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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
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1-1-6 お店の日常6

一週間空いてすみません。

この幕の中心の話です。

 四時頃、レイヤの抱えた相談も重要な内容は消化し終えていた。

 今はルルの用意したお茶を飲みながら、アズリー、ダイダ、レイヤは雑談を交わしていた。

 お茶を用意したルルは、孤児院の手伝いに出かけていた。

 玄関の鐘がお店の中に響いた。


「すみません。誰かいますか?」


 若い男性の声だった。

 アズリーは会話をやめて、玄関に向かう。

 そこには、真新しい軍服を着た人がいた。


「こんにちは、マイオソティスはこちらで間違いないですか。」


 戦闘を経験したこともない、まだ少年らしさが残る顔つきの来客は、きっちりと身を正し、話しかけてきた。


「こんにちは。はい、間違いありません。いかがなさいましたか?」

「実は隊長に一度ここを訪ねるよう言われまして…。」

「わかりました。客間に案内しますね。」




 このお店は軍の中にも広く知れ渡っていた。

 中には部隊を率いる隊長が新兵に勧めることも多かった。

 この青年兵もその中の一人だった。

 アズリーは来客を客間に案内した。




「どうぞ、こちらに座ってお待ちください。」


 アズリーは青年兵に声をかけると、客人に出すための紅茶を用意しに向かう。


 紅茶が出来上がり部屋に向かうと、青年兵は珍しいものを見るかのように部屋の調度品を眺めていた。

 アズリーが紅茶を差し出すと、青年兵は「ありがとうございます。」、と感謝を口にして、一口付ける。

 紅茶を口にした瞬間、青年兵の目が開かれる。

 続けさまに二口、三口と紅茶を飲み、半分くらい飲んだところで、カップを置いた。

 年相応の姿を見ていたアズリーは、さっそく仕事にとりかかった。


「このお店は遺品収集店でございます。お客様が戦場で亡くなった際、戦場からお客様の大事に身に着けていた装飾品や、事前に準備した遺書を残されたご遺族にお渡しする仕事をしています。」


 青年兵は少しびっくりした表情を浮かべた。

 まさか隊長が行くよう勧めたお店が、少々不吉なお店だとは思ってもみなかったのだろう。


「詳しく教えてくれませんか?」

「戦死した兵士の遺族に帝国政府から渡されるのは、死亡日時とお悔やみの言葉が書かれた紙と僅かな遺族金だけです。突然家族を失った遺族は喪失感や悔恨に襲われます。中には自殺を図る方や病を患う方もいます。私たちは少しでもそんな方々を助けるために、日々この仕事をしています。もちろん私たちも誰も死なないことが一番いいことです。」


 アズリーがさらに言葉を紡ぐ。


「いま私たちが請け負っている仕事の内容は、遺品の回収と死体を火葬です。お値段は遺品回収のみですと金貨一枚、火葬を含めると金貨十枚となります。いかがなさいますか?」


 兵士の月給は新兵だと金貨一枚で、依頼料は一月分のお金がかかる。

 しかし衣・食・住が保証されており、武具も軍から支給されるため、多くの兵士がお金を使い余していた。

 もちろん家が困窮している兵士は余った分を仕送りしているが、金貨一枚を払う余裕はあった。

 火葬を行う場合は、火葬に必要な聖油の購入代、しっかりとした手順をこなす手間暇、危険性の増加のため、高額な値段を設けていた。

 それでも富豪の兵士や敬虔な信者の家庭の兵士は、火葬を依頼してきた。


「遺品の回収をお願いします。」


 青年兵はしばらく悩むと、手持ちを確認して自身の意思を伝えた。


「分かりました。金貨一枚頂戴できますか。」


 アズリーが訊ねると、青年兵は金貨を一枚取り出し、アズリーに差し出した。


「ありがとうございます。それではこちらにお名前と実家の住所の記載をお願いします。合わせて必ず回収してほしい品がありましたら、その下に外見を書いてください。」


 アズリーは部屋にある棚から紙とペンを取り出し、青年兵に差し出す。

 青年兵は丁寧な字で言われたとおりに紙に書いていく。

 その途中、一度手を止める。

 首元のボタンを外し、首にかけたネックレスを取り出した。

 彼が肌身離さず身に着けている大切なものだった。

 青年兵はネックレスを外すことなく、その特徴を記載していった。


「これで問題ないですか?」


 青年兵はアズリーに書いた紙を渡す。


「はい、問題ないです。それではこちらを受け取ってください。」


 アズリーは細いブレスレットを青年兵に差し出す。

 そのブレスレットには細かな文字で刻印がされていた。

 青年兵は文字を読もうと目を細める。

 しかし見たこともない文字で、解読不能だった。

 アズリーは腕輪の説明を始めた。


「この腕輪は装着者が亡くなった時、装着者の体内の魔素を使って特定の信号を発信する刻印が彫られています。私たちはこれを頼りに遺品の回収をしています。可能な限り身に着けていてください。またこの腕輪を失くした場合、再度渡すことはできませんのでご注意してください。」


 青年兵は差し出された腕輪を手首に通す。

 腕輪は窓から入った光を反射し、白金色に輝いていた。


「それとこちらには遺書を書いてください。」


 アズリーは数枚の紙を差し出す。

 その紙は先ほど青年兵が名前を書いた紙よりも上質なものだった。


「遺書ですか?」


 青年兵はアズリーの言葉に困惑した。


「はい、遺書です。ご両親でも構いませんし、故郷の友人、恋人でも構いません。私は言葉を残すことはとても大切なことだと思っています。どんな言葉でも構いません。残すことが重要なのです。言葉を残すことで、自身の思いを遺された人に伝えることができるのです。ですので、ぜひとも遺書は書いてほしいのです。

 もちろん、これは任意ですし、今書かなくても大丈夫です。この町を出発する前に出してくだされば大丈夫です。」


 アズリーはひと際熱を入れて説明をする。

 その熱意が伝わったのか青年兵は紙を受け取った。


「すみません。参考程度に聞くのですが、ほかの方々はどのようなことを書いていますか?」

「そうですね。半分以上の方が両親に向けて、感謝の言葉を書いていますね。もし詳しく知りたいのでしたら、貴方の隊長さんにお聞きしてはどうでしょうか?おそらく彼もこのお店を利用していますよ。」


 アズリーが答えると、青年兵もハッとした表情を浮かべた。

 このお店を教えたのは隊長だと、思い出したからだった。


「私からお渡しするものは以上となります。何か質問などはありますか?」


 アズリーが訊ねる。


「特にありません。」

「そうですか。これで終わりです。」


 終わりの言葉を告げ、アズリーは席を立つ。

 青年兵も続いて席を立ち、玄関に向かった。




「何か後日聞きたいことがありましたら、このお店を訪ねてきてください。それと遺書の提出をお忘れなく。それでは貴方のご健康とご活躍を心よりお祈りしております。」

「はい、分かりました。今日はありがとうございました。」


 青年兵は別れの挨拶を告げ、真っ赤に染まる世界へ足を踏み出した。


今週あと三話投稿する予定です。

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