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突然の再会と真実。

先輩の姿が見えなくなった。ため息を一つついて車内へ向きを変えると、斜め右の席に座るスーツ姿の女性が私に向けて小さく手を振っていた。


「二宮先輩! 」


「ヒラ。」


突然の再会に大きな声を出してしまって周りの人を振り向かせちゃった。先輩ちょっと恥ずかしそう。それでも、笑顔で私の名前を呼んでくれてる。


「ヒラ、久しぶりだね。隣開いてるから、こっちに来ない? 」


「いいんですかぁ。じゃあ、お邪魔しますぅ。」


隣に座る。先輩、すごくいい匂い。


「元気にしてた? 」


絶対的な存在感も健在だ。しかも、化粧もしているから、美しさが倍増しで、まぶしすぎるっ。けど、変なタイミングで会っちゃったなぁ。


「はいっ。元気もりもりです。」


「相変らずねぇ。」


「先輩も相変わらず綺麗です。」


「また、お世辞言っちゃって。何もでないわよ。」


そう言うと、マスクの上からでも口を手でかくして、フフフって笑った。何て女子力! 同じ女子でもこうも違うと、落ち込んでしまう。


「可愛い服ね。誰かとデートだったの? 」


二宮先輩、鋭い。


「そんなわけないですよぉ。マックで晩御飯ですぅ。」


「さっき見ちゃったんだけど、ひょっとして須藤君と会ってた? 」


「あっ。見ちゃいましたか。」


やっぱり気づいてたかぁ。もうごまかせないな。


「実は、圭介先輩にフラれたばかりで、傷口も深いです。」

嘘をついても仕方がない。そう思って勇気を出して答えると、二宮先輩は少し気まずそうにした。


「・・・・・・ごめんなさい。変なこと聞いちゃって・・・・・・。ヒラも須藤君の事ずっと好きだったものね・・・・・・。」


そう言って微笑む。ああっ、この余裕。この余裕に私は嫉妬していたんだ。改めて自覚する。


「そっ、そうなんですよぉ。だから、クリスマス前に思い切って告ったんですけど、やっぱり駄目でした。」


「そう・・・・・・。じゃぁ、須藤君の事、聞いたのね。」


やっぱり、その話題だよねぇ。どうしようか・・・。いっその事、どうやって秘密を知ったのかを聞いた方がすっきりするかも。


「はい。でも、圭介先輩はどうして二宮先輩だけに話してくれたんですか? 」


すると、先輩は苦笑いしながら、「ヒラはいつも直球を投げてくるわねぇ・・・・・・。そうね。いつか話そうと思ってたしね。」と、前置きをして、「私、須藤君の事が好きだったし、須藤君も私の事を好きでいてくれたからよ。」


と、告白した。


「やっぱり!! 」


「やっぱりって・・・。まぁ、そう思うわよね。」


「そりゃ、そうですよ。誰もがそう思ってましったって! 」


「そうね。でも、周りの人達にそう思ってもらえるようにするのが約束だったしね。」


「そう思ってもらえる約束ってなんなんですか! 」


「怖いよヒラ。」


苦笑いをする先輩。変に感情的になっちゃった。でも、先輩は逃げずに私のモヤモヤに向き合ってくれている。


「私ね、元々サッカーが好きだったから、サッカー部のマネージャーになったの。だから、最初の頃は、須藤君も部員の一人としてしか見れていなかった。でも、部活中も部活を離れた所でもフェアーな須藤君を見ていて、彼の事がだんだん気になっていってね。それで、一年の2学期の終わり位だったかなぁ、私と須藤君はお似合いだって周りから言われはじめて、私も舞い上がっちゃって、それがきっかけで、告白したの・・・・・・。でも、その頃の須藤君は、恋愛の事よりも、自身のアイデンティティにすごく悩んでいて、私、それに気付いてあげられなくて・・・・・。その時の須藤君、凄く困ってて・・・。その時、彼は、考えさせてくれって、返事を濁したんだけれど、それを、私は、私の事が嫌いなわけじゃないって思い込んでしまって、ことあるごとに返事を下さいって言い続けていたら、2学期の終わりころだったかな、二人だけの秘密にしておいてほしいと前置きされて、ようやく本心を教えてくれたの。それで、『迷惑じゃなかったら、つき合っている風にしてくれないか』って、頼まれたから、彼を支えることにしたのよ。」


「でも、それって、付き合ってるって事じゃないんですか? 先輩、私には付き合ってないって言ってたじゃないですかぁ !! 」


言葉に反応して、つい突っ込んでしまった。先輩も苦笑いしている。


「突っ込みが速い。 」


「ああっ。なんか、つい・・・。すいません。」


物腰の柔らかい二宮先輩は、私の感情の起伏も受け止めてくれる。なんか、やっぱり勝てっこない。


「大丈夫よ。確かにこういう言い訳されると、イラッてするよね。でもね。そうする事で事実を隠すことが出来ると須藤君は考えたの。私には恋愛感情があったけれど、それを差し引いても人として尊敬していたし、須藤君も私の事を異性としてではなく、一人の人として好きでいてくれてたから、好き同士という意味では間違いなかった。ただ、分かってほしいのは、同性愛者だって気づき始めた彼にとっては、女性との恋愛は考えられなくて、それを口外できない苦しみの中で高校時代を乗り切らなければならなかったから、私は彼に協力することにしたの。」


