EP2 裏ボス運命の出会い。そして目立たないようです。
朝日が窓からそのまゆばい光が差し込んできて光のやさしさを感じ目を開ける。どうやらもう朝のようだ。
・・・。よし、二度寝しよう。・・・。あれ?今日は何の日だっけ?確か・・・。
「入・・・学式?・・・。入学式!」
やべ。忘れるところだった。このユリアルは苗字にフォンがついてるから一応貴族であり、朝は準備がある。日本にいたころの常識で行くと、主人公入学イベのように白い目で見られる。目立ちたいことは目立ちたいやけど、白い目で見られるのは御免だ。・・・。俺、おしゃれなんてしたことないな。コツがわからん。まあやれるだけやろう。この体の貴族の経験をフル動員してやる。制服というより軍服みたいな制服を着て銀の腕輪を左手に装備、どうやらこれは魔道具で破毒(小)の効果があるらしい。まあボス耐性があるから毒は無効だし、その他状態異常も無効だ。毒とかの心配は皆無だな。盛られるかどうかは知らんけど。つけてないとみられると、いらぬ心配をすることになる・・・らしい。いかにボス耐性といえど腹を下すだろうし。(まあ毒を飲んだことないけど)さて準備もできたし、食堂に行くか。
ゲームでは入学式からスタートだったし入学式前に食堂にいけるとは思わなかった。メニューから適当に頼み、周囲を見渡す。多くの生徒が雑談を楽しんでいるようだ。
「ここ座ろうぜ。」
そういって近づいてきたのは、・・・! ガキ大将の・・・だれだっけ?まあいいや「鑑定」!
《アレク・フォン・エンヴァ LV13 150/150 KP0》
どうやら人を鑑定する場合、自分を鑑定する時とは違う表示のようだ。レベルとHPとKP?のみしか表示されない。KPが何なのかはわからん。
しかしここは俺の席だぞ。普通貴族同士でも挨拶はするだろう?・・・。おっと呼び出しの魔道具が鳴った。
「うわっ」
?ガキ大将と取り巻きが驚いて席を立った。・・・。・・・・。・・・・・。まさか、いままで見えてなかったり?そんなまさか。なあ?まあいいや。取りに行こう。
「よろしくお願いします。」
「わっ!ビックリしたよ。兄ちゃん影が薄いねぇ。」
ほへ?おい、まさか本当に影が薄い・・・?いやそんなこと・・・。まじか・・・よ。やばいじゃん。これはやばすぎる。まさか学校生活誰にも話しかけられず終わる可能性が浮上してきてしまいました。動揺しながら食事を取る。うまいであろう食事も味が分からなかった。喉に食事が通らないとは、まさにこのことだろう。
午前九時に入学式が始まった。しかしその間も焦りが消えることはなかった。さっきの事件をうけ、計画が大分頓挫したからだ。大したことないと昨日は思ったけど、違った。めっちゃ修羅の道じゃん。まあ、こちらから話しかければ気づいてくれるだけまだましだ。落ち着け。前世だったら話しかけても気づいてもらえないことがザラにあったし。ふう。ふうぅぅぅぅ。素数を数えて落ち着こう。2,3,5,7,・・・,3301,3307。よし落ち着いた。ていうか今は入学式だ。素数をかぞえてる場合じゃない。見つめなおせ。今俺は何をすべきか。そう情報収集。まあ入学式で分かることはたかが知れてる。さっさとクラスメイトを確認し対策を立てたい。・・・三時間くらい立ったのにまだ校長の話終わらん。長すぎだろ。
「・・・・・・・、長話はここらで終わりにしましょう。生徒各自教室に行きなさい。」
やっと終わったか。どの世界でも校長ってもんは話が長すぎる。自分でも認めてるし。さて教室に行こう。お待ちかねのクラスメイトの確認だ。そして今回こそ目立って、人生バラ色ルートを歩んでやる。
*
この世界のメインストーリーで重要な役割を持つ、学園。そこには五つのクラスが存在している。緑蛇。赤鷲。黄獅子。青竜。そしてユリアルが所属する黒狼。ゲームでは、クラスは別に隠しボスに違いがあるだけの要素であり、メインストーリーに大して違いはない。クラスメイトはメインキャラだけ話しかけていればクリアできるし。しかしこれはゲームと似ていても現実。クラスの付き合いをおろそかにしても大して問題ない訳ではない。かといってバンバン何回も話しかけるのはできない(恥ずかしい訳ではないぞ。断じて。)。要するに何をするにも本気でやって行かないと駄目なんだ。俺は目立つためにも前世みたいな失敗をしない・・・。と、いってもなぁ。考えてみれば前世ほとんど人と話したことがない人間が急に陽キャになることは無理なのだ。いやでも、変わらなければ・・・。うーむ。
「こんにちは。・・・。ん?おーい。聞いてます?」
ん?話しかけられてるのか。・・・。話しかけられてるの!
