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第46話 「天界のヤツらも降りてきていたか──」

「それで、あなたは僕にどうしろというんですか?」


 装甲車(そうこうしゃ)の上部ハッチから上半身を乗り出したままの格好で、誓矢(せいや)はとりあえず銃を収めた。

 だが、アスタロトと名乗る青年に対する声には、最大限の警戒心が窺える。

 誓矢の身体の奥深くにある強大な何か──おそらくフェンリル神の核のようなものが警告を発しているのだと、誓矢は直感的に理解していた。

 アスタロトが再び軽く一礼する。


「フェンリル神の依り代たる貴方──そうですね、とりあえずお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

氷狩(ひかり) 誓矢(せいや)です」

「──それでは、氷狩殿」


 短く名乗った誓矢に対し、アスタロトはにこやかな笑みを向けてくる。


「先ほどは神界(しんかい)に赴いて、天照大御神(あまてらすおおみかみ)殿にお会いしてきたのでしょう?」


 黙って頷く誓矢。するとアスタロトはポンと軽く両手を打ちつける。


「それならば話は早い! 氷狩様への申し出は我らも同じです。どうか、魔界(まかい)へと堕ち、享楽と快楽の中で、この神々のゲームを共に楽しみましょうぞ」

「今度は魔界からのスカウトってことか、氷狩君はよほど貴重な存在と見える」


 光塚の肩を借りて立ち上がる笠月(かさつき)助手が、口元の血を手の甲で拭いながら誓矢へと視線を向ける。


「この現実を目の当たりにしてしまっては、君が天照大御神に呼ばれたということも信じるほか無いな」

「オマエは黙っていろ、虫けらめ」


 アスタロトが憎々しげな視線で笠月を射すくめる。

 その威厳に、再び行動を制限される笠月──いや、他の光海(こうみ)教授を除く異能者(いのうしゃ)全員が冷や汗を浮かべ、完全に威圧されてしまっていた。

 誓矢はアスタロトに対して首を横に振ってみせる。


「僕には、この人界(じんかい)に大切なものがたくさんある。それらを守らねばならないし、捨てるなんてとんでもないことだ」


 天照大御神様からの申し出も断るつもりだと、ハッキリと言い切った。


「ほう……」


 アスタロトの声色が一段低くなる。


「氷狩殿の申し出承知いたしました。ならば、この場でアナタという存在を滅してしまうまで──神狼フェンリルの依り代よ! 人としての存在ともども完全に消滅させてやる!」


 変化は一瞬だった。

 アスタロトの背中から漆黒の翼が生えたかと思うと、その羽根の節々から黒い光が縦横無尽にあたりを跳ね回る。


「くうっ!?」


 誓矢は咄嗟に両手に銃を出現させるのと同時に、飛び回る黒い光に意識を集中させ、双銃から放った青い光で片っ端から打ち落としていく。

 光塚(みつづか)が声を上げた。


「俺たちのことは気にするな! 自分たちの身は自分で──っ!?」


 光の盾を展開して黒い光を防ごうとした光塚だったが、その盾を黒い光はあっさりと貫通し、光塚の肩を切り裂いた。


「うぐぁっ!」

「光塚君!」

「光塚っ!」


 肩を押さえ地面に膝をつく光塚を厳原(いずはら)が庇おうとする。

 だが──


「虫けらどもが、なにを喚いているのだ。オマエらの力など我の魔力の前には何の役にも立たない──そうだな、まずはお前たちから消えてもらうとしようか。もしかすると、オマエら虫けらがフェンリルの足を縛る鎖なのかもしれない」


 アスタロトが右手を挙げると、あちこち跳ね回っていた黒い光すべてが、装甲車手前の光海教授や光塚たち一団を狙って集中的に狙ってくる。


「やらせないっ!」


 誓矢は精神すべてを黒い光に集中させ、全てを叩き落とすべく双銃から青い光線を放ち続けた。


 ──シュバッ、バチバチィッ、シュイン、シュイン、シュバババッ!


「くっ、このままじゃ……」


 慣れない戦い方に誓矢の集中力がものすごい勢いで削がれていく。

 さらには光線を放つことで体力も消耗していき、このままではジリ貧に追い込まれることは見てて明らかだった。

 そして、生まれる一瞬の隙。


「しまったっ! みんな避けてっ!」


 誓矢の悲痛な叫びが響く、撃ち漏らしたいくつかの黒い光が仲間たちへと突き刺さる──刹那。


 ──シュウィンッ!!


 澄んだ響きとともに大きな光の盾が仲間たちの前に展開し、黒い光を全て弾き返してしまう。


「──っ、これ……って!?」


 一瞬覚悟を決めて目を閉じていた絹柳(きぬやな)が驚きの声を上げる。

 他の光塚たちも不思議そうに目の前の光の盾を見つめ、光海教授に至ってはペタペタと内部から遠慮も怖れも無しに触って調べはじめている。

 アスタロトがチッと小さく舌打ちをする。


天界(てんかい)のヤツらも降りてきていたか──」


 その時、戸惑う誓矢の頭の中に狐神(きつねがみ)たちの声が響いた。


「セイヤはん、今どす! うちらとの縁を最大限開放するさかいに」

「よーするに、オレらの力を貸してやるから、ありがたく使えよってことだ!」


 その声とともに、誓矢の両脇にスズネとヤクモが舞い降りてくる。

 不可思議な舞いをまう狐神──すると、誓矢の身体とスズネ、ヤクモの身体との間に光の橋が結ばれる。

 誓矢の中で光が弾けた。


「スズネちゃんに、ヤクモ──ありがとう! いっけぇぇぇっっ!!」


 両手の銃を音高く撃ち合わせると、いつもより大きなライフル型の銃が生み出される。

 そして、その銃口から膨大な質量を感じられる青銀色の光線が撃ち放たれた──!


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