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Scavenger Princess ~すべてを失った王女の死体漁り生活~  作者: 神無月てん
第1章 お店≪マイオソティス≫
24/26

1-3-3 ノコサレタモノ3

二週目の投稿です。

 戦場の後には様々なものが残される。

 そのほとんどが、遺体や装備、持ち主を失った物である。

 しかし、そうでないものも残されている。

 このような大規模な戦闘の後では猶更だった。




「アズリーさん、ちょっとこちらに来てほしいっす。」


 収集を始めてから数時間、太陽が頂点に近づきつつある時間。

 夏の日差しが乾いた空気越しに、肌に突き刺す頃だった。

 魔導具に導かれて見つけた遺品を収集していたアズリーに、セレスト商会の男が声をかけた。


「どうしたのですか。」


 アズリーは収集していた手を止め、男についていく。

 男について移動すると、彼の相方が、片目と片腕を失った若い男性を看護していた。


「彼は?」


 アズリーが男に訊ねる。


「奴の遺品の収集をしようとしたとき、相方が奴がまだ息をしていることに気が付いたんす。で、私がアズリーさんを呼びに行き、彼が介抱してもらっていたって感じっす。」

「そうですか。すみません、変わってください。」


 男の説明を聞き、アズリーは看護していた男に場所を譲ってもらう。

 そして男の容態を診る。

 怪我を負った男は意識が朦朧としているようで、視線が宙を彷徨っていた。

 呼吸も浅く、脈拍も浅い。

 腕は出血こそ止まっているようだが、黒ずんでいた。

 そしてこれまでの出血量が酷く、顔が青ざめていた。


「どうっすか。助かりそうっすか。」

「キリアを呼んできてください。」


 基本的な医学も王女時代に学んでいたアズリーは、一目見て彼が危篤な状態であると判断し、高度な治療魔術が必要だと考えた。

 当然ながら、アズリーは基本的な魔道学も修めていて、簡単な治療や応急処置に使われる治癒魔法も使うことは可能であった。

 だが、キリアはより高度の魔道学を学んでおり、彼を助けるためには専門的な治療魔術が必要だと判断し、男に呼んでくるように頼んだ。


「少しでも時間が惜しいです。手を貸してください。」


 残っていた男に話しかけ、鞄を取り出す。

 そこから包帯と中級回復薬(ポーション)を取り出し、男に渡す。


「ポーションで半分は腕の傷口にかけて、残りは包帯に湿らせて腕の傷の場所に巻いてください。」


 アズリーはそういうと、魔法を練り上げる。

 フードの下の銀髪が淡く光り、練り上げた魔法を解き放った。

 傷ついた片目に淡い光が集まり、ゆっくりと傷口が塞がっていく。


「終わったぞ。」


 男の言葉に、魔法のコントロールを失わないように、一度魔法の使用をやめて、男が施した処置を確認する。

 やや不格好ながら、しっかりと巻けているようだった。


「次はこのポーションを飲ませてください。少量でもいいので。」


 アズリーが鞄から取り出して渡したポーションは、魔素補給薬(マナ・ポーション)であった。

 治療魔術の効果を高めるためには、被術者の体内の魔素量が多いほうが好ましいからだった。

 男にポーションを渡し、再度アズリーは治癒魔法を行使し、男の治療にあたった。




「アズリー、状態は?」


 十分もしないうちに、キリアは駆けつけてきた。


「かなり悪いわ。目の応急手当は済ませたけれど、腕からの出血がかなり深刻だわ。」


 アズリーの言葉を聞きながら、キリアは担いできたリュックを降ろす。

 そしてその鞄から、様々な薬品や道具を取り出す。


「さすがにここでは輸血は出来ないわね。造血を促す魔術と壊死を食い止める魔術を使うわ。アズリーは目の手当てを続けて。」


 キリアは矢継ぎ早に支持を飛ばす。


「お、俺たちは?」


 蚊帳の外になっていた男が小さな声で訊ねる。


「セシリアの集いを呼んで。それと馬車も。ここで治療した後、速やかに拠点に運ぶわ。」


 キリアが錬金術で作った特殊な粉塵で魔法陣を描きながら答える。


「わかりました。」


 男二人は駆け足で呼びにいった。

 彼らが立ち去ってすぐに、魔法陣は出来上がった。

 ガタガタな地面に描かれたとは思えない、素晴らしい魔法陣だった。

 付け加えるならば、二種の魔術を編み込んだ即席の魔法陣であり、キリアの魔術師、魔導士の力量が高いものであることがわかる、そんな魔法陣であった。


「起動。」


 魔方陣に手を当て、魔法陣に魔素を無垢な力に変えた魔力を流し込む。

 流し込まれた魔力に連動し、魔法陣は輝き被術者の男性に、魔法陣で変換された魔力が流れていく。

 魔術が起動してからしばらくすると、ほんの少しずつだが顔色が良くなっていった。

 腕の状態は包帯でわからないが、優しい光に包まれており、治療が進んでいるようだった。

 ガタガタガタ、と大きな音を立てて馬車がやってきた。


「アズリーさん、どうしたのですか。」


 馬車から降りてきたのは、リーダーであるローガンだった。


「重傷者です。もう少しで応急的な治療が終わるので、終わり次第拠点に運んでください。それと、数名キリアの手伝いをお願いできますか。」

「そういうことですか。わかりました。手当てができる者を二名手伝いに向かわせます。」


 ローガンとアズリーがやり取りをしていると、魔法陣の光が消え、キリアがふうぅと息を吐いて、魔法陣から手を放す。

 そして一息にリュックから取り出した魔素補給薬(マナ・ポーション)を飲み干した。


「終わったわ。まだ完全に治療ができたわけじゃないわ。ゆっくりと乗せて。」


 ローガンとアズリーが協力して重傷者を乗せる。

 そして、ローガンとキリアが馬車に乗った。


「キリア、任せたわ。」

「ええ、わかっているわ。」


 アズリーはキリアに鞄を手渡す。


「なるべく揺らさないようにしてください。」

「わかっています。」


 そう言ってローガンは馬車を動かす。


「貴方達も、お疲れ様。一度休憩を取りましょうか。」


 アズリーが空を見上げると、太陽は頂点に到達していた。

 男たちは頷き、仲間の下に戻っていく。

 その姿を見送り、アズリーも一人収集しているクレアの下に向かうのだった。


来週も投稿します。

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