「あ・・・はい。」
コイツは・・・!主人公さんじゃありませんか。女型で名前は・・・。
《セリル LV3 80/80 KP3》
セリル。初期ネームである。因みに男はセリスだ。主人公の名前や性別によっても変わる隠しボスがいるので何回かは使った女型だが、余り、性に合わなかった。男は近接系のステータスが上がりやすい代わりに魔法系ステータスは近接程上がらない。一方、女は魔法は上がりやすいが近接はとても上がりにくいという男尊女卑的な風潮がある。しかし装備はとても優秀であり最終ステータスは女主人公の方が高い。しかし近接主義者の俺は大いに中盤の火力不足に悩まされた。しっかしなぜ俺に話しかけられたんだ?影が薄い人は存在すら認識出来ないのが常識のはず(まったく嫌な常識だが)。主人公だから気づいたのか?もしかして影が薄いってのは与太話だった?いや認めるのはひじょーーうに癪だが、おそらく与太話じゃあない。まず主人公に常識を求めるほうが終わっている。そして、学園転生系の女主人公のテンプレは、主人公だから、人に無差別に愛してもらえると思ってると思ってる、頭の軽い奴が基本属性だ。ちなみに俺が女主人公を使わない理由、それは見た目が気にいらないからが50%ほどある。明らかに陽キャ。明らかに男垂らし。ムチ無知を演じてる、ギャル系だ。そういや話かけられてるんだっけ。適当に返しとくか。
「ええと。何か用ですか?」
「え?あ。いえ。ただ話しかけただけです。」
「そうですか。」
「ああ。えーと。お名前は?」
笑顔と共に向けられる。愛らしい声。俺じゃなきゃ落ちてるね。まあテンプレがあるから早々信用してはならないことを知っている。
「私の名前はユリアス。ユリアス・フォン・オルバン。オルバン家の次男です。セリルさんですよね。」
「ああはい。そうです。セリルです。どこで私の名前を?」
「いえ。すこし。あなた有名ですから。」
「そう。ですか。」
有名な意味。平民、それも大店の子供ではない貧家からの異例の入学という特殊な立場を分かってるようだ。まあ俺はすこし違う意味の、有名だけどね。
「あまり。私みたいなのと話をしないほうがいいですよ。あなたが楽しく生きるには固い後ろ盾を得なきゃ。では。」
あいつと仲良くなってると思われると序盤は他人から白い目で見られる。まあ、主人公が誰かと付き合う中盤あたりだと主人公は人気者になってるためその目を向けられることは少なくなるかもだが、俺みたいな影薄は中盤じゃ遅いのだ。序盤頃には目立つ友達の右腕程度にはならなきゃ駄目だ。まあ影薄がその目を向けられるかどうかと言われれば・・・(不本意だが)向けられない、視線すら来ないだろう。とにかく決着は短く付けなければな。
暇だから席に静かに座り頬杖をつく。眠い。眠すぎる。他の奴らはまだ席に着いていない。まあ、これは派閥を作る大切な時間だから、学校も大目に見て、多く時間を作ってるのだろう。じゃあ俺も派閥に入ろうかなと考えるがやめる。下手にやってもガキ大将の取り巻きみたいな役につくことになるだろう。
「お前。すこしよろしいかしら、ですわ。」
また女。モテ期かな?さてさて次は誰だ・・・。って、こいつは・・・。
