第38話 「だからといって止めるワケにはいかない」
誓矢たち異能者たちの奮闘も虚しく、日本国内における怪物の脅威は日々増大していた。
理由のひとつは、孤立する国民が増えたことに起因する。
日本国内の市民たちの大半は各地に点在する避難所に収容されたが、残りの人々はプライバシーを保てないなどの理由で共同生活を拒否し、個別の行動を取ることを選択した。
その結果、孤立したところを怪物に襲われてしまい、自らが怪物と化してしまうという流れで、結果として被害を増加させている。
また、対怪物作戦の遅れも指摘されている。
霧郷・嶺山多怪物化事件以降の混乱の間、ガーディアンズが動くことができず、怪物の襲撃から人々を守ることができなくなっていた。その後、ガーディアンたちが異能者として自衛隊に組み込まれ再編成されるまで、その被害は増える一方だった。
そして、今現在、一番の脅威は『指揮官級』の存在である。
異能者たちを前に、教官役を務める自衛隊士官が、バンと黒板を叩いて注意を引きつける。
「『指揮官級』の怪物とは、お前たち異能者が怪物化した存在なのだ!」
『指揮官級』とは、教官の説明通り異能者が怪物化した存在で、混乱の間、独自に行動していた異能者たちが各個撃破されることで生み出される結果となった。
教官が皮肉っぽい口調で異能者たちを叱り飛ばす。
「自らの能力に溺れ、協調や連携、それに命令。これらを無視して自分自身の勝手な判断のみで行動した結果がこれだ。自分を滅ぼすだけではなく、それまでの仲間、さらには国民全体を危機に追いやる存在になるということなのだ」
だから、命令は絶対、なによりも作戦行動を優先せよ、と士官が力説する。
一般的な怪物と比較して、『指揮官級』はそれを凌ぐ能力を有している。戦力比としては『指揮官級』一体に対し、平均的な異能者が複数人必要な状況だ。
そして、一番厄介な点、『指揮官級』は他の怪物をその名の通り指揮して、作戦行動のような動きを見せることがあるということだ。
「──その結果、我が自衛隊やお前たち異能者どもも不意を突かれたりして後れを取ることがあるのだ」
実際に自衛隊や異能者で組織された隊が壊滅した事例がいくつもある。
結果、新たな、かつ強力な怪物集団が生み出され、さらに被害が広がるという悪循環に陥っているのだ。
悔しそうに解説する士官。
だが、その講義を受ける立場にある異能者たちの表情にはなんの感情も浮かんでいなかった。
光塚と厳原がチラリと窓際の席のひとつに視線を向ける。
今日も、その席は空だった──
○
「氷狩、攻撃を開始します──!」
装甲車の上部ハッチから身を乗り出し、両手に持った双銃から無数の光条を放つ誓矢。
青銀色の輝きを持つ光の全てが、装甲車へと押し寄せてくる怪物たちに突き刺さり、一瞬のうちに消滅させる。
「まだ来るぞ、休まず撃て!」
その指揮官の命令に、誓矢は何度も光の矢を撃ち放つ。
目の下にはクマができていて、あきらかにやつれた顔をしているが、指揮官たちはまったく意に介さない。
「指揮官級視認、こちらへ向かってきています!」
随行車輌からの報告に、装甲車両の指揮官は当然とばかりに迎撃を誓矢へ指示する。
今にも倒れそうな雰囲気の誓矢だったが、最後の力を振り絞り、双銃を合体させてライフルスタイルに変換し、狙いを定めて太い光線を指揮官級めがけて撃ち放った──
「氷狩予備自衛官補、少し休んでもいいんだぞ」
任務を完了し、青楓学院駐屯基地へと向かう数時間の帰路。
さすがに見かねたのか、同乗している自衛隊員の一人が誓矢へと労りの声をかける。
もっとも、今、ここで誓矢を失えば、対怪物戦線が大きく後退してしまう危険性を感じてのことでもあるが。
誓矢は今や公に認められた異能者のエースである。誓矢が出撃すれば、そのエリアの怪物は確実に一掃されてしまう。
ただ、誓矢が首都圏や地方にかかわらず一箇所に出撃して、怪物たちを撃滅したとしても、青楓学園へ戻って他のエリアへと出撃している間に、再発生してしまうという、いわばイタチごっこの様相を呈してしまっている。
「だけど、だからといって止めるワケにはいかない──」
誓矢は口の中で小さく呟いた。
正直、心身ともに限界に近づいてきているという感覚は自分でも気づいている。
肉体的な疲れもそうだが、同じ異能者の中でもつきあいの長い光塚たち以外の同僚たちからは、隔意を持って──時には悪意を向けられることも増えてきた。
「まぁ、しかたないよね……」
一般怪物も指揮官級も関係無しに、その強大な力で一瞬のうちに撃滅していく誓矢。それらはもともと人間だった存在であることを知りながら、躊躇なく殺しているように周りから見られているのだ。
もし、自分が怪物化したら、誓矢のその力で殺されてしまう──異能者たちは間近で誓矢の能力をみているだけに、その恐怖を抱いてしまっているのだ。
そして、もう一つはユーリの存在だ。
自分たちを監視し、あるときは懲罰を加えてくる、かつてのクラスメイト、ユーリ・ファン・デル・フォルスト。
その幼馴染みであったという事実も周りに伝わり、冷たい視線が向けられるようになっている。
「それにしてもユーリ、なんで、何も言ってくれないんだ……」
そのつぶやきもまた装甲車の振動に掻き消されていく。




