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第14話 「俺たちは人を助けるために戦ってるんだもんな」

 総理大臣の記者会見から一夜が明けた次の日、国内の混乱が爆発した。

 まず起こったのが、避難所に駆け込む人々の姿である。

 怪物化の原因が怪物自体にあることを国が正式に認めたことにより、国民全体に怪物に対する恐怖が現実としてつきつけられた形になる。

 今まで様々な理由で避難所を避けていた人々が、命の危険から逃げるために殺到するのは当然のことであろう。

 行政側もそのことはある程度予想はしていたはずだったのだが、事態はその見込みを大きく上回った。


「──ダメです、ここの避難所はもういっぱいで、これ以上の受け入れは不可能です!!」


 押し寄せる人々を前に、悲鳴のようなアナウンスが投げかけられるが、激しい怒号(どごう)にかき消されてしまう。

 係員の制止を振り切って避難所内へと雪崩(なだ)れ込む人々、だが、その前に立ちはだかったのは、すでに避難所で生活をしていた人々である。睨みあう人々、一触即発(いっしょくそくはつ)の雰囲気があたりを包む。

 このような光景が、全国各地の避難所で繰り広げられていた。

 一方で、国に頼らず、別の方法を採る人々もいた。


「新人類、いや、異能者(いのうしゃ)こそ世界の変革の象徴なのだ!!」


 そう叫ぶ人たちが頼りにするのは霧郷(きりさと)率いるガーディアンズであった。

 確かに、怪物を消滅させるのではなく、撃退することしかできない自衛隊や警察に比べて、ガーディアンズたちは能動的に駆逐していくことができる存在だ。人々が、そこに希望を見出すのも当然のことかもしれない。

 だが、ガーディアンズに所属する誓矢(せいや)たちにとって、単純に喜べることではなかった。


「避難民を受け入れる場所が全然足りないのよ」


 沙樹(さき)がガーディアンズの幹部の一人に詰め寄っている。

 この青楓学院(せいふうがくいん)にも、避難希望の人々が次々と訪れるようになり、それ以上に、避難したいという連絡が全国各地から寄せられる始末である。

 霧郷の名声による副作用でもあるが、そもそもガーディアンズへの期待の表れであり、全国各地の学校も同様の状況に陥っているという。


「だけど、僕たちを頼ってくる人々を無下(むげ)に追い返すわけにもいかないだろう?」

「そうだけど……」

「避難してきている人たちの中には赤ん坊を抱えた家族やお年寄り、障がいを持つ人など弱い立場の人も多い、そんな彼らを追い返すなんてできないよ」

「それは……」


 現実を語る沙樹に対して、理想で返答する幹部生徒。最初から話がかみ合わない。

 結局、沙樹は不毛な議論に疲れ果て、妥協してしまう。


「しかたがないけど──生徒のみんなには部室棟へ移ってもらって、教室棟と体育館は全て避難民の方々に開放しましょう」


 学院を運営する生徒と教職員を集めて協議する沙樹。以前、中心的立場だった菊家(きっか)が不在になってからは、自然と沙樹がその立場に代わりつつあった。

 また、そんな彼女をサポートするユーリの存在も大きかった。貴公子のような外見とは裏腹に口も悪く、態度も控えめとは言い難いのだが、なぜか他人に好かれるタイプの人間で、巧みに集団を動かすことができた。

 そして、誓矢。


「一匹右へ逃げたっ、氷狩(ひかり)頼むっ!」

「わかった──っ!」


 大きな公園の一角で、赤黒い光を帯びた棒を振りかざす光塚(みつづか)の背中合わせに立った誓矢が、右手の銃から青白い光を放つ。


「──シギャァッ!!」


 短く絶鳴(ぜつめい)を放って怪物が光の粒と化す。


「油断するな、まだ来るぞ!」


 そう叫んで足を踏み出しつつ、棒を振り回して怪物を叩きつぶしていく光塚。

 誓矢はできるだけ光塚が一対一で怪物に対峙できるよう、確実に一匹ずつ仕留めていく。

 今、この公園にいる怪物は十数匹といったところで、誓矢が本気を出せば一瞬で終わるのだが、ユーリの助言もあって、可能な限り力はセーブするということに決めていたのだ。


「よし、これで最後っ!」


 光塚の一撃に沈む最後の怪物。

 得物の棒を肩に載せ、ニカッと笑ってみせる光塚。


「サンキューな、氷狩。お前のフォローだと凄く戦いやすい気がする」

「それはこっちもだよ」


 そう言って掲げた誓矢の手に、光塚がポンと手を合わせた。


「さてと──もう大丈夫ですよ」


 その声に茂みの影に隠れていた数人の集団がおずおずと近づいてくる。

 偶然出くわした避難民の一行だ。


「スゲー、兄ちゃんたちカッコイイ!!」


 幼い少年が目をキラキラさせて声を上げるが、母親と見られる女性が口を押さえる。

 そんな様子をスルーしつつ、誓矢が問いかける。


「それでこの先どうしますか? ここから一番近いのはうちの学校ですけど……」

「あ、いえ、できれば、国の避難所へ向かいたいのですけど……」


 そう応える壮年の男性の表情には怖れとへりくだるような色が浮かんでいた。

 光塚と顔を見合わせる誓矢。

 ここ数日で、急速に人気が高まりつつあるガーディアンズではあるが、逆に恐怖や反感を抱く人も少なくなかった。

 いくら脅威とはいえ、元は人間であった怪物を容赦なくゲーム感覚で狩り立てていく学生たち。そんな印象を持つ人々にとって、ガーディアンズは忌避(きひ)すべき存在だったのだ。

 この集団にその雰囲気が漂っていることを察した誓矢は努めて温和な態度で接することにした。


「わかりました。ここから近い避難所までは少し距離がありますけど、そこまでお送りします」


 その申し出に安堵の表情を浮かべる大人たち。誓矢たちに対して隔意はあれど、怪物の危険から守ってくれるということには感謝しているようだ。

 一方で、誓矢ほど簡単に気持ちを割り切ることができないのか、光塚が複雑な表情を浮かべている。

 だが、誓矢に肩を叩かれて気持ちを切り替えた。


「……そうだな、俺たちは人を助けるために戦ってるんだもんな」


 ──人を助けるために戦う。


 迷いを振り払った光塚に先頭を任せ、自らは最後尾についた誓矢は口の中で光塚の言葉を繰り返した。


「そう、僕たちはみんなを守るために戦うんだ」


 ガーディアンズ、そしてその一員である自分たちの存在意義。

 かつて人だった怪物たちをその手にかけることの意味。

 正直揺らぐことがないといったら嘘になる。


「だけど、立ち止まるわけにはいかないんだ──きっと」


 誓矢はぐっと顔を上げる。

 その視線の先に広がる雲ひとつない空は、青く澄みきっていた。

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