第11話 「気にならない──というか、考えたくない」
霧郷の号令とともに、組織化されたガーディアン──力を発現させた生徒たちは本格的に怪物たちの駆逐作戦を進め、まさに連戦連勝といった勢いで、その勢力範囲を拡げていく。
誓矢もまた、ガーディアンとして他の仲間たちとともに、二人一組の編成で学校近辺のパトロールに出ていたところだった。
「このあたりは、もう大丈夫そうだな」
一歩前を歩いている光塚 貴成があたりの様子を探りながら声をかけてくる。
ガーディアンズの一員として活動に参加するようになった誓矢は、この光塚と行動を共にする機会が多くなっていた。
力の発現がみられなかったユーリと沙樹は、一般生徒としてガーディアンズの後方支援にあたっている。
本当なら、その二人が一番頼れる存在だ。
だが、ここ最近、ともに行動することが増えてきた光塚についても、もともと同じクラスの仲間で比較的好意的な関係にあったということもあって、ある種の安心感を持てるようになっていた。
「そうだね、もう残ってる人もいないはずだって商店街の人も言ってたし」
ちらりと視界の端に入った神社の光景に、あの夜から誓矢と行動を共にし続けている狐神ヤクモとスズネ、二人の話が思い返される。
「眷属に襲われて魂を奪われた人間は【眷属化】して、さらに人間を襲うようになる」
その話が本当なら、一般市民を完全に避難させれば、そのエリアは安全になるのかもしれない。
誓矢はそう思うのだが、現実はそう簡単ではなかった。
政府の発表によると、各地の避難所に退避しているのは全国民の四割に満たない状況だとか。特に、地方よりも都市部の方が避難率が低い傾向にある。怪物の脅威をイマイチ実感できていない国民も多く、避難所での窮屈な生活や、保たれないプライバシーなどの問題を忌避する人も多くいるということだ。
一方で、怪物の襲撃による被害は無視できない状況となりつつある。自衛隊や警察が対応にあたっているが、日本全土をカバーするには至っていない。まだ未確認ではあるが、地方の集落などでは連絡がつかなくなっているところもあるらしい。
そのような状況の中、急速に注目されつつあるのが、誓矢たちのような力に目覚めた少年少女たちの存在である。
「今や、俺たちガーディアンズが、この国の運命を握っているようなものだからな」
学校へと帰還する途中で、光塚が誓矢へと嬉しそうに声をかけてくる。
霧郷率いるガーディアンズは本拠としている青楓学院高校の枠を飛び越えて、首都圏だけではなく、全国各地の学校に拠って怪物と戦っている生徒たちと連絡網の構築を済ませている。そこから、さらに行動レベルをあげ、各学校との連携も視野に入れて動きつつあった。
この一連の動きは、すべて霧郷が主導しているようなもので、そのカリスマ性は誰もが認めるところである。
「……そうだね」
誓矢は短く相づちを打ったあと、少しためらってから光塚へと問いかける。
「ねえ、あの怪物たちの正体、光塚君は気にならない?」
「気にならない──というか、考えたくない」
足を止めた光塚は視線を下へと落としながらも、一言一言を噛みしめるようにして誓矢の問いに答える。
「もちろん、あの怪物たちは人間が変化した可能性──いや、たぶんそうなんだろうって正直思ってる。だけど、今、それを考えてしまったら俺は戦えなくなるだろうし、他のみんなを守れなくなってしまうと思うんだ」
そういって見せる光塚の笑みに、誓矢は今この質問をしたことを後悔した。
「……ゴメン、今、こんなこと聞いちゃって。なんというか、その、とても無神経だったと思う」
「まぁ、あまり気にすんな。俺は大丈夫だからさ」
軽く手を振って歩き出す光塚、その後に続きながら誓矢は少し考え込む。
怪物たちを本気で排除するのであれば、その発生源を断たなければならない。この場合の発生源とは人間だ。そうなると、人々を安全な場所に集めた上で、集中的に怪物たちを駆逐していく必要がある。
一方で、人々を集めた場所──避難所が本当に安全な場所か、という問題もあった。万一、その避難所が怪物の襲撃に遭い、守りきれなかった場合、大量の怪物が生み出されてしまう可能性もあるのだ。
そもそも、人口が多い都市部こそ、なんらかの対策を早めに打たないと怪物の発生は止められない。
「ああ、もう……僕にはどうしようもできない」
無意識に髪の毛を搔き回してしまう誓矢に、前を歩く光塚が振り返らずに声をかけてきた。
「あまり考え込むなよ。氷狩たちが色々と考えたり、動いたりしていることは知っているけどさ」
それは、誓矢やユーリ、沙樹たちが、ことあるごとに霧郷たちガーディアンズの幹部たちと対立していることを心配しての言葉だった。
怪物の正体や、それに対する対策。さらには、力を持たない一般生徒とガーディアンズの対立や、青楓学院高校で抱える避難民への対応。そういった様々な動きや考え方に対して、最近──特にユーリの反発が目立つようになっていたのだ。
「氷狩はまだ空気を読めるけど、ユーリのヤツは頭に血が上ると手がつけられないからな。ちゃんと手綱を握っておけよ」
冗談めかして笑う光塚に、誓矢は苦笑して返した。
「うん、ありがと。努力してみる」




