばされる。しかし死んではいないようだ。すぐにこちらに向かって走ってきている。・・よく見ると肩に血を流す傷がある。それのおかげだろう。命拾いしたな。


「はあああ。ライトニングクロスブレードッ」


セリルは、その肩の傷に攻撃。電流が敵を焦がし、その動きを止めさせた。そして……。


「大切断ッ!」


アレクの気合の一撃。敵の首を刎ねた。見事な連携だ。……倒したようだな。


「ふう。なんだこいつは?」


明らかに、このダンジョンにいていいような強さじゃなかった。こいつは何なんだろうな。


「みなさん。見てください」


セリルが何か見つけたようだ。


「これは……? イリスのリボン?」

「そうだろうな。奴らを見てないし……。ダンジョンに食われたか?」

「……見てください」


セリルが指示したのは、壁が抜けたような穴。そこには闇が広がっていた。もしかして落ちた……のか? 


「とにかく。先生方に伝えよう。5階にいるはずだ」


俺たちは、なにかの異変を感じ取り、その部屋を後にした。

その後も順調に進み、95階セーフポイント。さっきの不気味な階とは一変し火山のような赤い所に出た。


「ふう。ご馳走さま」


俺たちはこの前の実習のカレーを食べていた。普通はこの場で作るのだが、今は非常時だ。そんな時こそおいしいものを食べようと思ったのだ。やる気に関わる。


「はあ」

「どうした?」

「いや。普通遭難時にこんなもの食べないと思って。ですわ」

「いやいいだろ。どうせ明日には出れるし」

「その気楽さがうらやましいですわ」


まあ、深く考えてもしょうがないと思うんだがな。


「そういえば、野営はどうします? ですわ」

「ああ。俺が起きてるから寝ててくれ」

「いや。そこは交代でしょう」

「魔法使いは頭を休ませるのが大事だろ。大丈夫だ」


前世ではオールはザラだしね。


「という訳で寝ろ」

「……お前に任せると不安ですわ」

「大丈夫だ。居眠りはしない」

「だって、ダンジョンで盛りのついた異性と二人は私の純正を汚されるかもしれなくて、心配ですの」

「え? つまり俺がイリスの処〇を奪うと?」

「黙らっしゃい。誰が……」

「はい! すみません」

「はあ。いいから寝なさい。どうしても寝ないなら」


イリスに殴られ倒される。魔法使いパンチ。痛いです。そして何か柔らかい物に頭を乗せられた。


「これは……」

「目を開けることは許さない……ですわ」


目を開けようとしたが、瞑らされる。……まさか。……ひょっとしてHIZAMAKURA? 


「えっとひ……」

「黙って。ですわ」


……。静かなひと時が流れる。ふん。いつでも寝れそうだ。今寝たら間違いなく深い眠りに落ちるだろう。


「……はあ。ちょっとつらいですわ。ちょっと脛を枕にしてもらっても?」

「だが断る。交代の時は起こしてくれよ」


そうして夜(太陽みえないけどね)は深まり、交代の時間まではあっという間だった。


「さあ進もうか」

「そうですわね。はあ。今日で脱出出来るか。ですわ」


それでもやるしかないだろう。まあ記憶では、相当厄介なボスだったが。


「ここからは回廊ダンジョンだ。休む暇はラスボスまでないぞ」

「お前は、何故それを知っているか疑問ですわね」


階段を降りる。すると闇の回廊が広がっていた。そこに光る、赤い眼光と殺意。


「んじゃ。頑張りますか」

「想像以上にめんどくさいダンジョンですわね」


イリスは詠唱を始め、俺は回廊を駆ける。その勢いのまま、魔物の腹を切り裂き鮮血を浴びる。血の匂いに辟易としながらも、イリスに行かないように、そして囲まれないように動く。……想像以上に敵が多い。でも・・! 俺は天高くジャンプする。俺が今いた場所に、イリスの闇の散弾が炸裂。魔物を消し飛ばし大多数のヘイトを寄せる。そしてその血が上った魔物の脳天を上から突き刺し、素早く薙ぎ払う。


