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第8話 「うん……でも、今は無理、かな」

「あれは、全員人間だった──」


 薄々と感じてはいた。もしかしたら、と思っていた。

 だが、ここにきてヤクモの言葉で現実を突きつけられた。

 誓矢(せいや)は逃げ出したくなる衝動を必死に抑えて、スズネへと視線を落とす。


「僕の力──眷属(けんぞく)を消滅させるって、これはどういう力なの?」

「その力こそが、まさに“神の力”。神そのものの力やな」

「神の力……?」

「わかりやすく説明すると、眷属たちは神様から力を分け与えられた存在で、一方、セイヤはんには神様そのものの力が宿ってはるということなんや」


 頭の上のヤクモを引き剥がそうとしていたユーリの手が止まる。


神狼(しんろう)──フェンリル?」

「お、おまえ、よく知ってるな!」


 ヤクモがペシペシとユーリの額を叩いた。


「神界の中でも強力な神様の一柱(ひとはしら)だぞ、ある意味スゴい幸運だよな」

「え? どういうこと?」


 スズネが誓矢の疑問に答えていく。

 今回勃発(ぼっぱつ)した三界戦争は、眷属たちを戦わせるという代理戦争の形なのだが、神々それぞれの思惑もあって、一部の神は自らを人間界へと降臨させるために、特に感受性の強い年代の少年少女へ特殊な力の発現という形で存在を移したのだった。


「神様にとって、人間界へ存在を移行させるのは大きな危険を伴うことだからな。上位の神様の命を受けた位の低い神が降臨することはあっても、上級神クラスが降りてくるなんてことはありえないんだぞ」

「そうやね、神狼フェンリル──北欧神界(ほくおうしんかい)でも五本の指に入る有力な神様やね。日本神界だと日本武尊(やまとたけるのみこと)様たち、天界だと四大天使クラス、魔界でも四大公爵(こうしゃく)レベルと同じ力を持つ存在っていっても過言やないと思うで」


 リングサイドに飛び降り、なぜか得意げに胸を反らせるヤクモに苦笑するスズネ。そんな彼らに対し対象的に困惑した顔を見合わせる誓矢と沙樹(さき)、ユーリ。


「それって上級神──強い神の力を持ってるのはセイヤだけってことか」


 そのユーリの疑問にヤクモが小さな指を振りつつ答える。


「おそらくな、近く──少なくとも日本エリアには()()()()()()()()()()は感じないぞ」


 ユーリが考え込むように顎を指でつまむ。


「……なぁ、その眷属と神の力──いや、セイヤは特別だとして、この学校の自警団のヤツらに降臨している下級神の力と眷属を比べたとして、そのパワーバランスはどんな様子なんだ?」

「んー、眷属もピンキリやけど、群れをなして襲いかかられると厳しいんとちゃいますか」


 さらっと言い放つスズネに、ヤクモも続く。


「この学校にも下級神の力を宿した人間たちが結構いるみたいだけど、正直、楽観はしないほうがいいと思うぞ。眷属の数は少なくないし、人を襲うことで数を増やしていく存在だしな」


 沙樹が誓矢とユーリに問いかけた。


「……ねぇ、このことみんなに伝えるべきだと思う?」


 髪を搔き回しながらため息をつくユーリ。


「とりあえず、情報として伝えてみる必要はあるだろうな。もっとも、誓矢のフェンリルのことだけは伏せるべきだろうけど」


 その提案に沙樹は小さくうなずき、考え込んだあと誓矢も結局は了承した。


 ○


 その後、朝になってから教師や光塚(みつづか)など比較的仲の良い自警団(じけいだん)のメンバーを通して話を伝えてみたのだが、結果としては困惑の返事が返ってきただけであった。

 確かに怪物たちの正体は不明であり、現代の生物学などでは説明がつかない存在でもある。さらに、襲われた人間が怪物化してしまう事例も数多く確認されている。

 だが、かといって、突然、異世界だの神様の力だのと騒ぎ立てるのは妄想に過ぎるという回答だった。


「今はそんなことにこだわっている余裕はない。とにかく怪物たちとの戦いに専念すべきだ」


 霧郷(きりさと)からの返事を持ってきた光塚がそっと誓矢たちに耳打ちする。


「俺はお前たちが嘘や妄想を言っているなんてこれっぽちも思っていないけど、今はあまり騒ぎ立てない方がイイと思うぞ」


 光塚が言うには、今、生徒たちは急速に霧郷を頂点とした組織に統合されつつある。その中で、異分子として認定されてしまうと排除の対象になりかねない──そう、心配している様子だった。

 誓矢は素直に礼を述べる。


「ありがとう……うん、正直、自分でも突飛な話だとは思ってた。確かに妄想と言われても反論できないし、光塚君にも手間をかけさせちゃって申し訳ないかな」

「俺のことは気にするな」


 ホッとしたような笑みを浮かべる光塚と二言三言(ふたことみこと)言葉を交わしてから、誓矢たちは自分たちの持ち場へと戻ることにした。

 ユーリが頭の後ろで腕を組んでやってられないといった表情でぼやく。


「やっぱ、こうなるか」

「ま、しかたないよ。とりあえずは僕たちのできることからやっていこう」

「……セイヤは自警団に入らなくてイイのか? その力があれば活躍できるだろ」


 ユーリと沙樹の前で足を止める誓矢。


「うん……でも、今は無理、かな」


 我ながら情けないと思う、と続ける誓矢の背中をユーリと沙樹が軽く叩く。


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