1-3-4 ノコサレタモノ4
三週目の投稿です。
都合上少し短いです。
天気のいい昼下がり、休憩を終えたアズリーたちは再び収集に戻った。
「今年もいますね。」
クレアがそう言って指で指した先には、薄汚れ、ボロボロになった服を着た人の姿だった。
彼らはこの辺りに住む人々の中でも、一段と厳しい生活を送っているものだった。
食料も乏しい彼らが生き残るためには、時に魔獣が現れる危険な戦場から貨幣や貴重品をかき集めなければならなかった。
彼らにとって過去も未来も失い、ただ今を生きるために必死になっていた。
そんな彼らにアズリーたちは、何度かやり取りを試みようとしたこともあったが、近づくと彼らは警戒して去ってしまうため、何もすることができなかった。
「そうね。」
アズリーはそういうと、魔導具に視線を落とす。
その表情をクレアは伺うことができなかった。
戦とは非常に無残なものだと、アズリーは常日頃感じていた。
戦場には老いも若いも関係なく、男でも女でも平等に殺されてしまう。
血気盛んな新兵であろうとも、経験豊富な老兵であろうとも、死の鎌は首元にあり、隙があればその鎌が首を搔き切ってしまう。
そしてそれ以上にこの悲しい事実は、輝かしい幻影によって影に隠れ、忘れてしまう。
今目の前に倒れている死体を見て、幾度となく頭の中に浮かぶこの想いが、また響きわたった。
「アズリー様、どうされましたか?」
他の遺体から遺品を収集していたクレアが、動かないアズリーを見て訊ねる。
「いえ、なんでもないですよ。」
アズリーが対面していた遺体、それは一度セレストの町に戻った時に対応した、あの若い新兵だった。
胸に大きな裂傷を負い、身体のあちこちに踏みつけられた形跡があった。
その顔は苦痛に満ちた表情で固まっており、この世を恨んでいるようにみえた。
「貴方の生きた証、必ず両親に届けますね。」
アズリーは小さくつぶやく。
そして、収集を始める。
大規模な戦場の場合、一つの遺体に多くの時間を割くことができない。
よって、見落としやすくなりがちであった。
それでも、アズリーは可能な限り探し出す。
時には遺体を傷つけることもあるが、遺品を見つけることを最優先にする。
それがアズリーだった。
「どこにもない。」
アズリーが思わずつぶやく。
いくら探しても、彼が身に着けていたネックレスが見つからなかった。
ポーチの中にも、胸元にもなかった。
その原因は想像がついていた。
彼が負っていた胸の裂傷、この傷を負った際にネックレスも一緒に断ち切られたのだろうと。
更に不運なことに、この辺りには多くの遺体が転がっており、発見が困難な状態だった。
それでも、時間が余す限り探した。
「よかった…。」
彼女の中で決めた時間が終わりを迎えた頃、それは見つかった。
それは隣の遺体の下敷きにされ、土に半ば埋もれた状態だった。
幸いなことに汚れているものの、傷はほとんどなく、汚れも拭い取れる程度だった。
アズリーはそのネックレスを丁寧に拭い、箱の中に収めた。
「どうか、安らかに。」
そう言葉を残し、魔導具が指し示す次の遺体の下に向かった。
年末年始で書き溜めたぶんは以上です。
早めに投稿できるように頑張ります。