5 初めての人前2
ただ時がたつ。その日は、誰からも声をかけられないまま家に着いた。家に入ると、姉ちゃんが声をかけてくる。
「おかえりーー、やっぱり……駄目だったか」
結果が分かっていたような言い方だ。この発言で頭に血がのぼる。
「なんだよその言い方、もしかしてまた俺に恥をかけさせるためにわざと」
「そうだよ、わざと、多分だけど竹浦双子にやられたのかな」
「なんで雫達のことを……」
姉ちゃんによると、雫達のことは高校時代から知っていたらしい。どうやら雫達は中学の時、姉ちゃんに会いに来ていて、生徒会のことやリーダーとしての振る舞い方など姉ちゃんの全てを教えてもらっていた。これを聞くと納得いく。だから雫は、弟である、俺を家に連れていき生徒会に誘った。しかし美崎は、はやくの段階から、姉ちゃんのような能力がないことを知り、生徒会にいらないと判断した。
「じゃあ、なんで俺に恥をかかせた?」
「立ち直れないほどの敗北を味わってもらうためだよ」
これにもう一つ衝撃なこと聞かされた。なんと……姉ちゃんは俺のために、バカを演じていた。俺が姉ちゃんをひそかに憧れていることがバレており、憧れをやめてもらうためとか。
憧れては超えることができない。姉ちゃんは俺に超えてほしかったらしく、あえて憧れをやめさせた。 どうやら俺には、姉ちゃんが欲しかった才能があるらしい。内容を聞かされなかったが、その才能を腐らないように、今まで恥ずかしいことをさせてきた__周りの目や意見に左右されない人にするため。
そして、振り回した理由はもう一つ、それは行動力や大胆さをつけるため。自分では、ないと感じていたが、知らず知らずのうちに、つけさせられていた。
ちなみにブラコンはもともとらしい。
「それに、すぐ生徒会に入らなくても、代表として今までにない学校生活にする方法はたくさんあるよ」
最後に姉ちゃんはそう言い残し、キッチンに向かう。この言葉が頭から離れない。ずっと考えたが最後の最後まで分からなかった。
カーテンの隙間から光が差し込む。今日の学校も憂鬱だな。3日連続でこんな気分になるのは初めての経験だ。体から布団が離れない。
「おはよう!愛しの弟よ、今日の朝はどうする?ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ☆た☆し?」
「それは帰って来た時にするやつ、ご飯に決まってるだろ!ごはんごはん」
「そこは冗談でもわたしって言うとこでしょ!可愛くない子にはこうだ」
エプロンなどを脱ぎ捨て、俺の布団に入ってきた。俺は抵抗するが、敗北。気づいた時には、抱きっつかれていて、甘い香りがしだす。俺はついつい顔を赤らめる。
「あら、恥ずかしいのーもしかしてテンション上がってきた?」
「上がってない!」
俺は姉ちゃんと目をそらし、否定する。あー姉ちゃんでこんな感情になるとは、一生の恥だ。
朝からとんでもない目にあったな。けどやっぱり昨日の姉ちゃんの言葉の意味、何度考えても、分からない。
「朝から悩んでるね君」
「うわ⁉なんだ雫か」
「なんだとはなんだ、この学校一美女がぼっちちゃんに喋りかけるなんて、マンガみたいでしょ、だから喜びなよ」
姉ちゃんみたいだな。こいつ教えてもらっているうちに、性格も似たか。一人でも厄介なのに、二人目はもうこりごりだからやめてほしんだが。
「そうや、美崎はどうした?」
「なんか用事があるとか言って、先に行った」
「忙しんだな」
学校に着くと、張り紙がされていた。昨日の結果だ。こういう予想はなぜか当たる。そう、ダメだった。悔しい気持ちがあったが、今は落ちこんでしまう暇がない。
「あららーダメだったか、でも私の力にはなってもらうかもね」
「え?」
「生徒会じゃなくても、できることはあるでしょ」
まただ。確かに文化委員などなら、文化祭の企画はできるが、俺は、なんの委員にも入っていない。
「じゃあなにができるのか」
「それは自分で考えてね、ヒントを与えるとしたら文化祭、主役だね」
なら、何かの出し物の主役になれということか。しかし、それでは普通に楽しませるだけだぞ。
俺で楽しませるかは不安だけど。出し物を決めるのは、今日か……
「それでは出し物は、食品バザーで、生姜焼きにします!」
まさか食品バザーになるなんて、舞台演劇じゃないの……しかもなんで生姜焼き。もっと他の案あっただろう。てか食品バザーの主役ってなんだよ。企画者か、そうなのか、じゃあ文化委員やんかーー
俺はどうすればいいんだよ。