1.おんなぐすり
俺の名は御影 康介。二十五歳。フリーターだ。
その日、俺は昼間のアルバイトを終え、帰路に就いていた。
「はあ、今日も疲れたな……」
俺がそう呟きながら、家までの道を歩いていると、路肩に店を構えている老婆の姿が見えた。
老婆は俺に気づくと声をかけてきた。
「そこのお若いの?」
「俺……ですか?」
「お前さん以外に誰がいるんじゃ」
「なんですか?」
「お前さん、今の生活に飽きてはおらんか?」
確かに、俺は今の生活に不満を抱いている。
「わかります?」
「そういうお前さんには、これを試してもらいたい」
そう言って、老婆がピンク色の液体が入った小瓶を渡してきた。
「これは?」
「それはTS薬と言ってのう、性転換ができるエキスなんじゃよ。男が飲めばたちまち女になり、女が飲めば男に変わる。どうじゃ?」
「こんなんで異性にねえ?」
「それはお試し商品じゃから、お代は結構じゃよ」
「はあ」
俺は小瓶をしまい、家に帰宅した。
「ただいまー」
と言っても、一人暮らしなため、誰もいない。
出迎えてくれる家族はおろか、彼女すらいない冴えない男。
良い加減、恋人くらい作りたいところだが、いつもうまくいかない。
俺は部屋に入り、例の小瓶を取り出した。
異性にでもなれば、彼氏くらいできるだろうか。
俺は、小瓶の中の液体を飲み干した。
翌朝、俺は目を覚ます。
「ん……うん?」
起き上がると、髪の毛が背中の辺りまで伸びていた。
鏡を覗くと、端正な顔立ちの女性が映っている。
「うん!?」
鏡にはその女性しか映っておらず、俺の姿はどこにもない。
状況を飲み込むのに、時間はかからなかった。
俺は女性になっていたのだ。
「こ、これは!?」
声色も女性のそれである。
あの老婆、何者なんだ?
とりあえず、俺はパジャマを脱ぎ、全裸になってみた。
外見も完全に女性だった。
「ゆ、夢だ」
そう、俺は夢を見ているに違いない。
ならばその夢とやらをたっぷりと堪能してやるか。
俺はとりあえず服を着た。
「う!」
胸に違和感を覚える。ブラが必要だな。買ってこよう。
俺は支度をし、家を出ると、ヘルメットを被ってバイクに跨った。
「ちょっと待て」
俺は免許証を取り出した。
なんと、免許証の写真も鏡で見た女性にすり替わっていた。
更に、吉永 聡美という身に覚えのない姓名になっている。
とりあえず、無免許になることはない。
気を取り直して、俺は服屋さんに向かう。
レディースものの服をいくつか購入し、試着室で着替えた。
ブラを着けたことで、胸の違和感はなくなった。
俺は家へと戻る。
今日はバイトは休みだ。
今後のことを考える時間は十分にあった。