EP5 裏ボス、共闘と決着
「まさか」は予想できずに起こるものだ。それは分かってる。さっき体験したことだ。
しかし、こいつらを見ていると「まさか」は起こすもんだと思えてくる。
「それで、夏だから涼しい所に行こうってことになって」
聞いてねぇよ。
本当になんなんだよこいつ。人様が苦労してここにたどり着いたってのによぉ。
「それで、ユリアスはここで何をしてるんだ? 戦ってたようだが」
……この中だと王子殿下が一番話が出来そうだな。
建設的な話し合い要因だな。
「夏休みが繰り返されてる。ってことにはどこまで知ってる?」
「「「え?」」」
ちょっとぉ?
その反応、不安になるんですけど。
「繰り返されてる……気のせいじゃなかったか」
「道理でなぁ」
「てっきり夢かと……」
建設的……
こいつら大丈夫か?
主人公一行がこんなので大丈夫ですか?
一応、魔王倒すんだぞ。
「その元凶がこの洞窟にいる」
「「それが?」」
「……話の流れから取るに、さっきの敵がその元凶?」
「王子殿下の言う通りだ」
こいつらのバカさはスルーする。
あえて触れるとすれば「それが?」がうざいです。
「……まあ、そいつに今逃げられた訳だ」
「なるほど。……この先に逃げたようで間違いないようだね?」
「十中八九な」
王子は、少し考える素振りをして決断を下す。
「倒しましょう」
王子の言葉を割って入ってくるのは主人公。
………建設的………
「みんな困っていると思います。助けましょう! 私たちしかやれない事です!」
「おお。そう来なくっちゃな! セリル!」
「……どうなんだ? 王子殿下?」
王子は苦笑いをこぼしながら、いや彼らを気味悪いように見た?
まあ、どっちでもいい。
「セリルの意見には賛成だ。しかし、何も考えない攻略は危険だ」
「……悪かったな!」
そう決断した。
……何も考えずに特攻した俺への嫌味にしか聞こえねぇ。
「でも! 無策でも今すぐ倒さないと!」
「そうだぞ。アリウス! 日和ってんのか? 負けるわけねぇ」
こいつら馬鹿か?
いや……馬鹿だ。断言しよう。
………建設的………
「じゃあ聞くぜ。今すぐ戦う意味は何だ?」
「それは……えーと?」
「さすが臆病、卑怯者は言うことが違うな」
なんだこいつら。
話が出来んな。
………建設的………
「まあ、急ぐ理由もなければ、とどまる理由もない。この先は広いみたいだから話しながら進もう」
王子が一番できるな。
*
「道理で敵がいないわけだ」
道中、王子殿下から話を聞いた(なお、他の二人は無視)。
どうやらだいぶ前にこの迷宮に潜り、レベル上げと探索にいそしんでいたらしい。
「しかし、苦労してんな。王子殿下」
「アリウスでいいよ」と笑いながら返してくる。
まあ、親しみやすい王子だな。第一印象より、よい人柄だ。
「皆さん! こっちが正解のルートですから、反対側に宝があるかもしれません」
「さすがセリル!」
「ふふん! 常識です」
やっぱこの馬鹿を仕切るのは尊敬するっす。
こりゃ、イリスを振ったのには、結構深い訳がありそうだな。
……おっと!
俺は敵をノールックで捕らえる。
天井がすこし高いせいか、天井からの奇襲が多い。
こういうときに役立つ、トリックスター三神器が一つ、トリックワイヤー。
魔力の糸を生成する技で自分以外は不可視。汎用性がある技だ。スペアよりは使えるな。
「さすがだな」
俺は敵を握りつぶし、お世辞に返しを入れる。
「そちらこそ、ここまでご苦労さんです」
「ふふ。どうも」
THE 王貴族だな。
イリスとは違う感じの……イケメンタイプ?
