第17話 「で、そろそろ聞かせてもらってもいいかしら──」
それは数瞬の間のできごとだった。
「いけぇっ!!」
誓矢の双銃から放たれた青銀色の無数の光条。それらが複雑な軌跡を描いて、至近に迫っていた怪物たち全員の身体に突き刺さる。
「「「シギャアアッッッ」」」
苦悶の声とともに光の粒となって消滅していく怪物たち。
だが、それで終わりではない。
誓矢の銃から二射目が放たれる。
「……すげぇ」
光塚が構えを解いて呆然と呟く。
自分たちを包囲しようと駆け集まってくる怪物たち、その全てを光条が刺し貫いていく。
「氷狩君、まだ──!」
「うん、わかってる!」
絹柳の声に応じて放たれる第三射──駐車場の車やサービスエリアの建物の影、さらには施設外の林へと逃れようとする怪物たち追尾するかのように追いかけ消滅させた。
「たぶん、怪物全部……倒した、と思うけど……」
そう呟いた誓矢の身体がグラッと傾き、慌てて風澄と森宮が支える。
「スゴいな、氷狩」
光塚が短く口笛を吹いた。
その横で小さく息を吐き出す絹柳。
「その力については、あとで色々聞かせてもらいたいところだけど」
「そうだな──でも、今は安全確保が最優先か」
刀を握り直しながらサービスエリア内へと視線を向ける厳原に、疲れたようにへたり込んでしまった誓矢以外の生徒たちがうなずき返す。
絹柳が素早く指示を出す。
「氷狩君は森宮さんと風澄さんと休んでて。私と厳原君、光塚君とで撃ち漏らした怪物がいないか確認してくるから」
○
その後、あたりを探索してきた絹柳たちが戻るまで、誓矢は公園エリアの東屋で横になっていた。近くに怪物の気配をまったく感じなくなったことと、風澄と森宮が周囲を警戒してくれていることもあって、誓矢は心地よい風を受けながら眠りに落ちかけていた。
「この状況で眠れるなんて度胸あるな」
苦笑を含んだ光塚の声に、誓矢はゆっくりと起き上がった。
絹柳と厳原とともに、こちらへと向かってくる光塚が軽く手を挙げて見せた。
探索組の報告によると、車や建物の中にも怪物の姿はまったくなかったとのことだった。
「避難民の生き残りがいるかなとも思って、慎重に調べてみたんだけど──ダメだったわ」
そう切なげに俯く絹柳の言葉を受けて、誓矢はあらためて周囲の気配に集中してみる。
止まっている車の中を一台一台確認し、さらには建物の中隅々まで調べてみたが、怪物も人間も、まったく気配は感じなかった。
おそらく建物の中にいた怪物たちも、誓矢たちへ襲いかかるために全員が飛び出してきていたのだと思う。
誓矢は深く息を吐き出して、意識を眼前の仲間たちに戻す。
「──で、これからのことだけど」
絹柳が問題提起する。
「とりあえず、青楓学院まで帰還しないといけないんだけど──徒歩だとどれくらい時間……いえ、日数がかかるかわからないわね」
「あ、それに関しては俺に考えがあるぜ」
そう笑ったのは光塚だった。
ポケットから車のスマートキーを取り出してみせる。
「え、まさか、光塚君──」
「おうよ、オヤジがトラックの運転手でさ、子供の頃から横で見てたしな。それに、今は交通量もないに等しい状況だし、安全運転を心がければ大丈夫だって!」
「んなワケあるかぁっ!」
絹柳のツッコミがあたりに響き渡った。
○
「──って、なんでフツーに運転できるワケ……」
口笛を吹きながらハンドルを握る光塚の横で、絹柳が両手で顔を覆う。
運転席の後ろに座った厳原が呆れたようにため息をついた。
「これはアレだな、父親の運転を見てただけじゃなくて、実際にやってたってヤツだな」
「あ、念のため言っとくけど公道は走ってないからな」
「まあ、それはそれとして事故るなよ。バレたら免許取れなくなるぞ」
「あー、それは困るなぁ──でも、今は非常時ってことらしいし、なんとかなるかも?」
「そーいう問題じゃないーっ!」
ノンキな厳原と光塚の会話に対して、声を荒げる絹柳。
そんな彼女に「まあまあ落ち着いて」と、助手席の後ろから誓矢が声をかける。
彼ら六人は駐車場に止まっていた車の一台を拝借して、青楓学院へと帰還することにしたのだ。
さすがに高校生──無免許の状態で車を使用することに抵抗を持つメンバーも多かったが、光塚が「大丈夫大丈夫」と根拠のない陽気さで押し切った結果となった。
また、駐車場には物資を満載したトラックが何台もあり、放置しておくのはもったいないとも思ったのだが、今はどうすることもできない。とにかく学院へ帰ることを最優先としていた。
「で、そろそろ聞かせてもらってもいいかしら──氷狩君の力のこと」
最後部座席から風澄の声が上がる。
一瞬、車内が静まりかえった。
「……うん、上手く説明できるかわからないけど」
誓矢はそう前置きして話し始める。
自らの力をセーブしていた理由──怪物とはいえ、元は人だった存在を消滅させることに抵抗があったこと。
その上で、あれだけの強大な力を持つことが周囲に知られたとき、どんな扱いを受けるか不安だったこと。
そして、その力の根源が上級神とされるフェンリルに由来するらしいということと、ガーディアンズを含め、能力を発現させた学生たちの力は異世界の神々が宿った結果だということを正直に話した。
「──氷狩君の言うことが正しければ、私たちに宿っている神様の力はそれほどでもない、ってことなのね」
口を開いたのは森宮だった。
「フェンリルっていう神話上の存在がいることは知っているわ」
北欧神話の中でも強力な神とされる有名な存在。
森宮は小さくため息をつく。
「自分だけが最強の力を持ってるって、普通なら適当なライトノベルでも読んでなさいって、突き放すところだけど」
「あんな力を見せつけられちゃったあとだとね……」
森宮に続いて風澄も息を吐き出す。
重々しい空気に包まれた車内──でも、それを陽気な声が吹き飛ばす。
「って、気にすることないんじゃね。単純に強い味方が増えたってことじゃん?」
それは運転席の光塚だった。
「確かに今まで隠していたことには、水くせーと思うけどよ」
バックミラー越しに明るく笑う光塚の目元が見えて、誓矢は急に気持ちが楽になったように感じた。
光塚もまた誓矢の表情を確認したのか、ホッとした口調で言葉を続ける。
「過ぎたことはしかたないからな。学校へ戻ったらちゃんと報告して、これからバリバリ働けば良いんだって」
「まあ、そうだな」
「最近は怪物たちの動きもどんどん活発になってるみたいだしね、正直、心強いかも」
「フェンリルのこと、帰ったら、もうちょっと詳しく教えてね」
「同じ遠距離タイプの武器だしね、連携とか考えてみると面白いかも」
厳原の相づちに続いて、絹柳、森宮、風澄の女性陣が、まじまじと誓矢へと視線を向けた。
そして車内に巻き起こる笑い声。
──このあと、誓矢たち一行は、途中巡回中の自衛隊の一隊と出会い、ひとしきり説教されたものの、無事青楓学院へと送り届けてもらえることになった。




