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聖女の庭   作者: 遠田
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建国の経緯

 脅威──皇国レグヌム建国前の遥かな昔、この地は呪われた地と呼ばれていた。

 ところどころ崩れている城壁を、ウルティカという毒を持つ棘の茎が長く伸びて、生けるものの侵入を拒んでいたためだ。

 何度焼き払っても、すぐに伸びるウルティカが覆う大地。ウルティカの解毒剤もないために、誰も近寄ることさえできずに、捨て去られた土地となっていた。

 しかし、長く生けるもののない大地だったそこに逃げ込んだものがいた。

 近隣王国の第二王子だった。

 あまりにも優秀だったことで第一王子に疎まれて、重ねて行われる暗殺より命からがら逃げた先が、呪われた地だった。

 皮肉にも、王子らの曽祖父の代に王国が侵略した国の成れの果てが、呪われた地だった。

 侵入をすれば死に至る地に逃げ込まれては、追手もそれ以上追うことはできず、外からひと月を超えて見張ったのちに、逃げ出す人影がなかったことで第二王子の死亡が認定された。

 しかし長らく死亡したと思われていた第二王子が、蔓延るウルティカの死の脅威に打ち勝ち、やがてその地を拠点とし立ち上がった。

 第二王子は神の力を得たのだと言う。

 彼はその力で脅威すらも手中に収め、王国を討ち滅ぼして今の広大なる皇国レグヌムを建国したのだ。

 初代レグヌム皇帝の誕生である。

 占領地には神の力で城壁が建ち、ウルティカがそれを覆った。城壁のみを覆うウルティカは外敵の侵入を拒む最大の盾となって、今日までレグヌムを守護している。


 脅威と呼ばれたウルティカの蔦が城壁周辺にのみ蔓延るようになったのは、宗教国家より遣わされた巫女の祈りによるものだと伝えられている。

 そしてウルティカは意志を持つように、皇国レグヌムに仇なす国があればその蔦を伸ばしていく。

 かつてレグヌムに攻め入ろうとした国に突如ウルティカが出現し、見る間に民を、そして国を丸ごと飲み込んでいったという。そこは新たな捨てられた地となり、脅威となった。全ての命を奪うといわれるウルティカを制しているのは、皇国レグヌムのみである。

 ウルティカは基本的に他国には出現しないが、レグヌムに敵対行為を起こせば、報復のようにウルティカが出現する。稀にウルティカが出現した場合は、宗教国家レギリオの巫女の祈りによってのみ、駆逐されることがわかっている程度なのだ。


「聖女アゼーナはウルティカの脅威に打ち勝つことができると断言し、わたしはその言葉を信じるに足ると判断した」


「判断はどのようになされたのかな」


 フィーニスの問いかけにフィリウスは馬鹿馬鹿しいと首を振るった。


「わたしが信じると言っているのだ」


 そう言葉を重ねるフィリウスに、アゼーナは満足げに笑みを濃くしたが、さんにんは逆に押し黙った。

 沈黙は長くは続かず、口火を切ったのは純白のオルサだった。約束は守られないのですね。オルサの言葉はいやに強く響く。


「そもそも、その定めにどのような価値があるというのでしょう。ただの習わしとして残っているだけではありませんか」


「貴様に発言を許してはいない、黙っていろ」


 フィーニスが強くアゼーナの発言を断じた。黒ぐろとした瞳が射殺さんばかりにアゼーナを写しているが、意識は遠いむかしを彷徨いはじめた。

 あのときと同じだ。

 フィーニスの声音はひどくざらついている。

 あのとき、遠い遠いむかし、すべてを呪ったあのときと。

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