イリス・フォン・ノアール。所謂、悪役令嬢だ。なおこのゲームは乙女ゲーでは無くフィールドアクションRPGです。こういう悪役枠は主人公と性別と学級が一緒であり、性別女ルートではお世話になった。こいつは一般的に嫌われるような立場の人間なのだが、俺はこいつを一番まともだと思ってる。そりゃそうだ。親が祖母だけの身元不明の所謂下民が王族、それも王位継承権がある男と仲良くなり付き合うなど普通にありえない。月と鼈、天地鳴動であり国家転覆の危機かもしれない。なのに、すこし問題を解決し愛想よく振舞っていただけの主人公を認める周囲の貴族。どうかしてるとプレイ中思った。攻略するのは王子だけではなく王侯貴族もたーんといるが、それでも同じことだ。つまりこいつ・・・いやイリスがこの世界で一番まともな感性と常識を持っているのである。主人公に絡む理由は、王子やら王侯貴族やら攻略対象と言われている人達と結ばれたいと思ってるわけじゃなく、ただ主人公を見下してくるだけであるだけで身の程を弁えてるし、案の定、シナリオ的な問題で確定断罪されるがそれはイリスを慕う取り巻きが、勝手に主人公を殺そうとした責任で断罪されるだけだし。それにかわいい(は?と自分で思う)。黒髪の片方縦ロールという、不思議な髪型は雰囲気と容姿と不思議と似合ってるし、性格は・・・まあ尊大だが部下の罪を自分が責任をとる。貴族の鏡というやつだ。
そしてもう一つ、とても重要なこと・・・それは・・・。俺と同じ裏ボスであるということ。彼女が一番最初に発見された女版のみの裏ボスである。男版裏ボスはなぜか存在しない。まあそれが俺、「ユリアス」だったかもしれないが知る由もない。彼女と戦う条件は、全員の仲良し度マックス。そしてダンジョンで落ちる、「宵闇の毒食」を市場に売ることだ。「宵闇の毒食」はとても高く売れ、尚且つ、毒属性ダメージを与えるアイテムとしては、もう一つの「闇属性」が邪魔で、毒が効く厄介な相手はほとんど闇属性に耐性を持っている。そのためクリア後あたりは売るしか使い道がない。考察勢によると、王子の名のもとに断罪された後、邪魔なイリスを消すため、何者かの策略で主人公が流した「宵闇の毒食」を盛られるが、「宵闇の毒食」のフレーバテキストにある、《食べたものはそれが最後の夕食になるが闇に適する者への晩餐にもなる》に書いてある通り、闇に適合し、覚醒。しかしまともな思考が出来なくなり、主人公を国を脅かす天敵として戦うことになった。といわれている。悲劇だよな。こんな人生を主人公のせいで送るなんてな。一時期、可愛いからこいつが男ルートにいたら攻略したいなんて思ってたけど、そうしないほうがいいと思う。
「なんです?その人を憐れむ様な眼は?ですわ。あとお前、少々おかしいですわよ。」
おっと顔に出てたかな?
「すみません。イリスさん。・・・。おかしいとは何でしょう?」
「敬語は気持ち悪いから無しにしてもらえます?ですわ。」
呼び捨てを許すとは・・・。まあ校則の身分の差は学校内なら関係ない的なやつがあるから守ってるんだろう。
「では、お言葉に甘え・・・。何の用だ?それにおかしいってなんだ?」
「少々甘えすぎじゃないかですわ。敬語はいりませんけど、敬意は持ちなさい。ですわ。」
む。はっちゃけ過ぎたかな。
「まあ。それは置いといて、お前おかしいんじゃないですわ。」
「何が。」
否定はしない。イリスをジロジロみてるのは事実だし、ここの常識には疎いというか身体に馴染んでないというか。
「本当に・・・。はあ。その落ち着きようですわ。」
「そんな落ち着いてるか?」
素数の効果でたかな?
