4 初めての人前
生徒会に入るためにどんなことを言えばいいのだ?超特急で彼女らの家を出たのはいいけど、何を言えばいいのか知らない。しかしあてはある。
姉ちゃんだ。なぜならあいつは高校時代、生徒会長をしていた。俺は、姉ちゃんの生徒会長姿を見たことはないが、先生方からすごい評判が良い。この時の姉ちゃんは、勉強でも運動でも校内1、性格も誰にも優しく、神様のようだったので周りの生徒から、女神だと言われていた。そのあだ名は、俺の中学校でも有名になるほどだった。
家の前に着いたが、明かりがない。鍵も開けっ放しで不思議に思ったのだが__それは当たり。リビングの端でポツリといた。
「なにしてんだよ」
「だーって、翔希の帰りが遅いし、メール送ったのに返事が返ってこないから、心配してたんだよ!」
情けない顔だ。さすがの俺でも、ここまで心配をかけるとは思わず、気が引ける。
「悪かったよ、これからは気をつけるからさ」
「じゃ、私のお願い聞いてくれるなら許してあげる」
「俺にできることなら……」
「それならさ……抱きしめて」
姉ちゃんにしては、簡単なお願いだ。男性性器と女性性器を使って遊ぼうとか言われたらどうしようかと。でもそれならできる。小さな体をゆっくりと包み込む。
姉ちゃんは幸せそうな顔になり喋り出す。
「昔、お父さんにこうされた時を思い出すよ、翔希も大きくなったんだね」
この一言が俺の心を突き動かす。今更だが、寺内家には父親も母親もいない。どちらも6年前に、交通事故で亡くなった。これ以降、姉ちゃんは俺のために努力するようになり、今にいたる。
しかし、俺は亡くなったショックで、何事にも無気力になり、ただ堕落する人生を送っていた。また、人に振り回されてきた人生だから、家に帰ると疲れ果て、家事の手伝いもしなかった。それでも姉ちゃんは、怒らず、優しく見守ってくれた。今思うと、申し訳ない思いでいっぱいになる。
「今までありがとうございました!」
ブラコンで常識外れのバカな所を許す瞬間だった。
その後、姉ちゃんに生徒会の演説について相談し、言うことを考えられたのだ。
演説日が来た。時間は1時間目に設定され、朝から心臓がうるさい。
俺ならできる、俺ならできる、そう言い聞かせ、俺は一人、マイクも前に立つ。
「今から生徒会役員演説を始めます。それでは寺内君お願いします」
雫の挨拶で、静まる体育館。俺は、喋り出す。内容は以下の通り。
(俺は、この学校を今までにないようなやり方で充実させたい。皆様ご存知の通り、告白宣言と言う、意味の分からない告白の仕方を実践して、敗北はした。しかし、これを良い意味で言えば、行動力がずば抜けて、大胆さがあるということになるのではないでしょうか。この能力を使って、今までより楽しい行事を作ったりして充実させます。そして、姉である、寺内早紀を超える生徒会を、竹浦達とします。どうか応援よろしくお願いします。)
歓声が湧き起こる。どうやら周りの生徒からの評価は良かったらしい。俺は、一息ついたのだが、もちろんこれでは終わらせてくれない。一人の美少女が舞台に立つ。
「美崎は、あなたの存在がいりません。そもそも行動力があるだけでは意味がありません。
失敗は成功には必要だけど、生徒会の時間では何回も失敗できる余裕はありませんよ」
言い返すことができなかった。彼女が言うことは確かだ。行動力や大胆さはないよりは、圧倒的に良いし、失敗をすることは成功に必要だ。しかし、俺はもう2年生で生徒会期間は残り1年、3年の始めには辞める=行事は残り一回、失敗は許されない。
周りの生徒もザワつきだす。これはマズイ、このままでは生徒会になれない。体中が熱くなり、一滴の水が顔から落ちる。結局、なすすべがなく終わってしまった。
この後、教室に戻り、生徒会に了承するかの紙を渡された。皆の書くスピードは早かった。
結果は翌日に発表されるらしい。