【10】初めて見る仕草(ジェスチャー)
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「……は〜い、ちょっとここからは二人共お静かに」
魔女がらしくもなく、小声で骨ピとウンラロの二人に声をかけた。体勢を深く沈め、魔女の後方を歩いて着いていく二人を黒い長手袋をした手で制する。
この先は、いくつもの小さな『穴』が壁や床や天井に空いている。ここが『危険地帯』であることは、二人のゴブリンにも容易に想像できた。
「……【長虫】は『音と振動』に敏感だから、ふたりとも音立てないでね……」
シーッ…と口元に人差し指の指先を当てて、魔女はウィンクする。骨ピもウンラロも初めて見る仕草だが、魔女の言葉の流れから察しておそらくは『静かに』の意であろう。骨ピもウンラロも、黙ったまま魔女に首肯する。
すると魔女は、【ポシェット】の中から【太鼓】を取り出し、コホンと一回咳をしたあとで、
「あ〜あ、あ〜!……ああ〜あ、あ〜!!」
と、不思議な節回しの『歌』を歌い始めた。
びっくりして、骨ピとウンラロは思わず固まってしまう。
ザリザリザリ…ッ!という音とともに、洞窟の壁の『穴』から一斉に【長虫】がその鎌首をもたげ出でた。退化した目の代わりに発達した感覚器官であり捕食器官でもある『牙』を気味悪くガチガチと鳴らしながら『フシュゥウー……!』と生臭い息を吐く。
骨ピとウンラロは動くことさえできない。
「さ!奴らが穴から出てる間に穴から『たまご』採ってきて!」
一気に言ったあとで、また魔女は『あ〜あ、あ〜!』と歌いだした。どうやら、この歌をやめた途端に【長虫】共は一斉に襲いかかって来るらしい。魔女はらしくもなく真剣な表情で太鼓を叩き歌を歌っている。
なぜ、そんな大事なことを、前もって仲間に教えておかないのだ?
……やはり、魔女には常識がない。
To Be Continued.⇒【11】
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