「・・・・・・それは分かってます。さっき、圭介先輩から聞いたから。でも、それって、しんどくないですか? 」


「そうね・・・・・・。今だから言えるけれど、女性として、好きな人に抱かれたいって気持ちが満たされないままだからね。でも、彼の気持ちは痛いほどわかったから、私の気持ちは、後回しにすることにしたの。」


「そんなに簡単に割り切れるものですか? 」


「割り切れないよ。普通ならね。でもね。ちょっと、話が外れるけれど、私には兄がいてね、兄は、自閉症っていう病気を患ってるの。その自閉症って言うのは、簡単に言うと、社会に出て誰かと関わり合いを持とうとするとき、社会と自分との間にあるズレが分からず、社会になじめなくなってしまうというようなものなのね。それを、自分で何とかしようと思う気持ちはあるんだけれど、精神的な障害だから上手く出来なくて、とても悩んでしまうの。でも、社会は精神障害という病に対して希薄だし、見た目で判断するから、兄みたいな人は空気の読めないやつって疎ましく思われてしまうの。それで、兄は社会との葛藤の末に、鬱にまでなってしまって・・・・・。」

二宮先輩、話していても、とても苦しそう。そんなに苦しい思いをしている人に私は嫉妬していたのか。


「・・・大変だったんですね。ちっとも知らなかったです。先輩そんな素振り一度も見せなかったし。」


「そうねぇ。あの頃は負けず嫌いだったし・・・・・・。兄が普通の人だったら、須藤君の苦しみも理解できなかっただろうし、彼の事を支えるだなんて考えもしなかったと思う。」


二宮先輩は辛い話をした後でも変わらずに爽やかに微笑む。

私はなんて子供だったんだろう。やっぱり、嫉妬していた自分が恥ずかしい。


「今、須藤君が大学で社会学を勉強しているのは、LGBT制度というものを、もっと世の中に浸透させて、自身の事をマイノリティーと感じている人達の存在も、皆が「普通」と思える社会にしてゆきたいという目標があるからなんだって。すごいでしょ。彼はいつも優しいけれど、いつも私のはるか先を歩んでてね・・・。彼を支えようと頑張ってても、そう感じる時は、とても寂しかったなぁ。」


いつも素敵な二宮先輩も、心の中では、めちゃ大変だったんだなぁ。

やっぱり、人を知るって、めんどうくさくて大変だけど、大切な事なんだ。


「先輩も辛かったんですねぇ。言ってくれればよかったのに。」


「ありがとうね、ヒラ。でもね、その経験があったからこそ、今の私があるって思うし、その経験が無かったら、まだ、わがままな子供のままだったわ。」


二宮先輩も、しばらく会わない間に、さらに大人になってしまったなぁ。


「今日、先輩に会えてよかったです。なんだか、ホッとしちゃいました。」


なぜだか、心の底からそう思えた。二宮先輩の事がずっと心に引っ掛かってたから。


「私もよ。須藤君の事は、いつか話そうと思ってたから、すっきりしたわ。けど、こんなにいい女たちをフッてしまうなんて、須藤君も罪な男よね。」


「ホントですよねぇ! 」


私達は心から笑った。圭介先輩への気持も、二宮先輩へのわだかまりも溶けてゆく気がする。

けど、二宮先輩は、まだ圭介先輩の事が好きなのかなぁ。いたずらっぽく聞けば応えてくれるかな。


「で、先輩。今はどうなんですか? 彼氏さんはいるんですか? 」


「いないよ。私ね、須藤君の事を好きになって気付いたんだけれど、私に好きっていう気持ちがないと、私の事を好きでいてくれても駄目なの。だから、須藤君を超えてくる人に出会わないと恋愛は無理かもしれないな。」


真面目で、迷いがない。まだ、圭介先輩の事が好きなんだ。そういう所は変わらないなぁ。逆に安心しちゃった。


「あー。何となくわかる気がします。でも、私はダメだなぁ。先輩程強くないから。」


「私、全然強くないよ。甘えられるものなら誰かに甘えていたいもの。」


「それも意外ですねぇ。ギャップ萌えですぅ。」


「なんだか照れちゃうわ。」


「先輩、そういうとこ、ホントかわいいですよねぇ。」


二宮先輩は照れながら「いやだわぁ。」と、言った後、「でも、ヒラ、赦してくれてありがとうね。」と、私を見つめて微笑んだ。


「なに言ってるんですか先輩 ! 照れるじゃないですかぁ。」


笑ってごまかしたけれど、先輩の「赦してくれて」は、私の心を見透かしていたように思えて、ドキッとした。


次の停車駅のアナウンスが流れる。二宮先輩が下りる駅はさらに3つ先。

電車はゆっくりとスピードを落としながら、寒さに凍える人たちの待つプラットフォームへと進んでゆく。さっきまで遠慮なく話せてたのに、なんか、急に言葉に詰まる。


「・・・・・・じゃあ、また、連絡しますね。」


「うん。私でよければ。」


「ありがとうございます。」


「またね。」


「はい。」


席を立ち、一礼をすると、先輩は小さく手を振った。

私も先輩を真似て、小さく手を振りながら、出発のアナウンスがあわただしく響いている、冬のホームへ踏み出した。


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