「入学式の時には焦りは見えましたけど、それでも落ち着きすぎですわ。入学初日は普通、もっと楽しそうに人に話しかけて行くものでしょう。ですわ。」
「・・・本当にこの場の全員が楽しそうに話しかけているのか?」
イリス含めて。
「それは・・・。まあ。人によりけりですわ。」
「それもそうか。」
「それに・・・。」
なんだ。顔を近づけて。
「あの女。あの笑顔を向けられて露骨に鼻を伸ばさない奴は今まで始めてみたですわ。」
「そうか?後、イリス・・・お前そんなあいつと長い付き合いじゃないだろ。」
「今日見た感じの話ですわ。・・・お前、あの女嫌いでしょう?ですわ。」
さすが。的を得ている。
「そうだな。好きか嫌いかと言われると嫌いだ。」
「ふふふ。そうですか、ですわ。お前とは良いお友達になれそうですわ。」
そうですか。そうですヨ。まあ良かったと思う。彼女は一番目立つ裏ボスだったから、裏ボス仲間として仲良くして損はない。脛をかじるとはこのことかもな。
「そうだな。まあこちらこそ。よろしく。」
「さて、そろそろ時間ですわ。私の実力を示すため、今日のお迎え実技テストは全力で取り組む事といたしますですわ。」
「お迎え実技テスト?」
「あら?お前知らなかったのですわ?教官が目で見て生徒の実力をみる。または生徒の力関係を決める重要な行事ですわよ?」
何?初耳ですけど。・・・って実技試験!テンプレだと目立つチャンスじゃあないか。うおおおお。こりゃやるしかない。俺のステータスがうなるぜぇぇ
「お前・・・。まあ、やる気が出たことが何よりですわ。お互い頑張りましょう。ですわ。」
「ああ!」
俺は期待しながらテストに望むのであった。
*
「これから実技試験を始める‼」
教官が高々と声を上げ、生徒達にざわめきが走る。やる気に溢れる声。不安がる声。あるものは自信に溢れ、あるものは相手を観察する。様々なモノが空気を染める。そんな空気が僕は一番嫌いでーす。こんな重大イベントに色めくのはいいが、流石に期待し過ぎだと思う。ほら、なんかさ、学校って成長する場所だと思うじゃん。まあそれはこの世界の常識じゃないかもね。
「まず最初は、剣術だ。わら人形に好きなだけ打ち込んでくれ、我々はその動きを見て採点する!」
「先生。これ壊してもいいんですか?」
お。テンプレイキリ生徒。あいつになって有言実行すれば目立つが、耐久性は分かんないし失敗すればダサいだけだから俺は止めた。
「別に構わない。むしろ壊すくらいでやってくれ。」
「ならまず俺がやりますよ。」
「そうか。ならば3番、テレン・フォン・イプリキ」
ほう。順番を無視してやるのか。まあ結果は・・・。名前の通りだな。
「はぁぁぁぁ!はっ!はっ!でりゃ。」
テンプレイキリが繰り出した攻撃は見事に弾かれる。あれ金属並みの藁じゃん
「固てえ。なんじゃこりゃ!」
「3番!私は壊していいといったが壊せるとは言っていない。そしてお前の動きもまだまだだ。次!」
厳しいね教官。普通、弾かれるから剣の型が使えんだろう。無茶振りですな。
「7番アレク・フォン・エンヴァ!」
ガキ大将アレク。メインキャラの一人。さてさてその力はいかに。
「はぁぁぁぁ。はッ」
おう。やっぱ筋力が高いようだ。弾かれてはいるが最小限に留めている。他のメインキャラもそんな感じだろ。
「ほう。なかなかだ。次!8番、ユリアス・フォン・オルバン」
何、早いな?ってそうか五十音順か。・・・エから始まる苗字はエンヴァしかないんか。まあ俺はやれるだけをやるか。俺のスキル、剣術。この技術の記憶を呼び覚ます。!・・・すごいな。世界が透き通った。これは何だ?光る所・・・ここを木剣で叩けばいいのか。でも剣を振ったこと一度もないしなあ。やるなら効率的に・・・光るとこ全部を線でつなぐイメージをしてその線にそって振る!・・・おろ身体が勝手に動いて。