「そろそろ野営しましょう」
「待ってました」
馬鹿二人が喚いてるな。
まあそんな時間でもある。
「ボスの部屋前だしな。丁度いいだろう」
「「え?」」
「まさか知らなかったのか?」
驚きだ。
こいつら、攻略中に何考えてんだろうな。
*
「ふう」
俺は、外が見える場所に来ていた。
凍った洞窟から立ち上る冷気と、空に浮かぶ月は綺麗としかいいようがない。
「綺麗な眺めだ。いつぞやを思い出すね」
「……来てたのか」
アリウス殿下だ。
……こうしてみると前と違ってやつれている……気がする。
「あいつらと一緒じゃなくていいのか?」
「うん。疲れるからね。セリルがアレクにかまってくれるおかげでアレクが、イリスを狙わなくなって良いことづくめじゃないか」
「ごもっとも。……まあ、建設的な話はここでしようか」
アリウスは、余裕感が漂う雰囲気を出して笑う。
「少しだけ、愚痴? を聞いてくれないかい?」
「……」
俺は無言で促す。
別に俺に聞かせても、何も変わらないことを感じ取らせる。
「……私は、彼らが怖いんだ」
「……どういう意味だ?」
「アレクはもともとあんな奴じゃないんだ。たしかに馬鹿だが、自分の意見をしっかり持ち、それを意地でも通そうとする」
「そうなのか?」
アリウスは困った顔をし、言葉を続ける。
「でも最近、様子がおかしい。なにをしてもセリルが一番で……」
「……」
「怖くなったんだよ。セリルが、アレクが……」
「それで? なぜ一緒に行動してるんだ?」
「父上の命でね。監視を命じられているんだ」
「自分が危険だと思ったら、やめればいいのに」
「それができるほど……俺は器用じゃないんだ」
……でも、いつかその事象が自分に起き、手遅れになると思うぞ。
「まあ。染まりきる前におさらばするつもりだけどね」
「それがいい」
俺はここで、疑問をぶつける。
「……お前はなぜ、イリスを振ったんだ?」
「その質問に、意味はあるかい?」
「聞いてみただけだ。無理にこたえろとはいわない」
この聞き方は無理に言えっていってるようなもんだが。
「彼女を好きだから」
「!」
「だから、幸せになってほしい。心の底から思ったんだ。僕と結ばれれば、彼女の家は強くなるだろう。でも、彼女は幸せにはなれない。出る杭は打たれる。黒髪差別が彼女を不幸にする。僕に、それはどうすることもできない」
「たしかに、「意識下」じゃなく「恐怖」による差別は人間がその「恐怖」を忘れるまで続くだろうな。あきらめるのも早計だと思うが。」
そういうと彼は頷き、
「それは君があきらめず成してくれ。君ならばできるはずだよ」
「ああ」
アリウスは空を見上げる。
この星の光は何万年前の光だろうか。
この地上はどこにあるのか。わからないしどうでもいい。
「そういえば、他にかわいい子とか知ってるか? ユリアス」
「……はぁ」
まあ、気が緩んでいるんだろう。
もちろん建設的な話し合いは致しましたよ。
*
朝日は見えないが、決戦の雰囲気がピリピリ感じる。
さあ、始めようか。
「作戦通りに行こう」
「おう」「ああ」「はいッ」
俺は駆け出す。ここの地形に水地形はなく、出入り口は一つ! 逃げられない。
「全力で行くぜ。スターレール・プロミネンスダスト!」
初手最強の攻撃。
いままでなら負荷で動けなくなるから、使わない。
だけどこれを見てほしい。
《個体名ユリアル・フォン・オルバン( level3)
LV45 EXP776
種族 人間(level3)
所属 黒狼の学級(?) 冒険者(Xランク)
職業 トリックスター
称号 影の者 大罪者
加護 神々の寵愛
ステータス
HP10 ST 9999 MP 5000 STR 9999 VIT 1 INT 9999 RES 1 DEX 9999
AGI 9999
状態異常 悪魔化LV3
スキル
神魔剣術 LV 5 攻盾術 LV Max トリックマジック LV 10 禁忌LV 1 超回避 LV Max 未来攻撃予測 LV Max ボス耐性 持久力強化 限界不死 神耐性 真理
アーツ 痛恨の一撃 スターレールシリーズ 風刀 威圧 影移動
大罪 嫉妬
従魔 黒狼『クロ』
その他 最も関わりが深い人物 1イリス 2クロ 3エルセリア
