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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
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1-3-5 ノコサレタモノ5

今話は一日目の夜の話です。

 次第に空は赤く染まり始め、そして夜の帳が大地を覆いだした。

 黄昏に差し掛かる前にアズリーは撤収の指示を出し、日没までには廃村へ戻った。

 各自で夕飯を取り、自由に夜を過ごしていた。

 アズリーは食事をとり、次の日の予定を二つのリーダーたちと確認した後、一足先に寝床についていた。



 深夜、アズリーは目を覚ました。

 隣ではキリアが抱き枕を抱えて、寝ていた。

 熟睡しているキリアを起こさないように寝袋から出る。

 そして、最低限の身支度と武装をして外に出た。

 建物から出たアズリーを出迎えたのは、涼しい夜風と満点の夜空。

 廃村内に灯された篝火は、消えることなくパチパチと音を立て燃えていた。

 ふと男たちの笑い声が聞こえ、そちらを見た。

 それは、セレスト商会に割り当てた家屋だった。

 恐らく今日も、仲間内で賭け事をしているのだろう。

 彼らにとって、戦場跡で抱えたストレスを発散するためでもあり、アズリーは止めようとは思わなかった。

 明るい雰囲気の彼らの家屋とは対照的に、セシリアの集いに割り当てた家屋はとても静かだった。

 等間隔に篝火を炊いているのだが、少し暗く感じてしまう程、物音ひとつ聞こえなかった。

 その静寂の中を歩き、西の物見やぐらまでやってきた。

 一層明るく炊かれた篝火に照らされたやぐらは、煌煌と照らされていた。

 そのやぐらの下には夜警をしている人たちが、のんびりと話をしていた。

 会話をしている人影の下に近づくと、全員が女性のようだった。

 その中の一人、クレアにアズリーは話しかけた。


「クレア、私が代わるから、少し寝てきなさい。」

「あ、アズリー様。ありがとうございます。というわけで、みんなおやすみ。」


 クレアはあくびを噛み殺しながら、寝床へと歩いていく。


「皆さん、朝までよろしくお願いします。」


 アズリーが話しかけると、残った4人は少し緊張した口調で、それぞれ言葉を返す。


「皆さん、クレアとどんな話していたのですか?」


 緊張を和らげるために、アズリーは優しい声で訊ねる。


「剣術や魔獣のことを聞いていました。」


 斥候(レンジャー)見習いのレナが答える。


「そうでしたか。私の自慢話はしていませんでしたか?」


 アズリーの言葉に全員が苦笑いを浮かべる。


「まったく、あの子ったら。」


 アズリーははぁ、と呆れた声を上げる。

 その時の表情が面白かったのか少女たちがくすっと笑う。


「せっかくですから、私に聞きたいことはないですか?」


 警戒はやぐらに上った人に任せて、アズリーは話を振る。


「アズリーさんってすごく見識だって聞いたんだけど、ほんと。」

「あの子ったら、そんなこと言ったのかしら。…私の場合は、素晴らしい師匠から学ぶことができたからですよ。」


 中剣(ソード)見習いのアリスの質問に、アズリーは少し笑いながら答えた。


「その方ってどんな方?」


 すごく気になったのかアリスは更に訊ねた。


「あいにくと5年前の反乱で死んでしまいました。少し気難しい方でしたが、すごく」


 アズリーは少し懐かし気に語る。

 だがその言葉を聞き、少女たちの間には微妙な雰囲気が流れた。


「そ、そうです、アズリーさんは魔法とか魔術は使えるのですか?」


 雰囲気を変えようと魔導士見習いのビクトリアが質問する。


「ええ、基本的な魔法と魔術は修めたつもりです。」

「ほんとですか。少し教えていただけないですか。」


 食い入るように、ビクトリアはアズリーに顔を近づける。

 アズリーは少しびっくりした表情を浮かべ、思わず一歩後ずさりしていた。


「こら、ビクティ、少し落ち着いて。」


 レナがビクトリアを窘める。


「もちろんいいですよ。少し貴方の魔法を見せてくれませんか。」

「はい、いきますよ。」


 詠唱して放たれた拳大の『火球(ファイア・ボール)』はブレることなくまっすぐに飛び、近くの倒木に的中した。