カッ。カッ。カッ。カッ。カッ。神速で振るわれた軌道に当たり軽い音が五回鳴る。音だけで何もないと思われたが、一瞬の風を斬る音のあと、騒音を立ててわら人形が崩れ落ちた。
「また、下らんもんを切り捨てたようだ。」
決まったッ。はははは。最高だよ。最高だ。これで俺の力が認められる。
「すげぇ」
ほらな。人生バラ色ルート。やらせていただきました。
「ほう。素晴らしい。次ッ。っとそういえば苗字なしを忘れていたよ。番号無し。セリル。次だ」
ほう。教官も悪ですのう。ふふざまぁ。
「はい。頑張ります。」
『無理しなくていいからなぁ』
おう。もうファンいるのか・・・って王子殿下ぁ?なぜもうファンなんです?てかなんかオーラを感じる・・・。てイリスぅ。応援する愚か者貴族にキレてんのか。・・・めっちゃ怖いです。
「では。行きます。はぁぁぁ。ライトニングブレード!」
なぬ。魔法剣。ルール的には違反してないな。俺も使えばよかったー。って俺は使えんのか。
バリバリバリィという豪快な音をたて、わら人形は丸焦げになった。
「すげぇ。すごすぎる。」
「平民が・・・。評価を改める必要がある。」
「すごい人が続くな。憂鬱。」
「いやさっきのはアレクのダメージが残ってて斬れたんだろう。」
「そうか。まあそういうことか。」
「てか。あいつ誰だっけ」
「それな」
おいいいいいいい。何故そうなるのか。おかしいって。ってコッチ見んな主人公。腹立つ。笑いかけんな。ていうかさあ。なぜ主人公がライトニングブレードを使えるんだよ。あれ中盤のアーツだよ。まあこの世界にゲームの常識は参考にならんのか。あのレベルで覚える魔法「ライトニング」を剣と組み合わせればいけるか?
問題なく打ち込み試験は終わった。次の試験は俺は魔法を使えないから魔法テストを受けない。俺は近距離系のピュアファイターだ。まあ最初から近距離だけだったけどな。その後少し暇だった。因みにイリスは魔法テストで闇魔法で的を消し飛ばしてた。魔法使いはすげぇなあ。・・・。周囲を見ると恐れと気味悪さが籠った視線が向けられていた。不思議だな。まあ怖いってことか。最強が。一方光魔法やらなんやら使ってた主人公は更にモテていた。解せぬ。
「最後は模擬戦だ。資格あるものを呼ぶ。番号0、セリル」
番号無しから0か。随分評価されたことされたこと。腹立たしいな。
「はい。行きます。」
魔法や剣術、多彩な戦法。鮮やかだがそれだけだ。非効率といえる。なぜならこの場合の正解は。
「ふう。流石だ。才能だけで抜擢されたとしても信じよう。次。」
ポーションを飲み、俺を呼ぶ。ふふ。見せてやろう。セリルとやら。何百回も教官と戦った経験がうなるぜ。
「では、始めッ」
先手必勝とばかりに、教官はすごい勢いでこちらに迫る。そして横一線。それを紙一重で避ける。すると世界がゆっくりになっていく。これがジャスト回避というものだろうか?その結果、一撃の隙を生み出す。しかしここで即攻撃せず力を溜める。教官はバックステップでこちらとの距離を取ろうとするが、遅い。溜めた力を解放しジャンプの途中である教官に攻撃。所謂溜め攻撃で、アーツを所持している場合のショートカットにもなる動作、溜め攻撃で発動できるアーツは回転斬りやら会心斬りなどがある。まあ持っていないけど・・・ってこの感覚、アーツ・・・痛恨の一撃が発動したな。俺の溜め動作アーツは痛恨のようだ。
教官は攻撃をもろに受け怯んだ。その隙に・・・ってあれぇ。教官はひざまずき気絶した。マジかよ。まあ痛恨は、攻撃力の50%を防御貫通であたえるものだった。だから今俺は教官に500ダメージ与えたんだよな?うーむ序盤は強いかもだが中盤当たりだと厳しいだろう。STRは伸びるかどうか分からんし、厳しいかも?確か会心威力アップって言うスキルがあったけど、会心だから駄目か?いや、まあ速いボスが一撃500出して来たら発狂するもんだけど。LV999の体力ならまだしも、大体上がらなくなってくるLV300あたりでHP5000だ。回復無しで痛恨が10回当たったら終わり、そしてシステム回避という素早さによるアクション外要素回避も高いボス、トラウマ確定だ。まあこれで、俺の名声もうなぎ上り・・・・。
