第34話 「僕がこの世界を統べる神になるんだ!」
「ぐあああああっっっ!?」
くぐもった悲鳴が嶺山多の口から放たれる。
その胸から突き出た剣の光が、一際強く輝いた。
嶺山多の背中から剣を突き刺した霧郷が不敵な笑みを浮かべる。
「なんだ、強い力を持っていても不意を突けばイケるんじゃないか。ロシエル様とかいってもつけいる隙はあるんだね」
苦悶の叫びを上げる嶺山多の姿に、霧郷は勝利を確信したように突き刺した剣を捻って傷口を拡げにかかる。
「うぐぁっ、ヤメロォォッ!」
嶺山多の胸の傷が大きく開き、その傷口から青黒い瘴気が勢いよく吹きだした。
そして、その瘴気は霧郷の身体へと向かう。
「これは……力が僕の身体に入りこんでくる!」
嶺山多の身体から漏れた瘴気は、霧郷へと流れていき、ジワジワとその身に吸収されていく。
「こんのぉ……き、りさと……うわぁっ!」
剣を逆手に持ち替え、後ろにいる霧郷へと突き刺そうとする嶺山多だったが、不自然な体勢からでは霧郷の服を切り裂くのが精一杯でダメージを与えることはできなかった。
今度は霧郷が高らかに笑い出す。
「力がっ! 力が溢れてくるっ! これが神の力っ!!」
誓矢の脳裏にスズネとヤクモの声が響いてきた。
『セイヤはん、要注意どす。眷属と同じく、神の力も殺した相手が奪い取ることになります』
『一人の人間に複数の神様の力を宿すこともできっけど──』
一際甲高い断末魔がヤクモの声を掻き消し、誓矢は注意を霧郷たちへと向ける。
その視線の先では、胸を突き刺された嶺山多の身体が手足から光の粒となって消え始め、霧郷へと最後の懇願をしているところだった。
「きり──さと、頼む助けてくれ、同期だろ──助けてくれたら、一生オマエについて……」
だが、それに対する霧郷の答えは冷淡だった。
「確かに同期の仲間だったけど、嶺山多だってわかってるよね。オレたちの世界は競争だ。ライバルは蹴落とせるときに蹴落としておかないと生き残れない──ってね」
「ぎゃあああああ……っ」
一際高い悲鳴があたりに響き渡り、嶺山多の身体が光の粒となって消え去ってしまう。
霧郷が勝ち誇ったように笑う。
「そうだね──この神々の戦いも、オレたちの芸能界っていう戦いと同じようなモノなのかもしれないね」
青黒い瘴気を身に纏った霧郷が手にした光の剣を高々と掲げる。
「力が! 力が溢れてくるっ!」
高々と叫ぶ霧郷、だが──
誓矢の脳内に狐神たちの警告が響く。
『──やっぱりダメだ、人間一人に二柱の神様を宿すのはムチャってもんだぜ!』
『アカン、このままやと、抑えきれない力が暴走しはる!』
ヤクモとスズネの言葉通りだった。
力を抑え込めずに、頭を抱えてうずくまってしまう霧郷。
だが、霧郷はその状態から無理矢理顔を上げ、生徒たちへと攻撃的な視線を突き刺してきた。
「やはり、僕は選ばれし存在、そう──僕がこの世界を統べる神になるんだ!」
誓矢はその霧郷の言葉に狂気を感じ取り、背筋が震えたように感じた。
ゆっくりと身体を起こし、誓矢や他の生徒たちへと歩み寄ってくる霧郷。
「お前たちの力も寄こせ、新しい世界の礎となれるんだ、喜べ」
そう言うと、恐怖に足を竦ませていた二人の男子生徒を捕まえ、両手で首を締め上げる。
「うが……ぁ」
「や、やめてください、霧郷……さん」
締められた生徒の身体から、嶺山多と同じように瘴気が放たれて霧郷へと吸い込まれていく。
その様子を見た誓矢は反射的に動いていた。
「やめろっ! その手を離せ!!」
皆が動けない中、両手に銃を出現させた誓矢は、真っ向から暴走した霧郷へと向き直った。
霧郷の視線が誓矢へと向く。
「霧郷……強い力を持っている……ちょうどイイ、コイツらを喰らってからオマエの力も──!」
口から咆吼を上げ、両手に力を込める霧郷。
首を絞められた生徒たちの口から泡が漏れだし、四肢が痙攣する。
それをみた誓矢は反射的に決断せざるをえなかった。
──霧郷を撃つことを。
「うわああああっっっっ!」
誓矢は両手の銃を合体させて、ライフルタイプの銃へと変化させる。
そして、銃に力を集中させ、一本の光として撃ちだした。
──シュインッ!!
短く澄んだ音とともに、放たれた光条が霧郷の胸を貫いた。
──ドサ、ドサッ
首を絞められていた生徒たちが床へと落ち、厳原たち四人が慌てて駆け寄り、その場から引っ張りだす。
「う……あ……こ、これは……!?」
信じられないと言った表情で、自らの胸に穿たれた傷跡を両手で覆う霧郷。
「力が、命が……どこかへ流れて……って、フェン……リル……ひ……かり……」
膝をつく霧郷の身体が、光の粒子に包まれて消え始める。
「この……国を……世界を…………かはっ」
そして、最後の頭部が光の中に消え去っていく。
「はぁ、はぁ……」
一人、息を切らせる誓矢の肩に厳原の手が置かれた。
戦いが終わった校舎の上、誰も言葉を発せず、ただただ報道ヘリの爆音だけが響き渡っている。
そう──この校舎屋上での一連の戦いは、報道ヘリのクルーの手によって全国各地、ひいては世界各国にまで映像として広まったのだった。




