EP2 裏ボス、転校生と仲良くなりたい
……空気が地獄だ。
いたるところで視線を感じる。憎悪と憧れ9対1くらいか。この世の終わりのような気まずさだ。
いや……ポジティブに考えよう。
......いや〜俺なんかやっちゃいましたかね〜。俺、目立っちゃってる。
目立ちたくないのにな〜。
「はあ……性に合わんな」
駄目だ。目立ってはいるがこんな目立ち方はしたくなかったな。
まあ、仕方ない。マイナスどうしの掛け算がどうしてプラスになるんだろうな。
そもそも人生に掛け算はないので場違いな考えだろう。
「席確保ありがとうですわ。感謝してやりますですわ」
「相変わらず当たりが酷いな」
いつも通り俺が席を取って、遅れてイリスがやってくる。
一年ぶりの感覚だ。……アメリカンサイズの夏休み五回分だからな。だいぶ長かった。
人は、同じことを繰り返し続けると成長……老けていく。
よくわかったよ。
「あ! ユリアさんとイリスさん!」
「やあ、ユリアス!」
今回はこの二人も一緒なようだ。
「チッ」
「おう、さっきぶりだな」
「私は朝ぶりですけどね~」
席に座るように促すと、あたかもそれを狙ったかのように当然の如く座る。
計画的ですね。
「んじゃ、イリスはいつものでいいか?」
「ええ。ですわ」
「私はトマト煮込み定食を頼む」
「400gガーリクステーキ十人前をお願いします」
「はいはい。クロ手伝ってくれ」
『あいわかった。今回は出番があるのだな』
食堂のおばちゃんに料理を頼む。
こんなに頼むのは初めてだな。
どこぞの偏食家は同じものしか食わないし、俺は気分でテキトーに選んでるせいでローテしてるし。
「うわ、劣等生だ」
「へッ。飯がまずくなるぜ」
……例の転校生が来たようだな。
雰囲気の悪さに動けないようだな。手助けしてやるか。
「あ~ここはステーキが美味いぞ」
「へ……あ、はい?」
「あ~うん」
「は、はい」
気まず……駄目だ。陰キャが二人でもマイナスはマイナスだ。
どうしたもんか。
「ヘイ。お待ち」
大量の料理が出される。
400gガーリクステーキ十人前はさすがに多すぎるだろ……
「あ〜ここで話すのも何だし持つのを手伝ってくれないか? おすすめをおごるよ」
タダだけどね。
「は、はい! 手伝います!」
「クロも頼んだぞ」
『浮かせれば何のそのだ』
ゆっくり運んでいく。
「うわ~やっと食べれます!」
「……あなたは……」
「え? あ!」
イリスが話しかけると彼女は驚いたのかバランスを崩し、転びかける。
「大丈夫かい?」
王子がキザなポーズで彼女を抱える。
「へ……あ! ……ありがとうございまう、す」
「料理も支えてくれよ……!」
俺は床に落ちかけた皿をギリギリでキャッチした。
「椅子持ってくる」
俺は彼女のために椅子を持ってくる。料理もついでにな。
「んじゃまあ、食べながら話そうか」
「「「いただきます」」」
「はい、いただきます」
各自、箸を進める。
「え~と、ルキナでいいかな?」
アリウスが先陣を切る。
「あ……はい。ルキナでいいです」
「私の名前は、アリウス・ウル・フォン・レストピアだ。こっちがユリアス・フォン・オルバン。そしてこの健啖家がエルセリアだ。でこの子が……」
「黙れ……イリス・フォン・ノワールですわ」
王子の紹介を遮り、イリスが自己紹介をする。
「……そういえば、みんなに紹介してなかったな。クロだ」
『よろしく頼むぞ』
「クロ、おいで」
イリスが心なしか目を輝かせる。
クロは飛び込んでいった。まったく、誰に似たんだか……
イリスにモフられてるクロをみると腹が立つな?
「ルキナは隣国の貴族だったかな?」
「は、はい。カンラールトス国から来ました」
「どんな国なんですか~?」
「農業が盛んな国で、えーと」
「香辛料も盛んに作られている? ですわ」
「はい」
ふーん、農業大国か。
うまい食材がいっぱいあんのかな。
「レストピアは枯れた大地が多いから、よく交易させてもらってるよ」
「アリウス・ウル・フォン・レストピア……王子様?!」
気づいてなかったのか。
なんか、逆にすごいな。
「この王子は出来損ないなので、へりくだる必要はありません。ですわ」
そう言っても緊張感は消えないと思う。
俺? そんなこと気にしてたら目立たないから気にしてない。
「まあ、この中で一番偉いのは俺だがな」
「え?」
「そうですわ」
「まあ、そうだろうね」
「そうなんですか~?」
俺は胸を張る。
「まあ、冗談だが。弱肉強食の観点から言えば間違ってないけどね」
「む、私も強いですよ!」
「……ユリアスさんって、自意識過剰?」
「は? 違うが?」
否定の言葉を述べる。
俺が自意識過剰だったら他の奴らなんて……え? 何を言ってるんだ? 何が言いたいんだ?