「卑怯ものだなぁ」
「ホント。前の子が体力を削ったお陰で勝てただけなのに評価が上がるなんて。」
「まあ、不当評価なんだからいつかバレて下がるでしょ。」
「そのときゃ信用も失って・・・どうしようもないねあいつ。まあ俺たちの信用はもう0・・・いやマイナスだな。」
・・・。流石におかしいだろ。なぜこんな俺の評価が下がってあいつの評価が上がるんだ?何かの宗教としか言い表せない。
・・・その後、新たな教官が試験を続け、無事終了したのはもう日が暮れる頃だった。
*
「はあ。終わったな。色々な意味で。」
今日はこの世の理不尽が良ーく分かった。よし、問題をリストアップしよう。頭の整理は大事だ。
《今後の課題。問題点。
・影が薄い→目立つ人間の右腕程度にはなる。しかしそれは以下の問題の解決が必要。
・主人公補正による巻き込まれ→おそらく主人公補正の影響により主人公の評価UPにつながるなど、主人公にとって都合がいいことが起こり、巻き込まれる形でこちらの都合の悪いことが起こる可能性がある。この場合主人公の味方になる(ただしこれは論外)か関わらない事が大事。下手に目立とうとすると主人公補正の介入を受ける可能性があるので注意。
・周囲の信用→これは目立つ上で必須である。しかし主人公補正に何らかの対応をとらなければ信用が回復することはないと推測。》
問題がなかなか大きい。まだ発見出来てない問題も多いから一時的な物である。まあ早急に善処する。
さて今日は寝よ・・・。って・・・ん?あれはアレクと・・・イリス?何してんだ?
「だから。なんども言ってるんですわ。あなたとお付き合いする気は無いですわ。」
「まあ。そんなこというなって。魔王みたいで気味の悪い黒髪、そして闇魔法お前と対等のに付き合おうとする物好きは俺くらいだぜ」
「あなたも気味が悪いといっているでしょう!?それに物好きの人間は大嫌いですわ。さあ。早く、早急にどけてくださる?」
「おいおい帰すつもりはないぜ。」
はあ。めんどくさい状況だ。これあれだろ。「そう。私たち付き合ってんの!」っていうウソをでっち上げてイリスと俺が仲良くなれるっていう蜂蜜で、俺の評価を落とす主人公補正の罠だろ。たぶん。でもまあ、助けない選択肢はいまんとこないし、まあイリスは主人公補正と戦う側だと思うし、敵の敵は味方というから助けてやるか。友達はいないしな!ちくしょう。
「あれ?あなたは挨拶も無しに僕の席に座った人だ。どうも、なにやってんですか?ってあら邪魔したか?」
「ああ?手前は・・・?」
「あいつですよ。エンヴァ様の手柄を奪ったやつは。」
「ああ。そいつか。でお前何用だ。俺は貴様をぶちのめしたいんだが。」
「いやいや。やめてください。公爵様とて、流石にそれはちょっと。」
「ふん。人の影に隠れている臆病者が。遂には平民の女の影にも隠れてやがる。誇りはないのか。貴族の誇りは。」
「あなたの一撃や彼女の攻撃の後に倒したとはいえ、実力が無ければ倒せない。いまそれを証明しようか?」
あおる。流石にリンチだと厳しいかな?まあ関係ない。
「いいだろう。だがここで剣を抜くのも野暮。殴り合おうじゃないか。」
乗ってきたな。それも一対一、まあ最初からこのつもりだったし、こうなるとは思っていた。まあやるか。
相手は拳を構えこちらの様子を伺う。こちらはいつ来ても構わない。
「おらよ。」
テレフォンパンチ。前世を思い出すな(いい思い出ではないけど)。その時は避けられなかったが・・・。顔面に命中すると直前。何か見えない力に押されて拳を避けた。この感覚、溜め斬り痛恨やジャスト回避と同じだ。見えない力に押されて時がゆっくりになり身体が動く。おそらくこれがシステム回避だろう。・・・少し動くから動作に支障が出るか?いや時が遅くなるから反応は出来る。ジャスト回避とは違い、動けないけど。
