第66話 「だって、僕たちの本当の戦いはこれからだから!」
戦いは終わった──
全世界を恐慌に陥らせた怪物たちは、その姿を完全に消した。
帰還してきた誓矢たちの報告によって、そのことを知った各国の首脳や国民だったが、当初は半信半疑であった。
だが、時間が経つにつれ、怪物の目撃報告も全く見られなくなり、次第に安堵の空気が広がっていく。
異能者たちは全世界で英雄と讃えられる一方、その存在を疎ましく見る層も一定数いた。
だが、公平に見て異能者たちの功績は賞賛されてしかるべきだと判断されている。
その結果、誓矢たちチームフェンリルを含めた異能者の面々は、また世界を駆け巡ることとなり、各地で盛大に歓迎されたのだった──
そして、北海道奪還計画から三ヶ月が経った今、世界は復興へ向けて急速に舵を切り始めている。
「そっか……ユーリはんにシーラはん、やっぱりあかんかったか……」
赤色の中学校指定のジャージ上下を着た少女が、大きな箒を抱え込むようにしてため息をついた。
青楓学院へ向かう商店街の一角にある神社、少し早めに家を出た誓矢は、そこで二人の少年少女と立ち話をしている。
同じジャージを着崩した格好の少年が、手にした箒を強めに集めた枯れ葉に叩きつけた。
「ま、あの悪たれ鬼っ子、いなくなって清々する……って言いたいところだが、やっぱり寂しいかもしれないな、ちょっぴりだけど」
その様子に苦笑する誓矢。
今朝、家を出るときに、突然、誓矢の元へユーリとシーラ兄妹が別れを告げに訪れたのだ。
「──え、そんな急に、相談もなくいなくなっちゃうなんて」
激しく動揺する誓矢を、複雑な表情で見守るユーリ。
「悪い、でも、この方がイイと思ったんだ。前もって相談しても、セイヤは反対するに決まってると思ったし」
そう言って笑うユーリに、誓矢はなにも言い返せなかった。
ユーリが言うには、自分もシーラも異能者たちと行動する際に、少し目立ちすぎたということだった。
「異能者たちは能力を失ったけど、オレたち吸血鬼はそのまんま残っちまったからな。神も天使も悪魔も関係ない存在だったということなんだけど、そのことが、またいろんな面倒なヤツらに目をつけられた結果になっちゃってなー」
「本当はシーラもセイヤさんと一緒に学園生活を送りたかったんだけど、そのことが逆に迷惑になるってキャリーが言ってたの」
「そんな、迷惑だなんて!」
近づいて手を握ってくるシーラの言葉に、誓矢は強く首を振った。
だが、ユーリたちは決意したとばかりに、誓矢から少し距離を取る。
「……まあ、オレたちは当然だが、誓矢たちだって、これから長い人生が待ち構えてる。そんな中で、またどっかで会えることもあるさ」
「本当はシーラも、セイヤさんとおつきあいしたかったんだけど、ユーリ兄やキャリーに言われたから、渋々お別れするんだからね」
二人はそう言って話を打ち切ると、なんとか引き留めようとする誓矢を制して、明るい笑顔を残して家を去って行った──
「──それで、そのまま行かせたのかよ」
すこし不満げな口調のジャージ少年に、誓矢は恥じ入るように俯いてしまう。
「それが、キャリー少佐の部下の人たちに止められちゃって……」
「セイヤはんは、なにも恥じる必要はおまへん。それは、確かに悔しいかもしれまへんけど、ユーリはんの決めたことやし、それを尊重しはったっちゅうことです」
少女が箒で少年の腰のあたりを打ち据えた。
「ひぎっ!」
悲鳴を上げてうずくまる少年。
その様子を見て誓矢はホッとした気分になった。
「ユーリたちはいなくなったけど、二人が残ってくれたことは、正直、本気で嬉しい」
その言葉に少女と少年が満面の笑みになる。
「まあ、残ったいうよりは、追放されたっちゅうことなんやけどね」
「そうだなぁ……あのまま天界に残ってたら針のむしろ状態だったろうからなぁ」
天照大御神の御慈悲だったんだろう、と頷く二人──スズネとヤクモ、いや、今は人間となった鈴音と八雲だった。
誓矢が問いかける。
「もう、新しい家族には慣れたの?」
神界を追放され、普通の人間として人間界へと放り出された鈴音と八雲は、この神社の近くの老夫婦の家に引き取られて生活している。
「幼くして両親を喪った孫二人──って設定、天照大御神様が好きそうな話やね」
「本当に、どうせならお金持ちの家庭の子供って設定にしてくれた方が、好き放題できたのに」
今は存在しない神様に、そう悪態をつく二人だったが、その声には情がこもっているように誓矢には感じた。
話を聞くとなんだかんだで上手くやっているようだった。
「それじゃ、そろそろ学校に行くね。また、寄るから──!」
誓矢はそう言うとカバンを肩にかけて、二人に手を振った。
神社から出たところで、偶然、光塚や厳原たちと出会い合流する。
青い空に笑い声が弾け、無邪気にじゃれ合いながら学校へと向かう誓矢たち。
こうして一つの物語が幕を閉じようとしている──
○
力を失った異能者たちは、普通の少年少女として、それぞれのできることで復興に携わっていた。
もちろん、最終的にリーダー的存在であった誓矢や光塚たち幹部は、政府から監視が必要な存在とされていた。
当初はその監視の目に息苦しさを感じていたものの、最近では少し慣れてきてもいる。
ちなみに、フェンリル防衛隊であるが、その組織自体は解散せずに、復興の世となった今でも残っていた。
主にインターネット上で交流する場として機能しており、復興にあたる世界中の若者たちと、それを支援する人々を繋げることを目的として幅広く活動していた。
「なんだか、世界も人生もすっかり変わっちゃったっていうカンジかな」
青楓学院高校の屋上で、沙樹が隣に立つ誓矢に笑いかける。
「思い返せば、ここから全てが始まったんだね」
「うん、でも──」
誓矢は顔を上げて澄みきった青空を見上げた。
「──今は振り返らない、だって、僕たちの本当の戦いはこれからだから!」
『ナゼか日本でラグナロク~神狼の力を得た僕は神々へ反逆の刃を突き立てる』完