「行くか」

「ええ」


そのまま、魔物を蹴散らしながら進んだ。そして……。


「遂に、ボス部屋前・・ですわね」

「早いもんだな」


体感で1時間くらいだ。実際3時間くらいだろうけど、まあ身体を動かせば時間は早く感じるものだろう。


「じゃあ行くか。ボス戦だ」

「まってください。ですわ。……お前血まみれですわ」

「そうだ……ったな」


身体は返り血にまみれており、べとついてる。でももう血の鉄くさい臭いは感じない。鼻がバカになってるんだろう。


「一旦休憩してみては? 。水場もありますし」

「それもそうだな。……悪いな、お前も疲れてるのに、気を使えなくて」


魔法はイメージである……と教官も言ってたし、イメージをし続けるのも大変だろう。

俺は遠慮なく上着を脱ぎ、水場で常備用タオルを濡らし、身体を拭く。


「ワタクシは、あっち行ってますわね」

「いや、いいぞ。そのままで。俺は気にしない」

「私が気にするのですわ」


別に。まあこんなヒョロい身体を見られても……ん? ヒョロいから恥ずかしい? のか? でもなんか、ヒョロというより細マッチョって感じだな。

その後は、剣などを磨きながら雑談に講じた。セリルうざいとか、アレクきもいとか、アリウスダサいとか。まあそんなこと言ってないんだけどね☆(大嘘)

……1時間経ったし、そろそろ行くか。俺は立ち上がり、扉の方を向く。


「いくか。……イリスはでかい魔法を頼むぞ」

「わかった。ですわ」


扉を開くと、そこには世界観を完全に間違えたような、武士の鎧があった。流れる沈黙と何の変哲もない鎧……しかし突如として沈黙は破られる。不気味な紫炎を燻らせ、甲冑は立ち上がる。刀というサムライソードを抜き放ち構える。


「いつでもいいと言われているようですわね」

「作戦通りにやるぞ」


その場で軽くジャンプし呼吸を整える。

1,2,3ッ! 

とてつもない加速感と共に鎧に迫り、一撃を与える……しかしそれは、敵の刀によって防がれた。そのまま敵の追撃が始まる。上段斬り。突き。薙ぎ。小手。とても速いコンボだが、問題なく避ける。確かに速いが……甘い攻撃をすれすれで避け、溜め痛恨が決まった。しかし教官と違いあまり「入った」感じはしない。攻撃の隙を付くような素早い攻撃が飛ぶ。それも避けるが、簡単にジャストを取らせてはくれない。


「手強いな」


その言葉に反応したように、鎧が「カタッ」と鳴る。ふん。これは今の「慣れ」の段階じゃ、勝てない。ならば「新技」を使わなければな。意識をそのアーツにシフトする。そしてアーツを起動ッ! 


《詠唱が必要です。》


あれ? うーん。まあ攻撃を避けながらやるか。


「星々の軌道。凶星の輝き」


相手はこちらが何か仕掛けると思い、警戒。今までとは違う、速い攻撃を繰り出す。左,右,斜め,薙ぎ! それでもまだ行ける。


「黒き太陽と、星々の命よ輝け」


意識がだんだんと加速する、世界がゆっくりとなり……。


「星屑の輝きよ。燃えろ。スターレール・プロミネンスダスト」


中二的な詠唱を言い終えると身体が勝手に動き出す。それは、千にも万にも変化する斬撃の奔流。プロミネンスの輝きを纏った星々が荒ぶるような光を纏いながら。敵の鎧は砕け散り、粉微塵なるが……。

体中の痛みが加速感を打ち消しアーツを中断させる。どうやら負荷も半端ないようだった。

痛いな……・。俺は膝まづく。一方粉微塵になった鎧の魔物はその炎は大きくし、魔獣形態となった。

俺は今死ぬ。自分の技を見誤って……。まあそれは一人だったらの話だがな。


『ダークフォース』


究極の闇だった。深く深く黒より深い。魂を抜き取られそうな「闇」。その闇は、魔物を包み混んでいる。闇魔法最上位魔法。『ダークフォース』。根源たる深淵の闇を呼び出す魔法で究極の威力を持つ魔法だ。それでもこのボスを一撃必殺では倒せない。けど倒してるっていう威力。バケモンだよ。


「大丈夫ですわ?」

「ああ。「大丈夫だ。問題ない」って言いたいんだが……。片腕が動かん」


まあ左でも剣は振れるし、大丈夫だろう。それよりも脱出が先だ。


「いこう。外に!」

「ええ」


俺たちは迷宮最深部の扉を通り、地上へ帰還した。因みに転移魔法陣みたいなのを踏むと脱出できた。いや~ファンタジーだねぇ。


夕日の光と温かみ。最高ですね。やはり陽キャになるには、光を浴びなきゃな。まあ俺は目立ちたいだけで、陽キャってのもピンと来ない。英雄願望? いやそんなの虚しい。何だろうな。