「てめぇ」
避けられた事に腹が立ったのか、怒りで放たれたような腰の入ってない一撃。これなら受けられる。手で拳を受け止める・・・というか弾く。また時が遅くなる。ジャストガードが発動したんだろう。手でも盾判定なんだ。なら盾術を上げる必要もあるな。
「うわぁ」
おろ?弾いただけなのに・・・ってああ。力の差があり過ぎるのか。パワー型ガキ大将であろうと余裕余裕。俺マジ強し。
「くそったれ。ふうぅぅぅぅ。竜砕拳!」
!まずい。少し思い上がってた。流石に竜を砕く拳「竜砕拳」は非常にまずい。有頂天になっていたようだ。課題四つ目。メインキャラのレベル外の特技の発動・・・。ジャスト回避に間に合うか?横に全力で飛ぶ。すると時が遅くなってきた。利便上「システムアシスト」と名付けよう。アシストが入ったということは避けれてはいるようだ。まあ、これ以上奥の手を出される前に・・・出させたほうがいいのか?いや負けたらかっこ悪いしやめよう。まあ殴るか。
「セイッ」
一発本気で殴ると一瞬、嫌な感じがしたがぶっ飛んでいった。骨?折れてないよな?大丈夫かな?折れてたら暴行で人生終了するかもしれないが・・・。
「いってぇ。」
元気に起き上がりこちらに構える時点で折れてないようだ。
「わかったか?俺は強い。」
「っく。そのようだ。・・・決着がついたとは思うなよ。」
「そうだな。俺もついたとは思わん。あの拳は驚いたぞ。」
「ふん。まあ少しは認めてやる。臆病者。」
まったく。神には無駄死にと呼ばれ、この世では臆病者か・・・。
「エンヴァ様。あの女は?」
「今日は見逃してやる。」
「正々堂々さっさと諦めなさい。ですわ。」
ガキ大将・・・もといアレクは、ふらつきながら帰っていった。
「さて。お前には礼を言うですわ。」
「別に大したことは・・・。しているか。」
「そこは、していないとはっきり言いなさいですわ。」
今日はどっと疲れた。さっさと寝たい。
「俺は寝たいから帰るよ。おやすみ。」
「お前。まだ6時ですわよ。どんな貴族でもまだこの時間では寝ません。ですわ。」
えー6時。もう寝る時間じゃん・・・じゃねえよ。まだ眠くねぇよ。
「そうか。・・・・。暇だな。」
「あなたまだご飯食べて無いでしょう?なのに寝ようと?はあ。まあ暇なら私とご飯でもいかが。ですわ。」
なぬーーーーーーーーーーーーーー!飯の誘いだと‼転生からほぼ一日目で異性とM☆E☆S☆I!なんてことだこれはモテモテ路線では・・・!
「腹が減ってきたような気がしてきたぞ。いーや腹減った。朝から何も食べてない。」
「それは、馬鹿じゃないか、ですわ。。入学式後のに時間あったでしょう?」
「あーそれは・・・。道に迷ってて(ボソッ)」
「聞こえないですわ。・・・まあ決まりは決まりですわね。さあ食堂にいきましょうですわ。もちろんあなたが誘ったということで。」
「なぬ。そっちが誘ったんじゃ・・・。」
「ふふふ。それじゃあ私が迷惑しますわ。初日で異性を食事に誘ったって。それじゃあ、あの憎たらしい平民の・・・いや愚貧民女と同じですわ。あなたは黒髪不気味女を食事に誘った男として白い目で見られるといいですわ。」
自分でその魔王って言い方を「嫌」ってアレクに言ったじゃないか。まああのセリルと一緒は確かに嫌だけどな。まあそれでも美少女と一緒に飯食えるんだからいいか。
俺は気づかなかった。その時のイリスがお前呼びじゃなかった事を・・・。
*
「お前。その見た目でよくその量を食えますね。」
「昼食ってないしな。お前は・・・イリスはその量で足りるのか?」
