6 手伝い
高校生活の文化祭最後は、生姜焼きを出すことに決まった。なぜ生姜焼きかは分からない。俺は、この文化祭の主役にならないといけないのだが、どうすればいいことやら……とにかく、全面的に文化委員を手伝うことにしよう。
「屋久さん、何かのお手伝いできることありますか?」
「寺内君手伝ってくれるのか、ならお言葉に甘えて、調理と広報をやってもらおうかな」
こいつは屋久風花。文化委員で、文芸部、文系科目はいつも学年上位のThe文系女子。とてもクールな人で、男子からも人気が高い。1年生の時から、文化委員をやっていて、いずれもクラスを一番に導ている実力の持ち主だ。
「分かった、やらせてもらうよ」
「ありがとう、じゃ今日から放課後居残りで」
「今日から⁉」
「そうよ、文化祭は準備が大切だからね」
屋久さんの目は本気だった。この人が主役じゃないのか、ついついそう考えてしまう。でも、俺も今までにないぐらいの学校生活にしたい。地獄から天国にしたい。そのためには、この人から主役の座を奪わないといけない。それからの俺と屋久さんは遅くまで居残り、着々と準備を進めた。
文化祭1週間前。
「クラスの子も手伝ってくれてだいぶ準備が終わったな」
「そうですね」
「それにしても、寺内君には本当に助けられたよ、ありがとう!」
素敵な笑顔だった。ついつい見とれてしまいそうになったが、すぐに我に戻る。
「いえいえ、屋久さんの計算や指示が的確だっただけですよ」
「そう言われると嬉しいな、今回で私達の文化祭は最後だ、絶対一緒に一番なろうな!」
「はい!」
とても嬉しい言葉だ。この人と、一緒に一番なりたいという思いが強くなり、主役にならなくてもよい。そう考えるようになった。こんな楽しみな文化祭は初めてだ。
「そういや、屋久さんはなぜ、そこまで一番になりたいのですか?」
「まだいっていなかったな、今から話そう」
屋久さんは、中学時代、自分に自信がなく、常に周り目などを気にかけてきたらしい。しかし、そんな自分を高校では変えたく、一年生の委員会決めで思い切って、文化委員に立候補した。そこで、クラスを一番に導き、周りの生徒の笑顔を見ていると幸せな気持ちになった。生徒会役員じゃなくても、こんなに人を喜ばせることができると知った、屋久さんは、自信がつき、また一番になって、皆の幸せな顔が見たい!__これが文化祭で一番を目指す理由。
「そんな体験があったですね、なら、なおさら一番目指さなくちゃ!僕も頑張ります!」
「頑張ろう!」
「俺はもう少しだけして帰ります、屋久さんは、明日の為にも帰ってください」
「そうか?なら帰るとするか、翔希も無理するなよ」
屋久さんが帰った後、顔が熱くなったのは、内緒にしておこう。その後、俺も準備を終えて、教室を出る。階段に行くと、生徒会終わりの美崎がいた。
「あら、今日も文化祭の仕事を、生徒会役員でも文化祭でもないのに、よくそこまで頑張りますね」
「言っただろ、今までにないような学校生活にするって、たとえ生徒会役員じゃなくてもだ」
「そうですか、なら期待しているわ」
とても低い声で階段を下りて行った。全く、あんなに冷たかったか?今度こそ見返してやる!
文化祭前日。
「とうとう明日だな、翔希」
「そうですね、この調子なら今までにないぐらいすごい文化祭になりそうですね」
「敬語は辞めろ、同い年だろ!けどそうだな、3年間で最高になりそうだ」
生徒会役員になってたら屋久と仲良くなることは出来なかったから結果オーライかな。姉ちゃんや雫には感謝をしないといけないとここ最近思うわ。
「いやー私の目に狂いはなかったね、流石だよ君」
俺の肩に顎を乗せてきたのは雫だった。雫は、生徒会の仕事で、クラスの出し物にあまり参加できていないが、最終日はということで、手伝いに来ていた。
「それはどうも雫さんよ」
「やっぱり君みたいな人材が欲しいよー美崎が否定しなかったらな」
「それは悪かったわね、お姉さま」
またまた突如、現れたのは、美崎。しかし、今日も手伝いに来れないはずなのに、なぜいるのか?
「彼に言うことがあって来ました、もしこのクラスが文化祭で、一番になったら、生徒会に入ることを許します」
「え⁉なんで」
「気が変わったのです。最近のあなたの頑張りは評価に値します、さすがにそこまで鬼ではないですからね」
報われた気がした。今まで散々だったけど、自分の目標に近づいたことはやっぱり嬉しい。確かに、まだ決まったわけがないが、自分の中で希望の道が見えた気がする。
このクラスと屋久さんで絶対取ってやる。
宣言!文化祭1番になり、生徒会に入る!
文化祭当日。
今日は絶対に成功するぞ、今までにないぐらいすごい店にしたからな。
「やばい、やばいよー君」
何者かにタックルされた。こんなことをするのは__やはり雫だ。
「どうしたこんな朝から」
「まずいよまずいよ、屋久さん今日休みだって」
「え⁉⁉⁉⁉⁉」