「ユリアスさん。イリスさん。生きてたんですね!」


そう。陽キャにはなりたくない。こいつみたいになるのは御免だからな。


「生きていたのか。いや話は後だ。手伝ってくれ」


ん? 王子殿。どうしたんだい。


「へぇ〜。それが我が国の物をいう態度ですか? ですわ」

「すまん。後で礼を尽くそう。今はそれどころじゃない」

「ふむ。スタンピートですわ?」

「ああ」


スタンピートイベント。この迷宮のイベントは無かったはず……。いや。始まりの迷宮スタンピートイベントか! 始まりの迷宮を攻略し、尚且つある条件を満たせば発動するイベントがあったはずだ。つまりあのボスより格上が出てくる! ある条件は、当てにならないからな。この状況じゃ。


「とにかくここの封鎖を手伝ってくれ」

「え? 倒さないのですわ?」

「……何を言っている。一匹なら行けるかもしれないが、こんな大群だぞ?」

「ふふ。私たちが落ちたのは、その巣窟ですわよ。行けますわよね。ユリア」

「俺は片腕……両腕痛いんだがな。まあやってやるさ」


出てきた魔物を切り捨てる。痛みは置いといて、やはり利き手と逆じゃ違和感あるな。


「大丈夫だろ。当たらなければ」


消化試合の始まり……。殴られて吹き飛ばされる。この事象は見覚えあるな。


「さっきの魔物かッ!」

「いや。さっきよりもでかいし、色が違う」


どうやら上位種のようだ。さっきの迷宮ボスと通ずるものがある。紫の炎だろう。


「ユリア! 大丈夫ですか?」

「大……丈夫だ」


ふらつく身体で立ち上がる。痛い。死が近づく感じがする。


《HP1000/16000》


道理で。次の一撃でHPは全損するだろう。……自分の紙耐久には辟易とさせられる。


「畳みかけるぞ」


俺は距離を一瞬で詰め、切り掛る。動きが鈍い巨体だ。簡単に斬れる。それに家事馬力というのか? 世界がゆっくりに見える。


「ダークフォース!」


イリスの必殺技が包み込む。それでも魔物は倒れない……。なら無理をするしかないな。


「スターレール・プロミネンスッ!」


神速の流星が切り刻む。腕の痛みが強くなるが、それでもやめない。


「うおおおおおおおおおおおおお」


相手を切り刻むが、それは所詮30連撃。でも十分だ。


「やったか!」


なぜそれをいま言ったのだあああああああああああああああああああああああああああああああ。

案の定死んでないゴリラの無慈悲な一撃が俺の命を全損させる。最後まで、ご都合主義の思うがままってな。


「ユリア! ? ……よくも。……・消し飛べッ」


遠のく意識。失われる生命。ああ短い人生だったな。


「ユリア……ユリアッ……・」


またこんな感じで見送られるのか……・ッ! 


《HP0.01/16000》


ヘッ。まだ死ぬなってか。まったくご都合主義だな。神さんよぉ。

サムズアップした魂の神が見えた気がする。

朝日が目に差し込む。……どうやらあれから意識を失ってたみたいだ。ここは自室のようだ。匂いと雰囲気が安心させてくれる。……そういえばもう一ついい香りがしたが……。それに寝息が・・。


「イリス? ……寝てるのか」


ベッドに突っ伏すように寝ていた。……まだ朝早いため、貴族の朝はまだ遠い所だ。

俺はタオルケットを掛けてやった。そしてイリスの寝顔を見るような感じで、寝転がる。かわゆいのう。……あれ? なんか眠く……なって……。


そのあと、イリスの態度が妙によそよそしかったな。気のせいか。


あれから3日後、順調に回復した俺には色々あった。まず状況説明。異常に強いモンスターと、更なる深い場所。それを攻略した報告。教官たちにはあきれられたが帰ってきたのも事実。簡単に信用された。周囲の目は、余り変わってない。恐怖されるとか、ほら吹き扱いされるとか、色々あるかもしれなかったが、そんなことはなかった。

