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第52話 「妹──?」

「だから、無茶というか無理なんですってば!」


 ヨーロッパ遠征の間、ずっと装甲車(そうこうしゃ)車長(しゃちょう)を務めている壮年の男性自衛隊員が必死に出動を促す誓矢(せいや)を説得にかかる。

 さらに、女性操縦士と若い男性副操縦士も加わってきた。


「ここイルクーツクから、プロメテウスまで直線距離で約三千キロメートルあるんです。しかも、地理に不案内なルートですよ。いくら宇宙衛星からの情報提供があったとしても二日以上はかかりますよ!」

「そうです、しかもその時間は途中で都合良く燃料を補給できた場合の希望的観測です。こんな広大なロシアの大地で、そう上手く行く可能性なんてほとんどゼロですよ!」


 喧々囂々(けんけんごうごう)の議論の末、息を切らして黙り込んでしまう誓矢たちと自衛隊員たち。

 確かに、自衛隊員の面々が主張するとおり、ここからプロメテウスまでは距離の壁がある。

 ここまでと同じように車輌で向かうのは無理なのかもしれない。


「でも、なんとかしてプロメテウスに向かわないと異能者(いのうしゃ)の仲間たちが──」


 全世界から囮として集められた異能者たち。その中には、誓矢が知っている日本の異能者もいるかもしれない。

 そう考えると、いてもたってもいられたくなるのだ。

 再び自衛隊員へと誓矢が顔を向けた──時、不意に後ろから肩を叩かれた。


「?──っt?」


 振り返った誓矢の視界の先にあったのは、自衛隊の制服を纏った見慣れた金髪の美少年ユーリだった。 


「──フォルスト!?」


 先に光塚(みつづか)が驚きの声を上げる。

 すかさず厳原(いずはら)がユーリの手を振り払い、絹柳(きぬやな)と共に誓矢との間に割って入った。


「こんなところまでやってきてなんのつもりだ」

「もし、氷狩(ひかり)君を拘束するというのなら、私たちにも考えがあるわよ」


 鋭い視線でユーリを睨みつける仲間たちに、誓矢は慌てて声をかけようとする。

 だが、それよりも先にユーリが勢いよく頭を下げた。


「──すまない。今までのこと、今さら言い訳はしない。でも、本当にゴメン」


 予想外のユーリの行動に、困惑の視線を交わし合う光塚たち。

 誓矢が厳原と絹柳の間から前に進み出て、ユーリに顔を上げさせる。


「事情があったのは薄々感づいていたよ、でも、もうちょっと早く相談して欲しかったな」

「本当に悪かった──そして、もう一つ頼み事がある」


 ユーリが誓矢の両肩をがっしりと掴んだ。


「何も聞かずにオレと一緒にプロメテウスに向かってくれ──妹を助けるために!!」

「妹──?」


 誓矢は聞き慣れない単語に首を捻る。

 ユーリとは幼い頃からのつきあいだが、今まで妹がいたなんて話聞いたことがない。

 そのことについて問いかけようとした誓矢だったが、今、事態が切迫していることに思い至った。


「わかった、僕たちもプロメテウスに向かおうとしてたところ。ユーリはどうやってこの先移動するつもりなの?」

「米軍から借りた航空輸送機がある、とりあえず空港に向かおう」


 ○


 イルクーツクの空港についた誓矢たちを出迎えたのは、垂直離着陸型の航空輸送機だった。

 ユーリが誓矢たちに搭乗を急がせる。


「この輸送機なら半日もかからずプロメテウスまでいくことができる。もうすぐ補給と整備も終わるからすぐに向かうぞ!」

「そうよ、もう準備はすんでいるから、あとはお姉さんたちに任せておきなさい」

「──キャリー少佐!?」


 誓矢は目を丸くして驚いた。

 格納庫へと入った誓矢たちを待ち構えていたのは、旧知の米軍少佐だったのだ。


「なんというか、あなたへの借りを、そこの金髪の坊やが代わりに取り立てていったようなものだから、ちゃんと、あとであなたが坊やから回収するのよ」


 その少佐の言葉に、バツが悪そうな表情を浮かべるユーリ。

 誓矢はわかりました! と答えてユーリの背中を軽く叩いた。

 正直、誓矢はテンションが上昇していた。それだけ、ユーリの合流──帰還が嬉しかったのだ。

 機体に振動が走り、離陸準備に入ったとキャリー少佐から告げられる。


「それじゃ、目的地はベース・プロメテウス──正直、無茶な作戦だとは思うけど、あなた方なら大丈夫な気がしているから、期待を裏切らないでね」


 そう言って、操縦席に出発を指示する少佐。

 轟音がいっそう大きくなり、機体がフワリと宙に浮かぶ。

 窓がない格納庫の中で不安げな表情の光塚たち。

 一方で、誓矢はユーリに対し、話を急かすような視線を向けていた。


「……わかったよ、全部話すから」


 ユーリはポツリポツリと言葉を選ぶように、ゆっくりと話し出す。


「オレには幼い頃に引き離された双子の妹がいるんだ──名前はシーラ」


 ユーリとシーラの三歳の誕生日、その日、両親の手によってシーラは米軍の関係者に引き渡されたのだ。


「名目は難治の病気の治療のため、だけど、本当の目的は吸血鬼に関する研究材料にするためだったんだ」


 世界各国に散らばってひっそりと生活を送る吸血鬼たちを守るために、シーラは一人犠牲になった。

 ユーリの拳が硬く硬く握られた。


「そして、吸血鬼の能力の一つである魅了──シーラにはその強い力が確認されたんだ」

「魅了の力……」


 誓矢はユーリの言葉を繰り返してから、不意に背中に悪寒が走るのを感じた。

 その魅了の力の対象は異能者なのか、怪物なのか──


「それがどっちでも気持ちの良い話じゃないよな」


 光塚がボソリと呟いた。


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