第64話 「そこまでです──!」
『我の名はベリアス、調子に乗るな人間ど──ぐぶぁっ!?』
『おのれ、こざかしい雑魚ども、このトリトーンの前に立つことな──うがぁっ!?』
『好んで騒乱を起こす愚者どもよ、このハニエルによる正義の剣の前にひれ伏すがよ──きゃあっ!?』
誓矢たちの脳裏に神々の断末魔が次々と響き渡る。
ここに来て、もはや、異能者──フェンリル防衛隊と神々が率いる軍隊の実力差は明らかになっていた。
下級の神兵はもちろん、それらを率いる中級クラスの神々も討ち取られていく始末である。
「まだまだ、これで終わってたまるかぁっ!!」
誓矢が切り拓いた道へ突入していく光塚たち。そして、その先に際立って強い光のオーラをまとう天使が現れた。
『我が名は大天使ミカエル──貴様等の増長を叩きつぶす!』
そう宣告すると手にした大剣を先頭でバットを振り回す光塚へと振るう。
「うおおおっっっっ!?」
とっさにバットで剣撃を防ぐ光塚だったが、さすがに踏ん張りきれずに吹き飛ばされる。
だが、彼らは怯まなかった。
絹柳の投げナイフの支援をうけた厳原が刀を振りかぶってミカエルへと襲いかかり、吹き飛ばされた光塚もまた、駆けつけた森宮の援護を受けて戦線に復帰する。
弓矢でミカエルを狙う風澄がみんなを励ました。
「ミカエルなんて、私も聞いたことがある大物よ! 一気に仕留めて戦況を決めちゃいましょう!」
その言葉に応じて、さらに他の異能者たちもミカエルへと立ち向かっていく。
それを見た誓矢は思考を切り替えて、ミカエルとの戦闘を他の皆に任せ、反対側の神兵たちへと向き直る。
「スズネ、ヤクモ──ここが決め時だ!」
「はいな!」
「おう、まかせとけ!」
中学生サイズの和装のスズネとヤクモが誓矢の両横に現れる、そして複雑な舞いを踏む二人。
「ここは神界だからな、オレたちの本当の力をみせてやる!」
「せや、ありったけの神気を送り届けるよって、ぶちかましたりや!」
ヤクモとスズネの両手から誓矢に大量の光が注ぎ込まれる。
そして、両手の銃をあわせてライフル銃へと変化させる誓矢。
「いっけぇぇぇーーーーっ!」
巨大な光の矢が巨大な太い柱サイズまで膨張し、神兵たちに突き刺さる。
『うぎゃあああっっっ!』
『ぶがああっっっ!?」
『なんだ、この力はぁっっっっ!』
複数の神将もまとめて、一気に蒸発させるフェンリルの力。
さらに、その光の槍が水平に動かされ、次々と神兵や神将を巻き込み消滅させていく。
そして、ミカエル戦も同じタイミングで勝負がついていた。
『ミカエル討ち取ったり!!』
光塚たちの攻撃が同時に炸裂し、それを受けた大天使は、その姿を光の粒子へと変えていく。
──勝負はついた。
異能者たちは、さらに意気が上がり、神々は次第に退きはじめる。
戦闘の流れが一気に変わろうとしたとき、全員の脳裏に凜とした声が響き渡った。
『そこまでです──!』
その声とともに、一人の神様が誓矢たちの前へと進み出てきていた。
戦う意志がないと示すかのように、両手を拡げ、誓矢を見つめながらゆっくりと歩み出てくる。
「天照大御神様──?」
誓矢の声に大半の異能者たちが反応する。
『お久しぶりですね、氷狩 誓矢殿。このような形での再会は望むところではありませんでしたが』
「ええ、僕もそう思います──」
両脇で跪くスズネとヤクモにチラリと視線を走らせてから、誓矢はあらためて天照大御神に向き直る。
「それで、天照大御神様は僕たちになにを望むのですか?」
「はい、対等な立場での停戦を申し入れます──」
「対等な立場──ですか」
誓矢はわざと周りを見渡してみせた。
「今、この状況、僕たちの方が圧倒的有利に見えるのですが。それでも対等な立場で、と仰るのですか?」
すると天照大御神は悲しげな笑みをみせた。
「たしかにこのまま続ければ、最終的にはあなた方の勝利に終わる可能性が高いでしょう。ですが、我々三界の神々が本気で乗り出してきたら、あなたがたも無傷ではすみません。それとも、さらなる犠牲を払ってでも神を滅して、完全勝利にこだわりますか?」
「それは……」
誓矢は思わず口をつぐんでしまった。
後ろでは光塚たちが「行け、行けっ」と武器を振り上げている。
だが、誓矢は「さらなる犠牲」という言葉に怯んでいた。例え勝てたとしても、光塚たち、異能者たち仲間を喪っては元も子もない。
確かに上級神クラスであるミカエルは倒せた。だが、それも複数の異能者たちによる攻撃の結果である。何人いるかわからない上級神たちが同時に出てきたらどうなるのか不安はある。
「──とりあえず、条件を聞かせてください。決めるのはそれからです」
その誓矢の言葉に、天照大御神がホッとしたような表情になる。
「この戦いを終わらせる条件──我々、三界の神々は、人間界を完全に切り離して独立させることを提案します。そうすることによって、我ら神々は人間界に対し、今後一切の干渉を行うことができなくなります。人間界はその名の通り、完全に人間たちの手に委ねられることになるのです」
「人間界を切り離すだって──!?」
予想していなかった発言内容に、誓矢は一瞬とまどい、思わずポカンと口を開けてしまったのだった。