少し改善したと言ってもいいだろう。結果は±0になっただけで。

そして、今日は……。


「さて。待ちに待った、舞踏会ですわね。……ユリア、大丈夫ですの?」

「ああ……大丈夫だが……」


眩しい。眩しすぎる。青春を謳歌する、人々とシャンデリア。そしてイリス。暗闇のような漆黒のドレスはとても浮世離れしていてとてつもない輝きを纏っている。


「眩しいな……。はあ、俺は料理を持って退散するよ」

「そうですか……。ちゃっかりはしてますわね」

「イリスは……・。楽しんでくれ」

「はい。私には付き合いがありますので」


俺はそそくさと料理と酒を持って退散する。この世界ではお酒は13歳から。俺は三か月間飲み続けているよ。晩酌にちょっとだけど。


「ふん。悪くない」


ワインをたしなみながら、舞踏会で踊る人々を見て。そしてその音楽を聞きながら。ゆっくりと食事をする。何気ない楽しさ……ではないか。


「踊らないのかい」


こちらに話しかけてきた、気障な礼服の美少年。王子……アリウス殿下だ。


「そちらこそ」


相手の言葉に合わせて、少し砕けた返しをする。


「ふふ。いや私は君に話……いや聞きたいことがあってね」


なんだ? 話って? 君は何者だい? って感じか? 


「君は何者だい? その強さと度胸。そして知識。なんなんだいその力は」


まんまそれでした。……そんなこといわれてもねぇ。


「俺は、ユリアスだ。どんな事があってもな」

「……そうか。邪魔したね」

「ああ。楽しい夜を」

「君も。ね」

王子との会話の後。静かな時間を過ごしていた。


「うーむ。地上はいいねぇ」


ダンジョンに入ったときは少しの緊張感はあったけど、地上と変わらなかった。でも実際は違う。小鳥のさえずり、草木の音、風の声。全てが違い、安心感がある。さぞ、大自然はリラックス出来るだろう。やっぱ人がいるかいないかでは違うだろう。夏休み大自然に潜ろうかな? 

俺は、会場を抜け出し、誰もいない場所に来ていた。ここでも音楽は聞こえるから、外の空気を楽しみつつ音楽鑑賞が出来るわけだ。


「あら。ここにいた。ですわ」


どうやらイリスが来たようだ。


「どうした。こんな所に来て?」

「もう一通り社交は済ませましたから、お前を探してここに来たのですわ」

「そうか」


貴族は大変ですなぁ。俺もそうだけど。


「……いいところですわね」

「そうだな。……本当は、もっと目立たない場所がいいと思ったんだが」


俺は無言で建物の狭間に親指を指す。そこからカップルが出てきた。


「この通り」

「そうですわね。もしかしたら行為をしてるかも……?」

「冗談だろ」

「ええ」


すこし、イリスのジョークが分かった気がする。

……なんとも言えない沈黙が走った後、音楽が鳴り響く。


「そうだ。私たち踊りません?」

「確かに舞踏会だが……。コツは分からんぞ?」

「何を言ってるのです? オルバン家は踊りの名家でしょう?」


ウソだろウソだろッ! そんな設定聞いてませんって。クソッどうすれば……。


《踊り方の基本と中級、上級の知識》


まじかよ鑑定さん。気が利きまくる。

軽くお辞儀をし、踊り始める。型に習った踊り方。それでも身体の記憶が素晴らしい身のこなしをする。そしてイリスの技量もなかなかだ。自分が自分でないような感覚だが、いい。……あっという間に時間は終わってしまった。

パチパチと拍手が鳴る。どうやらみられていたようだ。はずいな。


「行きましょう」

「ああ」


すこし変だが、今ここでエスコートをする。そういえば? 

俺は、少し距離を置き、握手を求めるように、手を突き出す。イリスは疑問に思うように……でも握手した。そして手をひっくり返し、イリスの手を上にして。


「ちょ……ユリア!」


手の甲にキス……をする仕草をする。これだけで十分と言っていた(鑑定さんが)。


「ん、じゃあな」


不意打ちを食らったような顔をするイリスを置いていき、学生らしく別れを告げる。

さて、そろそろ夏休み。楽しみですな。

明日に期待しながら、帰路についた。


前回の続きから。

少しはうまくなったかな?でも思い上がりだろう。

次回は、2幕 夏休み編

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