俺は前世でも見た目の割によく食った。だから朝の量を踏まえて二人前を注文した。その反面イリスは軽い茶菓子と紅茶のみ。それで足りることが驚きだ。・・・。うまい。朝では味わえなかったから今身体に染みわたるようにわかる。こいつはうめぇ。この世界で有数な味なのはわかるぜ。調味料は前世より無いはずなのに味が濃い。前世の給食よりうまい。これは三人前もいけるな。
「お前ほんとにめっちゃ食べる。ですわ。・・・はあ。」
「ぼうがじだが」
「嚙んでから言いなさい。ですわ。」
「どうかしたか。溜息なんかついて。」
「いえ。いや、まあ。その、想像以上に怖がられてると思いまして。」
「昼のことか?俺はお前の魔法。すごいと思うがな。」
「お前はアレク殿や教官を退ける力、その実力があるから言えることですわ。下々はこの力が怖いようで。」
「そういや。怖がられてたな。・・・みんな最強がこわいのさ。」
「それだけだったらよかったですが、あんな物好きと豪語する人間がよってくるのはストレスですわ。」
そうだな。そういうもんだ。俺もそんな輩がいたらストレスだ。まあ俺は目立たないから来ないと思うけど。(ていうか見つけられないと思う。とても悲しい。)
「はあ、お前みたいな人が婚約者だったらよかったのに。」
「HA?」
「もちろん。冗談ですわ。ああ私に婚約者がいると驚いたのですわ。御安心なさい、8年前に破棄されてますわ。」
ふう。おもわず冷静さを欠くところだった。ていうかこんな美少女と婚約した人いんのかよ。親の都合といえどうらやましいぜ。・・・黒髪ってだけで破棄されるとは。いやなこった。そしてやはり黒髪剣士じゃなくてよかった。
「黒髪、黒目。おまけに闇魔法。はあ、とことん恵まれない容姿と力ですわね。私。」
嘆くような目。どうやら今、だいぶネガティブモードのようだ。そんな時には・・・。
「ほれ。食え。」
俺はチキンをフォークに刺しイリスの口に近づける。
「なんですの。やめろ。ですわ。」
「ほら口あけろ。あー。あ~ん。」
「子供のようにするなですわ。うー。あ〜ん。」
遠慮なく口に肉を突っ込む。イリスは「ほふ。ほふ。」と音を立てて食べる。
「・・・・おいしいというのは癪ですけど。うまいですわ。」
「だろ。困ったら飯を食え。考える力も湧いてくる。そして深く考えすぎたことが分かる。」
そうだ。こんなことが昔あった。その時俺はそう気づいた。それが速かったらと考えたこともたくさんある。でもまあ。それも所詮過去のこと、今は今。それだけでそれ以上なのだ。
「はあ。昼飯を食ってなかった奴に言われたくありませんけど。それも正論、ですわ。」
「そうだ。そんな細い食じゃ頭がおかしくなってどうにかなるぞ。というわけでおかわりもってくる。」
「お前、まだ食うんですの?」
イリスはあきれ半分でも、俺の食事に付き合ってくれた。くだらない会話をして、気づいたら門限近くまで話し込んでいた。
「今日は楽しかったですわ。」
「ああそうだな」
転生初日だが、ここに来て良かったと思えるな。空を見ると月が綺麗だ。ロマンチックな夜だな。
これは誰かを告白するときにはじめて言いたかった言葉だ。・・・イリスと、そんな仲になるには長い時間が必要であると感じる。勘だけど。
「・・・あら、そういえばちゃんと自己紹介してなかったですわ。」
「それは、そうだな。」
気づかなかったよ。自己紹介の一つもしてないなんてな。
「私は、イリス・フォン・ノワール。イリスと呼んでください。ですわ。」
月に照らされた黒髪をがそよ風で揺れる。そんな魅力を持つ女性はとても綺麗で綺麗で、絵画的で幻想的だった。飲まれそうになったが俺も答える。
「俺は、ユリアス・フォン・オルバン。そうだな名前呼びだと四文字だからユリアとでも好きなように呼んでくれ。」
「そう。ではユリア。また明日。」
異世界にきて良かった事が一つある。それは彼女に出会えた事だろう。その幸運に感謝し、寮に戻り、眠りについた。
裏ボスの運命の出会い。そして波乱の幕開け。
全力で書いていきたい。
下?のポイントを付けてくれるととてもうれしいと思う。