「何しているの。燃えたらどうするのよ。」

「ごめんなさい。だって、魔法は火属性が得意だもん。」


 レナがビクトリアに再び窘め、ビクトリアは唇を尖らせて、言い訳する。


「ええと、いいかしら。私が見る限り、とても見事な魔法でしたが、何を聞きたいのですか?」


 アズリーは訊ねた。


「私、詠唱破棄ができるようになりたいのです。」

「試したことはあるのですか?」

「もちろんあります。ですが全く発動できなかったです。」

「なるほど、わかりました。まず初めに魔法の行使に、なぜ詠唱型魔術と同様に詠唱をするのか、考えたことがありますか?」


 アズリーが一つ問題を出した。

 ビクトリアだけでなく、少し魔法を使える細剣(レイピア)使いのニーファも一緒に頭を悩ませる。


「すみません、わかりません。」

「ボクも…。」

「少し難しかったかしら?答えは、より魔法を安定して行使できるようになるためです。」


 その答えに二人はぽかんとする。


「魔法を行使するためには、何よりも想像(イメージ)と魔素のコントロールが大切になります。これを速やかに、かつ効率よく行うために、詠唱という手段を用いるようになったのです。」

「つまり、各魔法の想像力を身に着けることができれば、詠唱破棄や無詠唱ができるようになるということですか?」


 ビクトリアの確認にアズリーは頷く。


「もし詠唱破棄を習得したいのなら、まずは一小節減らしてみればいいでしょう。できるようになれば更にもう一小節、という方法で練習を積み重ねていけば習得できると思います。貴方の場合、基礎は出来ていますから、得意魔法でしたらすぐに、そうでない魔法も時間をかければ、習得できると思いますよ。」


 アズリーの言葉にビクトリアは頬を赤らめる。


「はい、ありがとうございます。私、頑張ります。」




 その後も静かな夜が続き、たわいない話を続けていた。

 話が途切れたタイミングでアズリーはどうしても尋ねたかった質問を口にした。


「貴方達は今日…、いえ日付では昨日ですね、一日戦場を歩き回りどう思いましたか?」


 アズリーの問いに四人は表情を暗くさせた。


「…なんと言えばいいのかわからないけど、私はすごく怖かった。」

「…私はおぞましいと感じた。…魔獣討伐で魔獣の解体も経験して、内臓物への耐性がついていたと思っていたんだけど、一日中気分が良くなかったよ。」

「…私も覚悟してきたのですが、それでも戦場は恐ろしいと感じました。」

「…ボクもみんなと同じです。…情けないけど、何回も手が震えてしまいました。」


 四人の言葉にアズリーは少し安堵していた。


「そうですか。皆さんその感情を忘れないでください。」


 アズリーのその言葉に全員が首を傾げる。


「戦場とは日常とはかけ離れたところ。その気持ちを忘れた時、普通の日常には戻れなくなりますから。」


 アズリーはまるで自分が体験したかのように話す。


「…あのボクから一つ聞いてもいいですか。アズリーさんみたいに戦場に慣れるためにはどのように心掛ければいいんですか?」


 ニーファの質問にアズリーは少し顔を下に背ける。


「正直に言いますと、私は戦場に慣れるべきではないと思います。」


 アズリーは自分の考えている本心を正直に話す。


「戦場に慣れるということは、死に慣れるということだと私は考えます。そうなれば、友や仲間の死にすら、悲しみに暮れることもなく、悲涙を流すこともないでしょう。それって一番悲しい事ではないでしょうか?」


 想像したのか、四人は静かに俯く。


「だったらなぜ、アズリーさんはこの仕事を続けているの?」

「死者と、遺族のためです。彼らの死が意味あるために、そして残されたものが次の生活に向かうために、私はこの仕事を続けているのです。」

「アズリーさんはとてもすごいのですね。」


 ビクトリアが四人の気持ちを代弁した。


「…ありがとうございます。」


 徐々に空が白んでいく。

 再び戦場跡に向かう時が、近づいていた。


木曜日に以前投稿して、その後削除した作品を再度編集して投稿します。

タイトルも少し変えて『生と死の天使の箱庭の旅路』と名付けました(変更する場合あり)。

二人の少女による明るい旅の物語です(予定)。

もし気になった方は、読んでいただければと思います。

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