評価 ☆12(上位)》
なんと、すごく耐性関連が下がった(1になった)けど、他のステータスがカンストしたんだよね。
やっぱ、適した形に「level」が上がったんだろうな。
まあそんな感じで、
「余裕なんだなあ。これが」
初手最強の一撃これは、効いたはず……
突如地面が盛り上がり、壁となった。
その壁を足場にして下がる。やはりといっていいのか、壁は津波のように迫ってきたが……
「炎神断!」
「光神衝!」
主人公&アレクの連携攻撃。壁をアレクが砕き、主人公が余波と共に敵に突きを見舞う。
壁は、粉々になり、敵も……
「来るなぁぁぁ」
氷の結晶のようなものが、敵の周囲を舞う。
その結晶は攻撃を完全に弾き、主人公は吹っ飛ぶ。
「固い!」
俺も特攻を仕掛けるが、結晶の壁を砕くには足りない。
剣戟を敵に浴びせる。トリックワイヤーに地面の削れた欠片を付け、その欠片と場所を入れ替え攻撃。
この攻撃法もあまり意味をなさない。防御は全方位だ。この技術は攻撃をよけることには使えるが、防御を破る事はできない。俺のステータスも下がってるしな。仕方ない。
何か違和感を感じる。敵がさっき戦った時より遅い。 消耗し弱った? 考えられるが、この感じ。不気味だ。
「もう……許さない」
冷気が空間を満たす。視界がホワイトアウトし始める。まずい、視界が……
「死ね」
なんだ、槍? 早いがこれまでと違い、一本だけ。不気味だが回避はでき……
槍は突然、蛇のようにうねる。
なんだこれ避けられないだろ。
「ユリアス!」
……なにが起こった?
槍は一本だけ。なのに、今何撃叩き込まれたんだ? 槍が見えなかった。
吹雪のなかにたたずむ、氷の槍を構える半透明の美丈夫。
魔物の本気形態か……
「見込みが甘かったな」
全く動けねぇ。
*
死ぬ。
この中で一番強いユリアスがやられた。
「この野郎!」
「待て。アレク!」
……一瞬でアレクがぶっ飛んでいった。
「アレクさん!」
クソ! やるしかないのか?
鋭い一撃。私はそれを紙一重で避ける。
槍ならば私の専売特許……ッ!
早い! こいつ、槍だけだとしても私たちを全滅できそうだ
「だが! あきらめん!」
高速ラッシュ! 敵の槍を弾き、敵の胴に……
氷の結晶に阻まれ、槍が弾かれた。
どうやらこちらの攻撃は通らないみたいだ。
しかし、相手はこちらを殺そうとは考えてないみたいだな。
アレクが貫かれていないのが証拠だ。
ユリアスは殺しに行ってたけど……
それでも、ユリアスの刺し傷が少ないのは、彼が思い切り後ろに飛び、刺されるのを避けたからであろう。
そうでなければ死んでいたはずだ。
……やはり、彼が一番強い。
ならやることは一つ。彼の復活まで持ちこたえる!
何があってもな。
「がはッ!」
……いくら致死の攻撃が飛んでこなくても、槍の横腹で殴られるのも案外痛い。
隙を突かなければ……。
……でも、どうすれば……
「雷神衝!」
セリルの攻撃。いかに強力でもあの盾には……盾の弱点!
いくら強力でも完全無欠はあり得ない。はずだ……
まあ、試してみなければな。
槍を構え、投げ撃つ
手始めに、近距離と遠距離を「同時」にだ。
結果は盾に阻まれるはずだった槍は盾を破壊し、敵に刺さった。
......ッ! 効いた!
「痛いぃぃぃ! ゆるさない。殺すぅぅぅぅ」
敵は狂ったように泣き叫ぶ。
まずい! 範囲攻撃ッ! 来る!
「ユリアス! 同時にあてろぉぉぉ! 盾はそれに弱い」
私は凍り付いた。
*
寒い。眠い。苦しい。
しかし、胸の奥底から熱が吹き上がる。
妬ましい。妬ましい。妬ましい。
頭が、反響でどうにかなってしまいそうだ。
このまま、本能のままに……
「ユリアス! 同時にあてろぉぉぉ! 盾はそれに弱い!」
そうだ。
まだ、守るべきものがある。
嫉妬に飲まれるな。俺は「俺」。それで一つの尊いもの。
『本当にそうかい?』
「!」
『君は誰にも必要とされてない。誰にも見られてはいない』
「そんなことはない」
『君はどうでもいい人間だ。君が抱く感情は、世界への嫉妬。それは紛れもない事実」
そうかもな……
「だが! 今はどうでもいい」
俺の上にある剣の温もり、イリス達との絆!
