第61話 「じゃ、とりあえず行ってくるわ」
「目標捕捉! セイヤ、頼む!!」
「わかった! いっけーっ!!」
──シュイン、シュイン、シュインッ!!
装甲車の上部ハッチから身を乗り出した誓矢が、両手の銃から何度目かわからない光の矢の斉射を放つ。
無数の光が豪雨のように上空から降り注ぎ、怪物たちを一掃していく。
周りから怪物たちの気配が消えて一息つく誓矢。
「この装甲車とも、なんだかんだで長いつきあいになったよな」
北海道最北端の稚内まで怒濤の勢いで進軍した誓矢たちの異能者部隊は、今、今度は逆にオホーツク海側を南下しているところだった。
案の定、稚内方面にシベリアから繋げられたゲートは使い捨てのモノだったようで、目の前に辿り着いた誓矢たちが何かするまでもなく、目の前で音も無く消滅してしまった。
装甲車の中からユーリの声が聞こえてくる。
「しばらくは索敵を変わってくれるから休んでおけってさ」
それは、装甲車の車長と操縦士二人からの提案だった。装甲車同様、彼らもずっと誓矢に付き従ってくれていた。誓矢にとっても気の許せる仲間たちの一角を構成する得がたい存在になっていた。
装甲車の中へと入りこみ、車長たちに一声かけてからユーリの隣の座席へと着いて一休みする誓矢。
今では、移動する車の中で熟睡できるようになっている。
「平和な高校生活が懐かしくなったか?」
そう問いかけるユーリに、誓矢はタハハと笑ってみせただけで、何も答えなかった。
○
そして、北海道奪還作戦フェイズ2は佳境を迎える。
旭川・富良野方面から進撃する厳原・絹柳主力部隊に呼応して、北見方面で合流した誓矢・ユーリ・森宮部隊と光塚・風澄部隊も進撃を開始した。
大規模ゲートの位置は宇宙監視衛星からの情報により場所は特定されている。
そこへ向けて、大雪山系の険しい地形の中を誓矢たちは必死に進んでいった。
「わかってはいたけど、やっぱり大変だな」
光塚がぼやく。
宇宙や空中からの監視データと豊富な地図データ、GPSを利用したリアルタイム位置情報の活用に加えて、経験豊富な山岳案内人もついてくれている。それにもかかわらず、ゲートへの道は困難極まりない難路だった。
実際のところ、異能者たちは身体能力が強化されていることもあり、登山自体はさほど苦にならない。だが、複雑な地形を利用して襲いかかってくる怪物たちとの戦闘を続けながらの行軍は思った以上に精神を削られる。
それに、異能者たちだけではなく、自衛隊員や山岳案内人など、同行してくれている一般の人々のペースにあわせる必要もあるので、急がず、一歩一歩慎重に進んでいく。
そして、大雪山系中央部に広がる巨大な盆地で、怪物たちとの最終決戦が繰り広げられようとしていた。
──とはいっても。
「光銃斉射するよっ!!」
誓矢が放つ光の雨が天から怪物たちに降り注ぐ。
それと同時に包囲した格好の異能者たちが、光塚たちの指揮により一斉に突撃する。
「「「うおおおーーーーっっ」」」
これが三回繰り返されたタイミングで、あたりから怪物は完全に一掃されてしまっていた。
「なんだか、こうなってくると、ワンパターンというかお約束というか。なんか、怪物たちも可哀想になってきたかも」
皮肉めいた笑みを浮かべて誓矢の横で肩をすくめて見せるユーリ。
ちなみに、その少し後ろでは、全然出番がなくて拗ねているシーラを森宮が慰めていた。
それはともかく、怪物を駆逐した後に残ったのは、天へと続く巨大な光の柱──ゲートだった。
不可思議な光を放つゲートの周りに集まる誓矢たち。
「さて、フェイズ3へ移行するよ、みんな急いで準備を始めて!」
誓矢の掛け声に、異能者たちは二部隊に分かれた。
一つはゲートを守るための陣を構築する部隊、そして。もう一部隊は──
「じゃ、とりあえず行ってくるわ」
光塚がお気楽な調子で手を挙げてみせると、躊躇いもなくゲートの中へと足を踏み入れ、進んでいく。
最初、一番はじめにゲートを使うのは自分だと決めていた誓矢を、押しとどめたのが光塚だった。
「氷狩が言うからには大丈夫なんだろうけど、オマエに万一のことがあったら困るからな──と、いうわけで、先陣は俺が切らせてもらうぜ」
反論しようとした誓矢を、笑って制する光塚。それに、絹柳、厳原など他の面々にも説得されて誓矢はそれを受け入れたのだった。
氷狩の柱の中へと姿を消していく光塚。
誓矢は思わず一歩、二歩先へ進んで声を上げてしまう。
「光塚くん──っ!」
そして、あたりを静寂が包んだ。
音も無く光を放ち続けるゲートにはなんの変化もない。
とりあえず、光塚が無事にゲートの向こうにたどりつけたら、狐神のスズネとヤクモが伝えてくれる手はずになっている。
ヤキモキしつつ連絡を待つ誓矢。
その後ろで、ユーリたちが黙々とゲート突入準備を進めていく。
「連絡が遅い──」
誓矢は歯がみする思いで呟いた。
光塚は平和な時代にはそれほどつきあいはなかったが、怪物出現後は共に行動することが多くなり、今ではユーリと匹敵するくらい気心の知れた友人になっている。万一、そんな存在を失うことになれば、誓矢の心のダメージは計り知れないだろう。
そして、神々もそのことには気づいているかもしれない。
「やっぱり、僕もいく──」
我慢しきれずに誓矢がゲートへと向かおうとして、ユーリたちが慌てて引き留める。
その瞬間──