「動揺してますですわ」
「しているようだね」
「してますね~」
「……自意識過剰の人はちょっと……」
軽蔑の目が向く。
「違うって。え? あ、うん。え〜あ〜、うん」
「ちょっと黙ってください」
「……酷くない?」
「自意識過剰にはいい思い出は無いですから」
一気に嫌われたがタメ口になった。
いいのか、悪いのか、分からんなぁ。
「慣れて来ましたですわ。……まあ、その、友達に」
「いいですね! なりましょう」
「そうだね」
イリス達には暖かい笑顔を向け、はにかんで言う。
片目は髪で見えなくても、その美貌に心を奪われる。
「まあ、よろしくお願いします」
そしてこちらを向き、
「まあ、ついでに」
「温度差で風邪ひくよ?!」
「馬鹿は風邪を引かない……ああ、すみません」
「グハッ」
その「ああ、すみません」が一番刺さった。
「しかし、運がいい。ですわ」
「何が?」
「お前は本当に……」
「修学旅行が二週間後だ」
へぇ。
って! これは目立つチャンス(三回目)!
「こうなると思いました。ですわ」
「修学旅行ですか……あまりいい思い出は……」
「ここの学校のことだから、グループだろ? 評価点の」
実習を参照し、呟く。
「お前とは組みません。ですわ」
「なんでさ」
「だって、グループだと相部屋に」
「いいじゃん。別に」
「///」
「もしユリアスについていったら、君と相部屋か」
「は?」
「…」
かわいそーに。
「まあ、あれじゃん? 俺、イリスとしか組みたくないから」
「私がいるぞ」
「私もいます~」
「僕はイリスと……」
ルキナって一人称「僕」なんだ。
……シンセさんが頭をよぎる。
う……
イリスへの信頼がヤバいっすねルキナさん。
「やっぱ、俺たちで組むしかないよな」
「異議なし」
「いぎなし~」
「イリスがいくなら……あなたと一緒は嫌ですけど」
「はあ、決まり。ですわ」
後日、申請をしてきた。もちろんアリウスさんが。
因みにセリルがアリウスを誘ってきたが、断ったらしい。
二週間後、楽しみですなぁ。異世界、お泊りイベントか。
「いいじゃあないか」
仲間もできて、信者(?)もできて、目立ってきたよ。
しかしまだまだこの程度。それが実感できた。
「「「「「「「「「セリルさん! 一緒に行きましょう」」」」」」」」
「「「「「「「「「セリルさん! パーティー組みましょう!」」」」」」」」
俺の信者の倍以上の数が彼女に押し寄せている。
そのせいで出れなくなって大変な状況だ。
「チッ」
おっと、足をかけてきた。
怖いねぇ。
……なんか、嫌がらせが悪質になってきたな。
学校の中じゃえげつない嫌がらせ、前世で言う「いじめ(?)」がこちらに向けられてきた。
イリスは持ち物を隠され、水をかけられたり(もちろん俺が阻止した)
ルキナはゴミやら石やら泥水やら……持ち物をビリビリに破かれたこともあった。
王子はさすがにないが、俺にも被害がある。
そんな時こそ「インベントリ」!
不人気組では必須の”ユリアス銀行”が誕生している。
目を離せばいたずらされるからな。
ご好評いただいています。
「でも、対策は取るべきだ」
この国を根本から変えなきゃ無理だが、あまり気分のいいものじゃない。
早急になんとかしたいな。
*
そして月日は無作為にながれ、修学旅行(?)当日。
「これから君たちには港のダンジョン都市、イーリアスペリアルに行ってもらう!」
「全員に緊急離脱魔道具を渡した。野党に襲われたり、危なくなったら使うんだ」
「野党が出ることはないと思うが、魔獣なども出る。油断するなよ」
「危なくなったら使うんだぞ?」
「では、一週間の行動、頑張ってくれ」
なんと、移動方法は自由でした。
普通、バス……はないのか、馬車とかそういうの学校で出すもんだろ。
「これがこの学校の流儀なのか? ですわ」
「交友関係小さいからわからなかったのかな?」
「どっちにせよ。声に出すことではありません。ユリアス」
「まさか……本当だとはね」
「ですね~」
「知ってる二人はなぜ言わなかったのか」
まあ、馬車で行くとかの方法があるから行ける……か……?
「!」
「どうしたのですわ!」
「どうした! ユリアス」
「どうかしました?」
「なにがあったんですか?」
俺は重く言い放つ。
「宿代と観光代(最低限)以外の金がない」
「「「!」」」
「そういうことですか。くだらない」
俺へのヘイト高めのルキナは置いといて、結論を言う。
「まさか、歩きで行くしか方法はない?」
稲妻が走った。
ほい。