「嫉妬すらも自分のものだと割り切り、飲み込む」
『君が妬ましいよ』
《悪魔化が進行。悪魔形態に変化可能。悪魔化が進んだことで、大罪を使用可》
俺は勝つ。敵を妬んで、奪ってでも勝つ。
*
周囲の氷が解け爆ぜる。
熱の中心にいるのはユリアス。
しかし、その姿はいつもと異なる。
左目から黒い線が涙のように落ち、左だけに悪魔の角が生えている。
結膜は黒く染まり、瞳は赤く輝き竜のように裂けた瞳孔が、ギロリとしている。
まるで片方だけ悪魔になったような容姿。
「妬ましいな、その強さ」
敵は表情を変え、彼を見据える。
「だから奪って、勝つ!」
*
「おらぁ!」
蹂躙の始まりは些細な一撃。
しかし、その一撃は魔物に驚愕を与える。
「痛い?」
魔物は反撃を忘れて驚愕する。
殴られただけ。
それなのに鋭い痛みがはしる。
「なぜ防げない!」
大気を凍らせる盾も、意味がない。
「お前の防御を妬み、奪ってるんだよ」
「意味がわからない! 第一奪えないはず……」
「攻撃と奪う。同時攻撃だ」
意味が分からない。
まるで自分じゃないみたいに体が動き、力を使いこなす。
「死ねぇぇぇぇぇ」
「断る」
俺は、手を広げ結晶の盾を出現させる。
「なぜおまえが使える!」
「よく考えてみればわかるよなぁ。奪うって意味をggrks!」
結晶の盾を巧みに使い、攻撃を流し、近づいて殴る。
……だんだん、意識が鮮明になってきた。
剣を使うか。
「来い。クロ」
手に漆黒の長剣が飛んできて、手に収まった。
「切り刻む!」
まずは腕、足、首。
しかし、そうそう上手く行かない。
まあ、絶対にあたりやしないよ。
上、下、右、左。縦横無尽に動き回り翻弄する。
「まっ! そろそろ幕引きと行こうか」
「殺す」
「そろそろ「殺す」以外も言ったらどうだ」
俺は満を持して、攻撃を畳み掛ける。
「死ねぇぇぇぇぇぇ! 動けない!」
「トリックワイヤー。張り巡らせておいたのさ」
チェックメイトだ。
「スターレール・デモンダスト!」」
大罪の力を使った、悪魔が魅せる流星の軌道。
敵を切り裂き……
「その力、俺のものにしてやる」
彼の胸に手を置く。
「スティール・オブ・ソウル!」
大罪 嫉妬の「略奪」の効果。
「触れた」相手の魂を奪い去る、即死技。
能力の特性上、相手に一度打ち負かされなければ使えないが、相手の力を吸収できる。
敵の魂を奪い、満足感が心を満たす。
「俺の勝ちだ。その力使わせてもらおう」
黒い霧が、体から抜けていく。
悪魔化(仮定)が解除されたみたいだ。
……周囲の氷も解け、アリウス達も動けるようになったみたいだ。
「帰ろうか。クロ。ダンジョンの外までぶっ放してくれ」
『ふー。肩凝るな』
「剣って肩凝るの?」
「大分な」
クロにまたがる。
「ユリアス!」
「……またな。アリウス。後始末は頼んだ」
「ああ!」
学生寮まで飛ばしていった。
*
朝日が昇る前の赤色。綺麗だな。
あれ? 俺……何をしてたっけ?
帰ったら急に眠たくなって、飯食って寝たところまで覚えている。いや、思い出した。
一日、寝過ごした?
……まあ、
夏休み終了までやることないんだよな。何をしよう?
「よいしょ……あれ? 立てない」
ていうか。体がだるい。
風邪ひいたかな? 状態異常を鑑定。
《状態異常 悪魔化LV5
青夏の亡呪霊の妄執》
ぬ? なんか変なのついてるんだけど?
《ステータスが半減する》
え?
《ステータスが半減する》
……まじ?
《ステータスが半減する》
………え~マジかよ。
常に半減するってヤバくね。
防御関係のステータスは、1だからいいけど、攻撃とか、速度とかが下がるのは死活問題じゃん。
うーん? 詰み?
『やっと起きたか』
「おうクロ! ……え? 「やっと」って何?」
『大将、大分寝てたぞ? アリウスとやらが心配してたな。そういえば今日……昨日が二学期始まりとか言ってたな』
マジすか。
あれ? 俺、寝すぎじゃね?
「ということは2か月くらい寝てた?」
『そういうことになるな。まあ、大将のあの形態は、負荷がヤバそうだったから仕方ないな』
あの形態は負荷がヤバくて、二か月植物か……あまりホイホイつかえるもんじゃないな。
……そういえば、なんか忘れてる気がする。
二学期が始まってから一日、なーんか引っかかる。
……イリスは帰ってきたかな? たしか……
「クロ、行くぞ」
『どうした? 大将?』
「出迎えだ」
俺は重い体を持ち上げ走り出す。
馬車での移動がメインな世界。貴族の馬車はいい道しか通らない。
ノワール領は北側、つまり北側校門!
全ステータスが半減しても、対して疲れはしないはずなのに、息が切れる。
二か月眠ったせいだろうか。でも、走るのをやめない。
朝日と共に馬車が見えてきた。
……馬車多くね? まあ、帰省してる人も多いか……。
一つ。校門から外れた馬車があった
たぶんそれがノワール家の馬車だろう。
あいつは人嫌いだからな。
思わず笑みがこぼれる。
……入るとすれば裏門だろう。
ここから近くて人気がない裏門。
……知らねえよ。
「ん?」
なんか変な輩を見つけた。
聞き耳を立てる。
「今日は帰省する学生が多い日、裏門から入る貴族の生徒を売れば、金になるぞ」
「でも、ばれないんですか?」
「裏門から入るやつは、人嫌いの貴族で、誰もそいつのことを気にしない。つまり、完全犯罪ができるのさ」
「さっすが親方!」
「おっと? 来たぞ」
……お宅らも大変ですなぁ。
俺はもちろん止めない。
金が欲しいのもわかるしな。
「イリスお嬢様をお守りしろ~」
お? 戦闘になった。
まあ、勝つのは盗賊だろうな。
……ん? いまイリスって言った?
「おお! 当たりだ。上玉だぞ! すこし楽しんでから売ってやろうぜ」
「「「おお~!」」」
「前言撤回」
俺は背後に回り込み、リーダーらしき盗賊の首に手を置く。
そのまま優しく力を加えてやって……
「あがッ」
「ボキッ」という鈍い音を立てて、絶命した。
怖いねぇ。
「よくも!」
剣で切りかかってきた盗賊にボディーブローをかまし、剣を強奪して首を落とす。
「死にたくなければ逃げることだな。逃がさないけど」
まあ、肩慣らしだな。
剣を振り払い、風刀で首をあらかた落とす。
切りかかってきた奴の胴を切断。
「む? 折れた」
粗悪な鉄剣は根元から折れた。
手入れしてない剣は、これだからな。
「ボスの仇ぃぃぃ」
「丁度いい。お前が武器になれ!」
カンスト(の半分)の腕力で首をつかみ、振り回し、盗賊に叩きつける。
一発で盗賊の……いや、武器の骨が崩壊したが、大丈夫だ。
「逃げろぉぉぉ」
「逃がさないって。敵に背を向けるのは死にたいって言ってるもんだって」
その後も殴り、蹴り、折り。
「はい最後」
最後の一人を握りつぶし、イリスを見据える。
従者の人間はおびえたように立ちすくんでいる。
当のイリスは……
「はあ、最悪の出迎えですわ。まあ、相変わらずでなによりですわ」
「うん。元気そうでよかったよ」
「……ん……」
やれやれという感じで、こちらに手を伸ばす。
「汚れてるけどいい?」
「早くするですわ」
手を握り、そのままの流れで手の甲に、軽く唇を触れる。あのときの延長だ。
「慣れたもんだな」
「慣れたくなかったけど、ですわ」
「……おかえり」
「……ただいま、ですわ」
頬を赤らめて告げる。
まるで、一年間会えなかったような態度だ。
俺も、そんな気分だ。
「はあ、まったく。手が血みどろですわ」
「……悪かったな」
ありがとうございます。
連続投稿の第三弾でしょうか?
楽しんでくれて、なおかつポイントをいれたり、ブックマークしてくれると幸いです。